2017年2月23日 第8号

無印良品を展開する株式会社良品計画の代表取締役会長、金井政明氏が2月16日バンクーバーで講演した。テーマは「消費社会へのアンチテーゼと最良な生活への探求」。創業当時から変わらないコアな原則に基づいたこれまでの試みを振り返りながら、未来のビジョンを語った。

MUJIとしてグローバル展開する無印良品は、1月27日からブリティッシュ・コロンビア州バンクーバー市ダウンタウンのフェアモント・パシフィック・リムで開催されているイベント「ジャパン・アンレイヤード」でポップアップ・ストア(期間限定店)を出店している。

今秋には2店舗がバンクーバーでオープンすることもあり、同ホテル内に用意された会場は15分で完売した700席が満席、場外モニターサテライト会場にも500人と高い注目を集めた。その講演内容を要約する。

 

 

「バンクーバーに来たのは初めて」という金井氏。素敵なところなので住もうかとイアンさんに住宅の価格を聞いて「帰ることにしました」と冒頭で笑いを誘った

 

ブランドアンチテーゼを掲げ、無印を立ち上げ

 「消費社会へのアンチテーゼから、最良な生活への探究をずっとしているブランドです。生まれたのは1980年の日本です」と自社を紹介した。その頃の日本はブランドへの関心が強く、ブランド作りにまい進していた。「そんな時代に、ブランドなんか、くそくらえだと言って、ブランドを否定したブランドです」。

 当時、大量消費、大量廃棄は大きな社会問題となっていた。「人間っていうのは、僕も含めて、欲が深くて、人の目を気にする動物です」。

 そして、消費社会の中で、新しいブランドに関心を持ち、新しい流行を常に追いかける生活が増える。「そういったことが、ほんとうにいいことなのかってMUJIは考えた。当時の日本にも、自立して、こういう消費社会に惑わされることなく、自分らしく美しく暮らそうという人たちは少なからずいました」。そういう人をターゲットに商品づくりをし、「その商品にはブランドとか印を付けないで販売しよう、というふうにしたんです」。 それが37年前。「37年経って、やっと今年の秋、このバンクーバーにお店を出せるということです。ほんと申し訳ないくらいに、長い時間をかけてしまいました。昨日飛行機に乗ったら、8時間で着いてしまいました」と笑いを誘った。

 

「役に立つ」を大戦略とする永遠の中小企業を目指す

 「我々の目標は、ずっと中小企業でいたいということです。売り上げとか、店舗数は結果で、精神的にずっと中小企業でいようと思っています」。そんな永遠の中小企業を目指す『大戦略』は「役に立つ」。そのために何が必要か。

 まずは自己価値化を問いかける。消費社会の中で失ったものは何か?「自分たちも家畜化しているって考えたことはありますか?」と問う。人間に家畜化された豚は、人間にとって有益な早く太る能力は伸ばされるが、その他は退化させられる。人間も同様に、現在の社会システムに有益な能力は教育によって伸ばされるが、「本来持っている能力で今の社会にあんまり必要のない能力は退化していると思います」。心の問題も同じ。「現代の社会にあんまり合わない心は退化しているように僕たちは思います」。

 60年前、日本のGDP(国内総生産)が8兆6千億円*の頃、人々は家族やコミュニティで助け合い暮らしていた。(その頃の写真を見せながら)「僕たちはこの写真を見て(思います)、なんて謙虚で、なんて素直で、なんて我慢強くて、それで助け合いながら、子供たちはみんな希望の目なんです」。

 一方、昨年のGDPは490兆円*。約60倍豊かになったが、現代日本人は果たしてどうなのか? 人口減少、高齢化、経済は豊かなはずなのに、心配で、不安で、希望がない。「人間とか消費社会っていうのは、もっともっと、なんです。もっと、もっと、っていう欲、これが結構不幸にするんだと僕たちは思ったんです」。

 だから、「僕たちはもっと皆さんの生活が、簡素に、簡潔で、丁寧で、もっと調和のとれた生活の方がどうでしょうね? という提案をしています。それを我々は『感じ良いくらし』って言っています」。

 

簡素に、簡潔で、調和のとれた生活『感じの良いくらし』の提案

 無印のモノづくりのビジョンは、「『これが』いい、っていうような製品を作らずに『これで』いい、っていう製品を作るようにしています」。世界中の人々が、「が、が、が」と言っている。

 「俺の国が、俺の宗教が、俺の民族が」。それではこの地球は持たない。「だから、『これで』いいっていう価値観を、世界に持っていきたいと思っています」。

 基本は日本でいう腹八分目。「省いて、簡素にして、魅力を作るというモノづくりをしています」。トイレットペーパーはもう1センチ小さくならないか、綿棒はもう少し短くならないかとか。「できるだけ少ない資源で少ないアイテムで汎用性を持たせたいと」。

 現在では、キャンプ事業や住宅事業(無印良品の家)も手掛けているが、コンセプトは同じ。「何もありませんが、自然だけは豊かです」というキャンプ場や、隈研吾氏と手掛けた住宅は「子供が書いた形の家を作りたい」をコンセプトとして、好きな場所に窓を開けられる設定になっている。古い団地のリノベーションや成田空港第3ターミナルの事業にもかかわっている。

 自然と共生するをコンセプトに「ローカルから始める未来を考えています」。美しい里山を守るために頑張っている人たちを「僕たちのウェブでつなげるプラットフォームをつくっています」。一緒に米作りをしたり、廃校を利用してシェアオフィスを作ったり、都会の人が利用できる菜園を作ったり。オフィスは廃材を利用。都会とローカルをつなぐ事業にも乗り出している。

 我々は体を使って労働することをすごく軽くみてきてしまったという反省がある。人間中心社会的価値観が世界的に広がっていったグローバリズムから、自然共生主義やコミュニティ共同体という価値観を「再認識するべきではと考えている」。

 すべては『感じの良いくらし』への提案だ。

 

自然、当然、無印

 これら全ての事業を実現するための組織を図式化すると、頂点に「フィロソフィ(哲学)があって、その後に『役に立つ』という大戦略があって、それを基に、経営計画・ビジョンがあります」。それを実現化するためのアイデアと仕組みを作り、「これをみんなで実行するために、徹底力を持った共同体という組織にしています」。これからの社会で答えを求める時、「技術の枠を超えて心の領域、ここが僕たちは大事だと思います」。

 今年中には海外店舗数が国内を上回るという。カナダにはすでにオンタリオ州トロントに3店舗、今秋にはバンクーバー・ダウンタウンとバーナビー市メトロタウンにオープンする。「アメリカでも、中国でも、日本でも、若い人たちの価値観というのが、ほんとに無印を理解して共感される方が増えているというのを感じます」。

 そして「僕たちは勝手に、無印っていうことが、いろんな良心とクリエイティブで、こと(事業)ができるんで、無印は無限の可能性があると言っています。自然、当然、無印」と講演を締めくくった。

 講演後には質疑応答が行われた。無印がブランドとして人々から「ほしがられる商品」となり、それが反消費主義の無印の考えに反する現象になっていることをどう思うかと問われ、そこは気にするところとしながらも、基本的な考え方は1980年からずっと変わっていない、無印が好まれるということは市場が成熟してきたということだと思うし、「MUJIっていうNOブランドがブランド化していることは事実。ほんとに僕がいやだって言ったって、それは変わらないので、僕たちにできることは創業の思想を守りながら、謙虚にモノを作り続けることだと思います」と応えた。

 この日、金井氏を冒頭で紹介したスコット・ホーソーン氏は無印良品を「目的がはっきりしている会社」と一言で表現した。そのホーソーン氏に「MUJIで働いていて一番誇りに思う瞬間は?」と聞かれた金井氏は、「誇りに思うって言うか、それよりも、MUJIで働けた人生がなんて幸せなんだろうっては思う。それは大変うれしい」と笑顔を見せた。

(取材 三島 直美)

 

注釈*:GDPの数字は講演内で示された数字ジャパン・アンレイヤードのMUJI期間限定店は2月28日まで。
japanunlayered.westbankcorp.com/muji-vancovuer-pop-up-store-to-launch-january-27th/

 

 

「ジャパン・アンレイヤード」を主催するウエストバンク代表イアン・ガレスピー氏。金井氏の講演前に無印を紹介。この日は全身「MUJI」に包まれていると笑った

 

 

金井氏の紹介で話すホーソーン氏。無印のペンが非常に気に入っていることを熱く語った

 

 

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