2018年3月22日 第12号

ジェトロ・トロント主催の日系企業向けビジネスセミナーがバンクーバー市ダウンタウンで2月22日に開催された。

セミナーは3部構成。第1部EY Law LLPクレイグ・ナツハラ氏「最近の賃金動向及び外国人駐在員のビザについて」、第2部ジェトロ・トロント所長酒井拓司氏「NAFTA再交渉の動向、TPP11」、第3部ジェトロ本部(東京)海外調査部米州課課長代理中溝丘氏「在カナダ日系企業経営実態調査結果報告」。

今回は、NAFTAの動向と在カナダ日系企業実態の内容を要約して紹介する。

 

JETRO主催セミナー:左から、JETRO江崎氏、中溝氏、酒井氏、EYナツハラ氏、シャング氏

 

「NAFTA再交渉の動向、TPP11」
ジェトロ・トロント所長
酒井拓司氏

NAFTAについて

 NAFTA(北米自由貿易協定)とは、カナダ、アメリカ、メキシコの北米3カ国で締結されている自由貿易協定(FTA)。1994年1月に発効し、人口4億7800万人、GDP約21兆ドル(世界経済の約3割)の自由貿易地域となっている。

 特徴は、幅広い分野を含む包括的な内容で、協定は全22章で構成されている。また自由化の水準が高く、100パーセントに近い関税撤廃を実現。アメリカ・メキシコ間は例外品目なし。カナダ・アメリカ間は、アメリカ側に乳製品、ピーナッツ、砂糖、綿など、カナダ側に乳製品、家禽肉、卵、マーガリンなど、一部例外品目が設けられている。

 NAFTAは現在再交渉が行われている。2017年8月16日に第一回再交渉会合がアメリカ・ワシントンDCで開始され、2018年1月23日から29日までモントリオールで行われた第六回会合まで終了(セミナー開催当時。現在は第七回、2月26日から3月6日までのメキシコシティ会合も終了している)。

 3カ国は2018年第1四半期の妥結を目指していたが、交渉は4月以降も続く可能性が高い。第八回は再びワシントンDCで4月に予定されている。その後は、2018年6月にアメリカ大統領貿易促進権限失効、7月メキシコ大統領選挙、11月アメリカ中間選挙と続くため、再交渉会合が滞る可能性が出ている。

 第六回交渉までのカナダとアメリカ間での主なポイントは、自動車の原産地規制、NAFTAレビュープロセス、紛争解決条項(ISDS条項Chapter 11)、AD、CVDに関わる紛争可決制度の撤廃、セーフガード発動に関わる加盟国の適用除外の撤廃、政府調達市場解放基準の変更などとなっている。

 

CPTTP(包括的および先進的な環太平洋パートナーシップ協定)について

 日本とカナダが関わるFTAにCPTPPがある。メキシコ、ペルー、チリ、オーストラリア、ニュージーランド、ブルネイ、シンガポール、マレーシア、ベトナムの11カ国が参加している。

 交渉妥結までには紆余曲折があり、まず2017年1月にアメリカのトランプ大統領が就任してオリジナルTPP(12カ国)離脱を表明した。そのため、その後は11カ国で2017年5月からTPP実現に向けた閣僚会合を開催。2017年11月に閣僚会合で「大筋合意」と報道されたが、カナダのトルドー首相の土壇場での欠席により首脳会合が急きょ中止に。2018年1月に東京で開催された高級事務レベル会合で合意、世界経済フォーラム(ダボス会議)でトルドー首相が交渉妥結を発表した。2018年3月8日に11カ国がチリで開催された署名式で署名した。

 CPTPPではオリジナルTPPで合意された項目のうち20項目を凍結。また、協定発効要件もオリジナルTPPにあったGDP要件に代わって6カ国の国内手続き完了要件に変更された。

 カナダ国内の経産業界の反応として、カナダ商工会議所、畜牛協会、豚肉協議会、日本自動車製造業協会などが賛成・支持しているが、カナダ酪農家協会、自動車部品製造業協会、自動車工業会などは強く反発している。

 

その他のFTAについて

 カナダはNAFTA、CPTPP以外にも、多国間、二国間FTA・EPAを締結している。主なものは、欧州連合(EU)と2017年9月21日に暫定発効したCETA、2009年7月1日発効の欧州自由貿易連合(EFTA)、2015年1月1日の韓国との二国間協定などで、ウクライナ、ホンデュラス、パナマ、コロンビア、ペルーなどとも二国間協定を結んでいる。

 

「在カナダ日系企業経営実態調査結果報告」
ジェトロ本部(東京)海外調査部米州課課長代理
中溝丘氏

 1989年から実施している在カナダ日系企業経営実態調査の2017年調査結果について報告(188社中157社回答)。在カナダ日系企業の動向を解説した。

 

営業見通し

 営業黒字を見込む企業の割合は前年比3・0ポイント増の75・3パーセントとなり、6年連続で7割超を記録した。産業別では製造業の輸送用機器・同部品(自動車•二輪車)や食品・農水産加工で、非製造業では販売会社、ホテル・旅行・外食で80パーセント以上となった。

 日系企業の景況感(DI値)も前年比8・7ポイント増の25・0と改善。2018年はさらに上昇している。

 それは雇用にも表れている。過去1年間で現地従業員を増加した企業は36・6パーセント。前年比8・4ポイント増。特に情報通信や、はん用・生産用機器で高い伸びを示した。

 設備投資も前年を上回る企業(金額ベース)が33・6パーセント、今後1〜2年の事業展開についても拡大すると回答した企業が前年比9・5ポイント増の50・3パーセントとなった。業種別では、情報通信、食品・農水産加工などで80パーセント超と高かった。

 

NAFTA関連

 カナダに進出している日系企業にとってNAFTAが重要な位置を占めていることが分かった。

 NAFTA域内での調達率はカナダ国内34・7パーセントを含め61・4パーセントに上った。日本は23・9パーセント、中国は5・8パーセント。販売でもカナダ国内が67・0パーセントを含めNAFTA向けは82・4パーセントだった。

 全回答企業でNAFTAを利用しているのは40・8パーセント、輸入での利用が多い。輸出入企業に限定すると利用率は66・7パーセント。日本からの輸入でCPTPP利用を検討中は47・5パーセントに上った。

 

経営上の課題

 課題としては、賃金(給与・賞与)の上昇が63・6パーセント、米ドル・カナダドル為替リスクが62・3パーセントと高く、コスト上昇の主因として挙げている企業が多かった。その他では労働者の確保、環境規制、日本人駐在員のビザ*が前年に引き続き課題の上位に挙がった。

 日本からの対加投資件数は減少傾向にあり、2012年の13件を頂点に減少し、2017年はオンタリオ州への4件のみとなっている。

 

NAFTAへの関心が圧倒

 トルドー政権の政策に対する関心では、通商、中でもNAFTAへの関心が66パーセントと最も高く、次いで日加FTA35・3パーセント、CPTPP29・4パーセントだった。

 現在再交渉中のNAFTAにより影響を受ける内容としては、通関・貿易円滑化・原産地規制、為替、物品市場アクセスが上位に挙がった。

*これについては第1部で詳細な説明があった。関心がある場合は、Ernst & Yong LLPバンクーバーへ問い合わせを。

 

カナダの自由貿易政策について

 酒井氏は、カナダの自由貿易政策について、自由貿易を推進することでカナダへの投資を促す意図もあるだろうと語った。日本から進出する企業にとっても、CPTPPに締結したカナダは、CETA、交渉中のNAFTAとカナダを通して低い関税によりコストを抑えることができるメリットがあるという。

 カナダへの投資には、発展途上国のように安い労働力はないが、逆に「人件費は高いけれども優秀な労働者がいて、より付加価値の高いものを作って、コストが増える要因をEPAを提携することによって下げ、投資環境としてメリットがあるということで、売り込んでいく。そういう発想でやっていると思います」と分析した。

 

ジェトロ・トロントについて

 ジェトロには日本企業の支援を目的に、法務、労務、税務の専門家によるセミナーを開催し、情報提供するというプログラムがある。ジェトロ・トロント次長江崎江里子氏は、「バンクーバーでは非常に久しぶりに開催させていただきました。JETROではこうした機会に日系企業さんとのネットワークを構築していきたいと思っていますし、みなさんのご支援になるような活動を今後も続けていきたいと思っています。JETROとしてバンクーバーで開催したセミナーに、たくさんの方に集まっていただいてうれしく思っています」と語った。

 また2016年11月にはトロント事務所内に「日加ビジネス促進窓口(Canada-Japan Business Promotion Window)」を設置。同年10月にオタワで開催された第27回日本・カナダ次官級経済協議(JEC)での合意「ビジネス環境の改善・投資促進」において、民間企業の意見を政府間協議に反映させるための窓口として新設された。カナダ政府への「ビジネス環境の改善・投資促進」への意見・要望があれば「ぜひ連絡していただきたい」と語っている。ジェトロはバンクーバーにも事務所を構え、主にBC州の情報収集・提供を行っている(英語対応のみ)。

 

ジェトロ・トロント事務所
120 Adelaid St.W., Suite 916,
Toronto, Ontario M5H 1T1, Canada
Phone:(416)861-0000
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HP:www.jetro.go.jp/canada/

ジェトロ・バンクーバー事務所
Phone:(604)684-4174
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(取材 三島直美)

 

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。