2018年8月30日 第35号

「ここね、雑草だらけの草むらだけど、下を向いて歩いてみて。面白いものがあるから」ファームに遊びに来た小さな子供たちに向かって、久美子さんが言う。子供たちは、一体、何が出てくるのだろうかと好奇心でいっぱいだ。「あっ!アスパラガスだ!」5月の下旬、雑草に混ざって立派なアスパラガスが、ニョキニョキとキノコのように生えている。「じゃ、これ、今、食べてみて〜」と久美子さんの言葉に、驚きを隠せないのは、子供たちだけじゃなく、同伴している保護者も同じだ。スーパーで購入するアスパラガスをふだん食べている私たちにとって、アスパラガスは茹でて食べる野菜なのだから。言われるがまま、恐る恐る口に入れてみると、まるでキャベツのような食感で、軟らかく、みずみずしい!子供たちも、こんなにおいしいアスパラガスを見つけてしまうと、他にどんな未知の野菜が登場するのだろうかと、ワクワクしている様子だ。そんな大地と自然の恵みを提供してくれるのが、カナダの首都オタワの郊外で、久美子さんとコーリンさんが夫婦で運営するJambican Studio Gardensだ。本紙では、久美子さんからファームの話を聞いた。

 

 

自然栽培でできた色鮮やかな野菜

 

■オタワ唯一の日本人ファーマーが運営するオーガニックファームだと聞きました。

 私たちのファームは、無農薬、無肥料で野菜や花を栽培しています。日本の野菜に関しては、大豆、枝豆、大根、ゴボウ、春菊、小松菜、ネギなどを作っています。またキャベツ、ニンジン、ジャガイモ、サツマイモ、アスパラガス、ビーツなど、日本人やカナダ人家庭で親しまれている野菜も作っています。また大豆から味噌も仕込んでいますよ。自然の循環を信じ、草なども全て刈ってしまうのではなく、あえて生やし、ひまわりなどの花を栽培しているところが、私たちのファームのユニークなところです。

■自然の循環を信じて草をあえて生やし、ひまわりなどの花を栽培するとは?

 私たちは、草が悪いものだとは思っていません。生やしておくことで、いずれかは草が土に還り、草の栄養も土に戻ります。また花を栽培することで、蜂や鳥が畑にやってきて、虫も増えます。畑の生態系を増やし、いろんな命を生かすことで、Diversityな環境をつくり上げています。夫は、「僕たちのファームは、Closer to Wildファーム」と呼んでいます。私たちのファームは、なるべく自然に寄り添ったかたちの自然栽培ファーム(注1)で、環境を配慮した野菜作りをしています。

(注1)「自然栽培」とは自然の循環に任せ、肥料・農薬には頼らない農業方式の呼称。

■なるほど。日本でも注目されてきている自然栽培ファームなのですね。 オーガニックファームにもいろんな種類があるのは知りませんでした。

 オーガニックファームと言っても、いろんなスタイルがありますよ。特に、農業をビジネスにしている場合、当然ながらファーマーの生活もかかっているので、それなりの量の野菜を作らなければなりませんよね。聞いた話では、動物・魚のたい肥や、肥料を使っているオーガニックファームが多いようです。「オーガニック」という言葉の認証を得たからといって、無農薬・無肥料とは限りません。許可されている、たい肥や肥料、農薬もあるらしいです。

■たい肥や肥料そして農薬を使わない自然栽培ファームとして、ビジネスを展開するのは大変ではないですか?

 大変なこともあります。特に、昨年のオタワは冷夏だったので、雨がたくさん降って、畑が乾くのを待ってばかりの年でした。野菜の収穫も少なく、ファーマーにとっては厳しい年でしたね。でも畑にはたくさんの命が宿っています。雑草や虫など一般的に邪魔だと思われるものは、我がファームにとっては、畑の大切な生態系の一部なので、それを壊してしまおうなんて思いません。

 肥料に関しても、使わなくても野菜はできるということが、経験を通して分かってきました。雑草や収穫しきれなかった野菜が土に還り、畑に栄養を与えてくれます。また太陽と雨が一番の肥料だと思っています。だからこそ、ここで収穫される野菜は、味が違います。育てるのに時間がかかったり、大きさにもばらつきがありますが、しっかりと本来あるべきの野菜の味が詰まっていますよ。

 そして何よりも、私たちは、お金儲けのために野菜は作ってはいけないという理念を持っています。ファーマーの気持ちの持ちようで、野菜の育ちようは、変わります。だから、夫にも、イライラしている時には、畑に行くなと言われるくらいです。イライラ感が野菜に伝わっておいしくない野菜ができてしまいます。畑にはエネルギーがあるのです。だから普段、畑に出ると、植物から元気をもらったり、平和な気持ちになったりします。

■久美子さんとコーリンさんの気持ちがたくさんこもったファームなのですね。 だからおいしいと話題になっているのでしょう。

 お客さまは、マーケットや配達で、実際に顔を合わせる人たちばかりなので、誰の元に野菜が届くのか、大体、知っています。だから余計に、食べてくれる人のことを考えながら野菜を育てています。「いい野菜を作りたい!」と、質を重視です。この間、夫の友人が、ファームに遊びにきた際に、レタスとニンジンだけに焦点を当てて、ファームをしたら、お金が儲かっていいのではないか、と言いました。もちろんビジネス目的でファームを回していくのなら、彼の言う通りなのですが、私たち夫婦は野菜作りが楽しくてファームをやっているので、2種類の野菜しかないファームなんて、いくらお金がたくさん入ってきたとしても、とんでもないですね。丹精込めて作った野菜が、みなさまの食卓に届き、喜んでもらえるからこそ、今のファームが続いているわけなのです。

 もちろん、たまに「もう、やめたいな」と思うことだってあります。これから秋に入るにあたって温度が急激に下がるので外での作業が辛くなりますし、人手が足りないので、ファームの仕事が中途半端になってしまうこともあります。中途半端になっている場所なんかは、すごく気になりますが、できる範囲でやっています。またオタワでは、11月から5月の約半年間は、外で野菜を栽培することができません。これも、チャンレンジです。

■ファーマーの生活は、決して、 簡単なものではないですね。

 私たちは、お金儲けのためにファームをやっているわけではなく、今のスタイルで野菜を作っていくことが大切だと思っているので、自分たちの生活に必要な野菜と、CSA(注2)などを利用して普段購入してくださっているお客さまの野菜さえ収穫できれば、十分だと思っています。

 またこのファームが、野菜を育てる場所だけではなく、気軽に足を運んでもらえるような場所でありたいとも願っています。自主保育やイベントなども企画していますので、皆さんオタワに来ることがあればぜひ寄ってみてください。9月半ばには、早速、豆収穫体験イベントです。

(注2)Community Supported Agricultureの略。

■渡辺久美子さんプロフィール
千葉県生まれ。ハーブガーデンで数年働いた後、田舎生活に憧れ山梨県へ。畑を借りて、野菜を作り始め、自給自足の生活に興味をもつ。ニュージーランド、スウェーデン、沖縄で、WWOOFを通してファーム生活を体験し、マクロビにも親しむ。31歳の時にカナダへ。コーリンさんのファームを紹介してもらい、自然に任せた農業という感じの「新しいファームスタイル=コーリン・スタイル」に引き込まれる。現在、夫のコーリンさんと凛和ちゃん(4)の家族3人でJambican Studio Gardensを運営する。 http://jambican.ca/ja/homepage/

(取材 小林昌子/写真 Jambican Studio Gardens)

 

 

花を栽培することで、蜂や鳥が畑にやって来て、虫も増える

 

畑の様子

 

Jambican Studio Gardensの久美子さん

 

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