2018年3月15日 第11号

バンクーバーのリステルホテルバンクーバーで3月2日、日本語認知症サポート協会主催の「インフルエンザと次世代ワクチン ー2018年の流行時に備えてー」(メディアスポンサー:バンクーバー新報)と題した講演会が行われ約60人が参加した。

講師は国立感染症研究所感染病理部長の長谷川秀樹博士。講演内容は、インフルエンザウイルスの特性と適切な予防法の理解を深め、有効性の高い次世代ワクチン「経鼻ワクチン」登場への期待を高めるものだった。以下、講演内容の一部を紹介する。

 

講師の国立感染症研究所の長谷川秀樹博士

 

インフルエンザの症状

 英語でフルーと言われるインフルエンザは、インフルエンザウイルスに感染して起こる病気。感染後、3日程度の潜伏後に38度を超える発熱が3〜5日続くことが多く、頭痛、鼻水、咽頭痛、咳に加え、関節痛や筋肉痛も発症することがある。約1週間で軽快するが、乳幼児や高齢者、基礎疾患を持つ人では、インフルエンザによる咽頭のトラブルから体内の細菌を排出できずに、細菌性の肺炎になることがある。また、小児では脳症を起こし、痙攣の後、最悪の場合は死に至ることもある。

 

インフルエンザの感染と予防

 感染は、インフルエンザウイルス感染者のくしゃみなどで飛び散ったしぶきによって起こる(飛沫感染)。感染者がくしゃみをすると、しぶきの水分は瞬時に蒸発し、その空間にインフルエンザウイルスを含んだ細かい粒子がしばらく残る。直接にくしゃみを浴びることがなくても、その空間を通過し、喉や鼻の粘膜にウイルスが付着して感染することが多い。また、そのウイルスがどこかに付着すると、しばらくの間(金属製の物の上では数時間)ウイルスが生きている。そうした付着場所に触れた指で鼻の粘膜や口内に触れて感染する場合もある。

 予防のためには、感染者から2メートル程度離れて過ごすことや、室内の換気をよくしておくことが大事だ。マスクは感染者が着用すれば周囲への感染予防に効果的だが、非感染者が感染を予防する意味では、通常のマスクでは効果は薄く、うがいもインフルエンザに関しては効果のないことがわかっている。

 

なぜ毎年インフルエンザが流行するのか

 インフルエンザウイルスは8時間で子孫を作るため、1年間で1000代もの世代交代が起こっている。これは人間がネアンデルタール人から現代人に進化した3万年での世代交代数に匹敵する。こうしてインフルエンザウイルスは、1年前とは別種と言えるほどの変異を遂げているため、インフルエンザにかかってできた免疫では変異したウイルスに対抗できないのである。  

 

インフルエンザワクチンを接種してもインフルエンザにかかるのはなぜか

 インフルエンザウイルスは鼻や喉など上気道の表面の粘膜に感染するが、従来の皮下注射のワクチンでは血液中に免疫を作ることはできても気道粘膜の免疫増強には働きにくい。そのため現在のワクチンはインフルエンザの重症化は防げるが、感染を予防する力は低い。また流行するインフルエンザにはA型、B型があり、それぞれに二種類のタイプ(株)がある。その年に流行するタイプを予測してワクチンは作られるものの、そのワクチンと実際の流行株が異なってしまった場合には効果が低いものとなってしまうのが現状だ。  

 

次世代ワクチン「経鼻ワクチン」とは

 長谷川さんの研究グループは、ワクチンで鼻腔粘膜上に免疫抗体物質を誘導するために鼻腔に直接噴霧する方法を採用。それにより感染そのものを阻止できる。すでに米国で実用化された経鼻ワクチンもあるが、それは生きたウイルスを使用しているため安全性の面から接種年齢に制限がある。一方、この新型の経鼻ワクチンでは不活性のウイルス(生きていないウイルス)を使用してこの点をクリアした。しかし従来の不活化ワクチンでは免疫を引き出す力が弱い。そのため、解決方法として「ウイルスRNAを含む不活化全粒子」という剤形を採用。それにより、安全性を確保しつつ免疫応答を増強できることを確認した。また新型の経鼻ワクチンで引き出した免疫抗体は、異なる型のインフルエンザウイルスにも効力を発揮し、変異して生まれた新種のインフルエンザウイルスの中和力も高いことが予見できている。

 また「鼻にひと吹き」で接種できるこのワクチンは、注射よりも多くの人に歓迎されるものだ。この理想的な次世代ワクチンは、臨床実験による実証作業を進めており、実用化は3年後という見通しが立っている。

 講演会に参加者からは「インフルエンザワクチンの現状がわかった」「専門家に話を聞ける機会は貴重だった」などの感想が聞かれた。

 

日本語認知症サポート協会1周年記念として

 本講演会開催動機を協会メンバーはこう語る。「当協会は、協会名の『認知症』に限らず、機会があれば医療全般に関する情報を提供したいと考えています。認知症高齢者が増加する世の中もかんがみ、今回、長谷川さんの訪加 (ブリティッシュ・コロンビア州ウィスラーで開催されたバイオ医薬品国際会議出席)の好機に恵まれ、全ての年齢層に感染するインフルエンザを取り上げました」

 企画決定後は、同協会役員およびボランティアメンバーの尽力と在バンクーバー日本国総領事館の後援、隣組、日加ヘルスケア協会、桜楓会の協力、そしてバンクーバー新報ほかのメディア、多数の個人や企業の協力を得て開催された。

 会の後半は、在バンクーバー日本国総領事館の小田島利一領事の挨拶とドアプライズの時間に。協力者から贈られた多くの寄付の品により、プレゼントは参加者全員に進呈され、学びとともに喜びの加わったイベントとなった。来場者を見送る同協会の面々に記者より感想を求めると「当協会は、認知症の人に優しい社会作りのお手伝いができればと願っております。今回の講演会を開催するにあたり、個人、日系企業と繋がりました。この絆を大切に今後、広く深く皆様と手を取り合って、実現に向かって努力できればと思っています。今後ともご支援のほどよろしくお願い申し上げます」と言葉が返ってきた。

 

日本語認知症サポート協会

認知症の人やその家族、認知症の予防やサポートに関心のある人への情報提供と交流を目的に2017年2月に創設設立した非営利法人会。現在主な活動として、ガーリック康子さん、福島誉子さん、辻奈緒子さんが中心となって「オレンジカフェ」を毎月1回開催している。 This email address is being protected from spambots. You need JavaScript enabled to view it.

 

本紙インタビュー:長谷川秀樹博士に聞いたウイルス全般の話

ー私たちが知らないウイルスの姿ー
「ウイルスというと、人間や動植物に寄生して病気を起こすネガティブなイメージが強いですが、ウイルスは生物の進化にとってなくてはならないものです。ウイルスは遺伝子の運び屋であり、胎盤の形成にもウイルス由来の遺伝子物質が寄与しています」

ーウイルスの特性を知って注意をー
「ある種の生き物にとっては共存関係にあるウイルスが、他の生き物に入ったときに害を及ぼすことがあります。例えばアマゾン熱帯雨林に人が入り、養豚場を作ったとする。アマゾン熱帯雨林に生きる生物には無害だったウイルスが、養豚場の豚に感染し、その豚から人に移って病気になるといったことです。事例(ニパウイルス)がありました。エボラウイルスやジカウイルスなどもそのような形で広がりました。普段の生活ではどんなウイルスを保有しているかわからない野生の動物や、具合の悪い野良猫、野良犬などに素手で触れないほうがいいですね」

 インフルエンザワクチン研究の第一線に立つ長谷川さん。忙しい研究生活の合間のオフの時間はスキーやテニスを。日本全国の研究者が集まる病理学会の学会開催時には、学会メンバーでオーケストラを編成し、コンサートを開くという。担当のバイオリンを弾く時間は演奏に必死で、よい気分転換になるそうだ。

 

長谷川秀樹氏プロフィール
医学博士。埼玉県生まれ。北海道大学大学院医学研究科在籍中に、白血病を起こすウイルスの研究からウイルスの研究に入り、国立感染症研究所に国内留学、さらに米国ニューヨーク市のロックフェラー大学、アイルランドのダブリン大学への留学を経験。
現在、東京都所在の国立感染症研究所で感染病理部長を務めながら、インフルエンザの次世代ワクチン(経鼻ワクチン)の開発に従事。

(取材 平野香利)

 

 

インフルエンザウイルスが短期間で大きな変異を遂げる理由は世代交代の速さにあった

 

インフルエンザウイルスに関する最先端の研究内容が紹介された

 

写真左から日本語認知症サポート協会の辻奈緒子さん 、福島誉子さん、 在バンクーバー日本国総領事館の小田島利一領事、長谷川秀樹博士、 同協会のガーリック康子さん

 

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。