2017年11月23日 第47号

ドラッグ、セクハラ、パワハラ、デートレイプ、心の病、性病等…。思わぬ被害に遭ったり、病気になったりして相談する人たちは後を絶たない。 これに対応し、11月7日、バンクーバーの日本国総領事館で『知って得する健康・安全に関するバンクーバー生活情報』と題したセミナーが行われ、約30人が参加した。

 

在バンクーバー日本国総領事館の安全情報を紹介する岡井朝子総領事(左)、写真(右)はサレー・メモリアル・ホスピタルに勤務する岩本喜久子さん

 

総領事館ができることを

 「管轄内にワーキングホリデーで滞在する人たち、留学生、その数1万人強。在バンクーバー総領事館に寄せられる相談事の4分の1は、こうした若い人たちから寄せられています」と岡井朝子総領事。同総領事館が潜在的なトラブル状況を知る手掛かりと、手助けの方法を模索する中、医療従事者など、それぞれの分野の専門家も、本人が声を上げるまでは手助けすることができないもどかしさを同様に感じていることを知った。「ならば一緒に協力してセミナーを」と開催した9月の前回の住宅・仕事契約関連のセミナーに続き、今回が二つ目のセミナー開催。今回はメンタルな問題、薬物・性的被害予防に焦点を当てた。

 情報の密度の濃いセミナーから、カナダ・バンクーバー地域に住み始めて間もない人に役立つ知識に焦点を当てて、内容の抜粋を掲載したい。  

 

ブリティッシュ・コロンビア州の医療制度
VCHミノルレジデンス 渡辺尚子さん  

 BC州での医療費はMSP(メディカル・サービス・プラン)という医療保険制度が運用されている。住民はこのMSPに加入し、個人が毎月保険料を支払う、あるいは雇用主が保険料を支払う形になっている。旅行者は加入できないが、現在、条件を満たせばワーキングホリデービザ所有者もMSPへの加入ができる。医療費は、この月々の保険料で医療費がまかなわれるため、個人が医療機関にかかる都度、支払いが発生することはない。また保険料で入院や出産とその前後のケアについても保険が適用されるが、歯科や目の検査、薬代など一部の医療費は保険適用外となっている。

 日本ならば、もし皮膚のトラブルなら直接皮膚科のクリニックを受診できるが、当地ではファミリードクターもしくはウォークインクリニックで専門医に紹介してもらって初めて専門医による診察を受けられる。医療機関にかかるべきか迷うときは24時間受け付けの811へ電話し、看護師に判断を仰ぐことができる。日本語通訳を頼むことも可能だ。

 

海外生活でのストレスと心の病への対処法
ソーシャルワーカー アンダーソン佐久間雅子さん  

 心身の健康を保つには、ストレスに適切に対応することが欠かせない。ストレス管理にはレスト(休息)、リラクゼーション(癒し、運動、瞑想など)、レクリエーション(活性化—趣味、社交など)の三つのRが役立つ。また、生活習慣を整えることはストレス管理にとても重要。決まった時間に食事を取ることや、心に喜びをもたらすような食べ方を。外での運動は、日を浴びることで脳内のセロトニンが増え、気分が高揚し、ストレスが減り、いい睡眠につながる。有酸素運動によるエンドルフィンの分泌も気分高揚に働く。必要な睡眠が取れているかどうかは、睡眠時間でなく起きた時に疲れが取れたかどうかで判断を。社交による人とのつながりは脳を活性化させ、ストレス解消にもなる。

 もし心の問題で日常生活に支障が出てきたら、迷わず専門家の力を借りよう。直接自分から助けを求める先には、ファミリードクター、メンタルヘルスセンター、依存症センターなどがある。

 生きる気力がなくなり、自殺したい衝動に駆られたら迷わず911に電話を。「ジャパニーズ、プリーズ」と言えば日本語のオペレーターが出てくる。そのほか24時間体制のヘルプ機関などは、後述のウェブサイトのリンクで参照できる。

 

危険ドラッグと薬物依存
ナースプラクティショナー スティーブン橋本さん  

 危険な薬物にはさまざまな形状があり、見た目では判断がつかない。被害事例の一つのパターンは、バーやクラブでレイプ目的で来る客やデート相手から飲み物に薬物を混入されたというもの。そのため、知らない人から飲み物を勧められても飲まないこと、自分の飲み物にいたずらをされないよう目を離さないことが大切だ。

 フェンタニルという薬物は、わずか2ミリグラムの服用で死に至る。違法な薬物は素人が作っているため、意図せずにこうした致死量の薬物が混入することもあり、BC州では1日4人が薬物のオーバードース(過量服用)で命を落としている。

 カフェインも精神刺激剤の一種である。北米で出回っているエナジードリンクには相当な量のカフェインが入っており、数本続けて飲んだことで健康被害の出る場合があるため注意が必要だ。

 マリファナ(大麻)はカナダで来年から合法化との動きもあるが、安易にマリファナを入手し、そのまま日本に帰国すれば逮捕の身。人生を棒に振ってしまうことを強く認識しておきたい。

 

健康なリレーションシップとは
ソーシャルワーカー 岩本喜久子さん  

 健全な人間関係を考える手掛かりとして、自分と身の周りの人との距離を図に表してみよう。物理的に近い存在であっても心理的な距離はどうだろうか。自分の弱さをオープンにできる人はいるだろうか。自分が大事に思う相手は自分を尊重し、対等に接してくれるだろうか。

 相手の言動に理解できないものを感じたら、否定や非難をするのでなく、「なぜだろう?」と違いを探求する姿勢を前面に出してコミュニケーションを。「You」ではなく「I」を主語にして「あなたのすることを私はこう感じた」と表明することが大事だ。

 しかし自分の持っている安全の感覚に照らして、相手の言動に違和感を感じたら、自分の感覚を信頼し、それに従って行動すること。相手と過ごすことが「インスタ映えする」など、表面的なことに目を奪われないようにしたいものだ。

 

セクシャルヘルス、 HIV、性病検査
ソーシャルワーカー 千原晋平さん  

 セックスによりかかりやすい性病にはHIV、梅毒、クラミジア、淋病などがあり、この中には初期の自覚症状のないものが多い。家庭医やウォークインクリニック、病院の救急病棟(ER)(緊急時のみ)で性病の検査を受診できるうえ、STI (Sexually Transmitted Infections性病)の専門のクリニックが存在し、 STIにはMSPに加入していない人でも、匿名や無料で検査が受けられる。不本意なセックスや、HIV感染が疑われることに遭ったら、ただちに病院のERへ。72時間以内であれば、ERで薬の投与を受けることにより感染リスクを減らせる。

 

避妊薬と望まない妊娠
ナースプラクティショナー スティーブン橋本さん  

 避妊薬には、妊娠の防止のほか、生理痛の軽減、生理出血による貧血の改善などの利点があるが、性病の予防にはならないこと、他の薬との負の作用の可能性のあることを認識しておきたい。避妊薬には口から服用するもののほか、パッチタイプ、筋肉注射、IUDという膣内に器具を装着するものもある。また薬ではないが、コンドームには女性が装着するタイプのものもある。

 緊急避妊薬として、セックス後、24時間以内に服用で90パーセントの避妊成功率の薬(名前の覚えやすいものは「Plan B」)があり、処方箋なく薬局で購入できる。

 妊娠の中絶を希望する場合、最後の生理から数えて妊娠10週目までなら、内服薬による堕胎、それ以降24週目までならば外科的な堕胎が受けられ、いずれもMSP加入者であれば、処置のための費用はかからない。

 

日本語で集約された健康と安全のためのウェブサイト開設  

 本セミナーに登場した医療関係者が力を合わせ、BC州、バンクーバーの事情を踏まえた健康と安全に役立つ情報(アドバイス、情報源、医療機関など)を掲載したウェブサイトができあがった。まだできたてのため検索サイトには上がってこないが、有用な情報が満載なので、ぜひ閲覧を。  

BC Japanese Healthcare Providers
https://bcjhp1.wixsite.com/bcjphealthproviders/
https://www.facebook.com/bcjhp1/

 

セミナーを受講して

 参加者からは健康面、安全面に関して「各種のサポート機関が存在することを知って安心した」という声がいくつも聞かれた。それだけでもストレスが軽減すると語る人も。

 総領事館と現場のソーシャルワーカーたちにとっては、「必要な人たちに手が届く方法を参加者からヒアリングする場にもなれば」と開催された本セミナー。ぜひ読者の皆さんも協力し、声を上げてほしい。

(取材 平野香利)

 

VCHミノルレジデンスに勤務の渡辺尚子さんは司会も務めた

 

ロイヤル・コロンビアン・ホスピタルに務める千原晋平さん

 

プロビンシャル・ヘルス・サービス・オーソリティに所属するスティーブン橋本さん

 

学生やワーホリだけでなく、各種の層からの参加となった

 

 

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。