2017年1月26日 第4号

日本文化を紹介する展示会「ジャパン・アンレイヤード(Japan Unlayered)」が1月27日から開催する。会場となるバンクーバー市ダウンタウンのウォーターフロントにあるフェアモント・パシフィック・リムでは、玄関ホールから2階ロビー、さらには併設するGiovane Caféにまで『JAPAN』が広がっている。

展示会を手掛けたのは、日本を代表する建築家の隈研吾氏と、同ホテルを手掛けオーナーでもあるバンクーバーに拠点を置くデベロッパーのウエストバンク社、それとピーターソン社。

アンレイヤードとは、層となっている(レイヤードしている)構造を一つひとつ解体していくこと。幾重の層にもなっている日本文化を、一つひとつ解体するように紹介することが今回のテーマ。触れる、味わう、見る、聞く、香るという五感を通して、伝統的で現代的な日本文化を楽しんでもらいたいという思いが込められている。

今回参加しているのは、MUJI(無印良品)、BEAMS JAPAN、櫻井焙茶研究所、ミシュラン2つ星レストラン分けとく山。そして、「和の大家」と呼ばれ日本のレイヤリング哲学を取り入れてきた隈氏の建築デザインを紹介することにより、衣・食・住で日本文化を紐解きながら紹介している。

 

 

MUJIの店内

 

日本の魅力を再発見

 今回の展示会の仕掛け人、ウエストバンク社イアン・ガレスピー氏はあいさつで、日本に行くたびに複雑で洗練された日本文化に魅了されていったと語った。東京にも事務所を構え、隈氏とも親交が深いガレスピー氏は、隈氏のレイヤリング哲学に焦点を当て、日本文化の魅力再発見のイベントにしたいと語った。

 会場となっているパシフィック・リムの正面玄関を入ると、すぐ右側に隈氏が手掛けた「茶室」が目に入る。そこから2階に続くホールを見上げると、隈氏のレイヤリング技術を紹介するパネルや模型が展示されている。

 隈氏はあいさつで、建築だけではなく、ファッションや生活スタイルまで、日本文化のあらゆる場面でレイヤリングが重要だった理由を、日本の地理的条件にあると説明した。狭い土地の中で、豊かな生活を送るうえでレイヤリングは必要な技術だったと語った。

 こうしてバンクーバーで日本文化が紹介されることに、岡井朝子在バンクーバー日本国総領事は光栄とあいさつした。隈氏がデザインを手がけた、東京で2020年に開催されるオリンピック夏季大会の会場となる新国立競技場が日本文化の展示場となると語り、その隈氏の技術の一部がバンクーバーで紹介されることを喜んだ。またMUJIとビームス・ジャパンの出店はどちらもバンクーバーでは初出店と紹介した。

 

バンクーバー初出店MUJIとビームス・ジャパン

 海外ではMUJIブランドで展開している無印良品が期間限定ストアをこの展示会の期間に合わせてオープンする。無印良品の親会社、良品計画の取締役欧米事業部部長岡崎令氏は、現在29カ国、国内400店舗以上、海外でも400店舗以上を展開する無印良品が、今回初めてバンクーバーで出店し、今年中には2店舗をバンクーバーにオープンすると語った。

 同店はカナダではすでにトロントで3店舗をオープンしている。MUJIカナダ社長秋田徹氏は、「ようやくバンクーバーでも出店します。今までお待たせいたしました」と笑顔で語った。

 今回の期間限定ストアについてはできるだけバンクーバーの消費者の志向をつかみたいと語り、意見を聞かせてもらいたいと語った。予約制になった理由については、トロントのオープン時に来店客を寒い中待たせてしまったという反省から、今回の店舗がかなり狭いこともあり、仕方なくこの方法を取ったと説明した。

 2店舗のオープンは、「クリスマスまでには」と秋田氏。バンクーバーからの「早くオープンしてほしい」という声は大きかったと語り、トロントにオープンするたびに「またか」の声が聞こえていたと笑った。ここまでバンクーバーでのオープンが延びた理由をスペースの確保が難しかったと説明したが、オープンする店舗はトロントよりも広くなるということだ。

 ビームス・ジャパンは、2016年4月にビームスが40周年を迎え、これまで海外の良さを日本に伝えていたが、これからは日本の良さを世界に伝えたいと始めた新たな試み。昨年はヨーロッパで期間限定ストアを展開し、今年最初に北米初出店をバンクーバーで果たせて「とても喜んでいます」と、ビームス代表取締役社長設楽洋氏があいさつした。

 「自然と都市が融合したリッチなライフスタイルを営む人々に向けて、日本のセンシティブな感性がどういうふうに伝わるのか楽しみにしています」と設楽氏。ビームスの目で選んだ日本の感性を感じ取ってもらいたいし、味わってもらいたいと期待した。

 

「挑戦的なことが大好きだから」‐隈研吾氏‐

 1泊2日の強行スケジュールで今回のオープニングに参加した隈氏。自身の作品の展示場を見て、「自分のエッセンスがこんな形でホテルのロビーでやってもらえるなんてありえないと思ってるんですけど」と笑った。

 2階のロビーは隈氏のこれまでの作品やそのフィロソフィーがパネルで紹介されている。「こんな形での展示会って珍しいんですよ。普通は展示会って模型があって、建築物っていう感じなんだけど、ここは何か僕のフィロソフィーを見せるようになってるから。僕自身、自分で見てて、すごく新鮮な感じがして」

 仕掛け人はガレスピー氏。「日本のこともよく分かってるし、僕らのフィロソフィーのこともよく分かってるなって」

 初めて一緒に仕事をするきっかけは4年前のハワイのプロジェクト。結局、このプロジェクトは実現しなかったが、「面白い人だなって思って。すごいアーティスティックで、文化的なデベロッパーだなって。日本にはそういう人あんまりいないから、この人とはまたやりたいな」と思っていたら、バンクーバーでのプロジェクトに声を掛けられた。

 そのバンクーバーの印象はというと、20年前に来た時は「田舎だなって思ったけど」と笑ったが、2年前に来た時は「街がすごい楽しくなって」。世界中の人がここに魅力を感じるのがよく分かると語った。

 街の作りも、「新しいアーバンデザインの仕様がたくさん入ってるから、ちょうどこれからのモデルになるんじゃないかなって思いますね」。

 そんなバンクーバーでもモデルになると思われる建築物、アルバーニ・プロジェクトに今参加している。43階建の高層コンドミニアムだが、下の部分がくびれていて独特の形をしている。「庭と建築とミュージアムみたいな縦割りになったものを統合した作り方になってるから、すごく面白いものになると思いますね」。その模型も展示されている。

 ガレスピー氏が面白い企画で「どんどん誘ってくる」と笑う。「彼はどんどん新しいこと考えて僕らに振ってくるから。僕らは小さいことでも挑戦的なことは大好きだから、イアンさんとやっているとそういう挑戦的なことができるので」と楽しそう。

 建築家としてバンクーバーの魅力は、「縦割りをなくして、建築の境をなくして、いろんな意味で境界がない、国境もない、自然と建築の境界もないっていうのはバンクーバーではないかなって思いますね」。これからもバンクーバーとのつながりは切れることはなさそうだ。

(取材 三島直美)

Japan Unlayered 展示会
会場:Fairmont Pacific Rim:1038 Canada Place Way, Vancouver, BC
期間:1月27日〜2月28日 午前11時〜午後7時
入場無料

 

 

正面玄関のポスター

 

 

Giovane Caféのビームス・ジャパン商品の展示

 

 

日本のエッセンスをこの展示会で見てほしいと語る岡井朝子在バンクーバー日本国総領事

 

 

バンクーバーには長い日本人の歴史があるが、ここで再び日本の魅力を発信したいとウエストバンク社・イアン・ガレスピー氏

 

 

「もの」の中に文化があるということを伝えていきたいとビームスジャパン代表取締役設楽洋社長

 

 

秋田徹MUJIカナダ社長(左)と岡崎令良品計画欧米事業部長

 

 

あいさつする隈研吾氏。自分のレイヤリングの哲学をバンクーバーでも取り入れていきたいと語る

 

 

隈研吾氏が共同で手掛けるアルバーニ・プロジェクトの模型

 

 

隈研吾氏作品の展示会場(2階ロビー)

 

 

4人揃って記念撮影。左から、隈研吾氏、岡井朝子在バンクーバー日本国総領事、ウエストバンク社のイアン・ガレスピー氏、設楽洋ビームスジャパン代表取締役社長

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。