‐日加間での観光産業ビジネスの現状と展望‐

 

「日本とカナダ間の経済潮流」をテーマにした日本・カナダ商工会議所主催イベントで、今回は観光産業を主軸に「日加間の観光産業ビジネスの現状と展望」と題したパネルディスカッションが6月3日、バンクーバー市コーストホテルで開催された。 パネリストにはバンクーバーの日系旅行産業を代表する3業界4人が参加。航空業界から、日本航空バンクーバー支店営業部担当部長宮内ジェリー氏、全日本空輸株式会社バンクーバー支店長松橋慶典氏、ホテル業界からコーストホテルアジア地区担当営業部長田尻純一氏、旅行業界からJTBインターナショナル・カナダ取締役社長/CEO北川博幸氏、そして、メープルファン・ツアーズ社長別所和雄氏がモデレーターを務めた。 バンクーバーの旅行産業界で重要な役割を担う各氏は、異なった角度から日加間の旅行産業の現状と展望を語った。 会場には約100人が訪れ、興味深い内容に耳を傾けた。今回のイベントは、懇話会、企友会、日系女性起業家協会(JWBA)、JTOA(在カナダ日系ツアーオペレーター協会)が協力している。

 

 

(左から)参加者の別所氏、田尻氏、宮内氏、北川氏、松橋氏

  

「カナダ観光への考察」宮内ジェリー氏

 航空会社の立場からカナダの観光を考察。カナダ観光の歴史、象徴的な観光地、カナダ観光の将来について語った。

 カナダ観光の歴史での重要な出来事は、1960年代では、64年トランスカナダ航空のエアカナダへの名称変更、同年の、東京五輪開催、海外渡航の自由化、そして、JALPAKの設立があり、日本が海外旅行全盛期へ大きく舵を切り始めた。

 翌年、カナダ政府観光局が東京に開設。日加間の観光旅行が本格化し、68年日本航空が羽田バンクーバー線を就航した。

 70年代から80年代は黄金期に入る。71年団体旅行割引運賃導入、74年JALPAKバンクーバー支店開設。75年には日本人独身女性の訪れたい国でカナダが一番人気となった。80年代に入ると、83年のJTBを皮切りに、バンクーバーに次々と日本の旅行会社が支店を開設。87年にはワーキングホリデープログラム開始、航空関係では88年、カナディアン航空が設立され、日本航空とカナディアン航空の成田トロント共同運航が開始された。

 日本でのカナダ観光人気に拍車をかけた理由のひとつに、大橋巨泉氏が司会していたテレビ番組11PMの取材も大きかったと語った。

 しかし、90年代に入ると航空業界に逆風が吹き始める。92年IATA既定の最低価格料金廃止にともなう航空券の値崩れ開始、日本ではバブル崩壊。2000年にはエアカナダとカナディアン航空が合併、そして、2001年同時多発テロで旅行者数は激減、追い打ちをかけるようにカナダではサーズが流行するなど、観光客が減少する事柄が続いた。

 「航空史的にみると、1980年代はバラ色の時代で、1990年から2005年くらいまでは厳しい時代だった」と振り返った。ただ、観光客の減少はすでに底を打っているとみている。

 今後は、「今までは団体旅行で効率よく観光地を回るということに主眼が置かれていた」という旅行スタイルを「これからは自分がそこで何かをする」ということが目的となる旅が増えるとみている。その中で、教育旅行、スポーツツーリズム、グルメツアーなどが注目されるだろうとしている。

 

イベント冒頭であいさつするモデレーターの別所氏

 

「データで見るカナダの航空事情」松橋慶典氏

 カナダを起点として発着する航空旅客輸送実績は7500万人(2010年データ)で、計算するとカナダ国民一人が年間2回飛行機を利用している計算になる。カナダの主要空港の年間利用者数は、1位がトロントで2900万人、全体の28パーセントを占め、2位がバンクーバーの1500万人で15パーセントとなっている。3位はモントリオール、4位はカルガリー(2009年データ)。これらの上位空港は、日本との直行便が就航している空港でもある。

 「1年3カ月くらい前、ANAがカナダに(羽田空港から)就航すると決まった時、トロントか、バンクーバーか迷った」と語った。数字をみるとトロントの方がいいが、カナダ東部への機材の調達、冬期利用者数などを考慮し、「バンクーバー就航に決めた」と明かした。

 カナダで航空会社を軌道に乗せるには、冬期運行が課題となる。カナダ国内主要42空港の発着便数では1月、12月が最も少ない。これで、冬期に運休しているか、夏期に増便しているかの対策を取っていることが分かる。

 羽田トロント間は、昨年7月からエアカナダが就航しているが、それに伴い、同社は成田トロント間の冬期スケジュールを運休した。今年から就航しているエアカナダの関西バンクーバー線ルージュも、夏期限定となっている。

 一方でバンクーバー空港の発着をみると、全体ではやはり冬期に減便しているが、アジア線はほぼ夏冬変わらず運航している。

 全日空は昨年3月から羽田バンクーバー線を就航。現在は羽田着6時半で、国内線では12都市に同日乗り換えでき、国際線には4都市に乗り換えできる。国際線で言えば、同日乗り換えできる都市への需要がやはり高い。北米成田線は、北米とアジアをつなぐコンセプトがベースになっているが、羽田は北米羽田の単純往復をコンセプトとしている。羽田バンクーバーの冬期運行を考えれば、アジアへの接続が重要になってくる。

 

最後に行われた質疑応答の様子

 

「リフレッシング・ローカルをモットーに」 田尻純一氏

 北米西海岸を中心に、カナダ・アメリカ37カ所で展開するコーストホテルズは、「リフレッシング・ローカル」をモットーにしている。カナダではブリティッシュ・コロンビア州、アルバータ州、イエローナイフ(ノースウエスト準州)、ホワイトホース(ユーコン州)に、アメリカではワシントン州、オレゴン州を中心に、ハワイ州、アラスカ州、カリフォルニア州にもある。

 「リフレッシング・ローカル」とは、そのそれぞれのホテルが独自の特長を活かしてサービスを提供すること。コーストホテルなら、どこに行っても同じ形、同じ部屋を提供するという画一的な味気ないものではなく、その土地の特長を活かした全てのホテルで違った体験をしてもらうことをモットーとしている。

 そのためには、ホテルのあるコミュニティとのネットワークを強化し連携しながら、そこでしか体験できないものを作っていく必要がある。

 現在、ホテル業界は大きなブランドが強大になっているが、特長のあるホテルが生き残るという傾向になっている。宿泊客は、特長のあるユニークなホテルに泊まって面白い体験をしたいと望んでいるというデータもある。他のホテルやホテルチェーンと差別化していくというのが重要となる。

 ホテル業界にも閑散期があり、現在そこを埋めるのに注目されているのが中国からの観光客。2010年、中国政府によるカナダへの観光が正式に許可され、中国からの観光客は急増中。カナダでも中国市場が注目されている。

 

会場の様子

 

「トラベルデスティネーションとしてのカナダ」 北川博幸氏

 毎年イギリスの雑誌「エコノミスト」が発表する世界一住みやすい町に上位ランキングするカナダの都市だが、世界経済フォーラムが発表した旅行・観光競争力レポート2015では10位。1位はスペイン、2位はフランス、日本の9位よりも一つ低い。2014年人気留学ランキングでは、2位アメリカを抑えてトップだが、実際の留学者数ではアメリカにはかなわないというデータがある。

 アジア主要国からカナダへの渡航者数は、2010年までは日本が1位(約24万人)だったが、2011年からは中国が1位で、現在も急伸を続けている。オーストラリアからの旅行客も増加傾向にあり、2011年には日本を越えた。

 日本人の海外渡航者数は2005年からほぼ横ばいだが、日加間では昨年直行便2路線が新規開設、今年も1路線が開設され、航空座席供給量が増加するとともに渡航者数も比例して増加している。2015年は約28万人まで増加するのではないかと予測している。

 日本からカナダへの訪問者の傾向としては、来訪者の78パーセントが55歳未満、最も多いのは20〜29歳の女性で、かつてカナダは熟年層向けとのイメージがあったが、データは違う方向を指している。また、FITマーケットが伸びており、体験型と食事を目的とするツアーが増加、学生マーケットも拡大傾向となっている。

 そうした中、今後、旅行業界が注目するのは、教育マーケットとFITマーケット。修学旅行、語学研修、キッズキャップと教育を目的とした旅行と、大自然型、各種テーマ型、アドベンチャー型といった、観光ではなく体験を目的とした旅行スタイルを好む旅行者が増えると注目している。

 

(取材 三島直美)

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。