コスモス・セミナー 15周年 特別企画

古賀義章氏 講演会 「視点を変えて世界を見る」

 

日本語での生涯学習の集いを提供しているコスモス・セミナーは、同会15周年を記念して5月13日に昼夜二つの講演会を主催した。「視点を変えて世界を見る」と題された夜の講演会のスピーカーは、ジャーナリストであり講談社国際事業局担当部長である古賀義章さん。バンクーバーダウンタウンのコースト・プラザ・ホテルに集まった170人を超す参加者を前に、古賀さんは自身のエキサイティングな体験に基づいて視点を変えた見方を紹介した。ここでは本紙からのインタビューも織り交ぜて、古賀さんが見てきたものを伝えていきたい。

 

 

好奇心と行動力の人、古賀義章(こが・よしあき)さん

  

立ち入り禁止区域で普賢岳噴火を取材

 1991年、長崎県・雲仙普賢岳の噴火。死者の数43名。噴火直後から立ち入り禁止区域に入り、噴煙の吹き出す普賢岳の山頂で寝袋で一夜を明かし、真っ赤に染まった噴火口の様子をカメラに収めた。もし風がなく火山ガスを吸い込んでいたなら、その後の自分の命はなかった。火山灰に埋め尽くされ、すべての生命がなくなった灰色で無音の世界。ここに何度も通いつめる自分。その意味がわかったのは3年後だった。被災地の廃屋に足を踏み入れると、主がいなくなった、その薄暗い家屋の中、土石流で流れ込んだ土砂に植物が芽吹いていた。あの灰色だった大地も5年後には一面が草原となっていた。「被災地も自然界から見れば、新しい生命の宿る場所」—このメッセージを受け取るための取材だったと気付いた。

 

2003年バグダッド

 サダム・フセインが拘束された時期。周囲の反対を押し切って、やってきたバグダッド。夜、銃撃が鳴り響き、爆音にホテルが揺れる。しかしそんな中でも間口の狭いイタリアレストランの中で、ピアニストがビートルズの『ミッシェル』を弾いていた。米軍基地のなかではクリスマスのメールを打つ女性兵士の姿があった。テロが頻発するイラクで、人間の営みの有り様をこの目で見てきた。

 

刺激の国インドで 『巨人の星』インド版を製作

 学生時代、インドに魅了され、4カ月間、放浪。クーリエの編集長時代には3回もインド特集を組み、編集長を退いた2010年には1カ月の休暇を取ってインドへ。

 編集長を長く務める中でうずいてきた現場への欲求。それが国際事業局への異動をもたらした。そこで自ら立ち上げたのがインド版アニメ『巨人の星』の製作プロジェクトだ。「高度経済成長期の日本と現在のインド、そして主人公・星飛雄馬の家族が暮らす長屋とインドのスラム街が重なって見えた」のが企画の発端。

 2013年、日印合作で生まれたアニメの名前は『スーラジ ザ・ライジングスター』。(スーラジは太陽の意味)。まさに現在のインドの象徴である。舞台はムンバイ。野球に代わりプレーするのはインドの国民的スポーツ、クリケットだ。

 インドのアニメ製作会社と古賀さんたち日本側のスタッフは制作を進めるうえで、衝突することも多々あった。たとえば、名シーン、バネを使った上半身強化用の器具『大リーグボール養成ギプス』の登場場面でのこと。当初、インド側がデザインしたのは防弾チョッキと見まがう装具だった。「これではまったくインパクトに欠ける」と古賀さんが意見したが、インド側は「金属のバネは虐待に当たる」と反発。対話中、こちら側の意図がうまく伝わらないもどかしさを感じたが、どこに問題があるのかを根気強く話し合い、イメージを伝えていくうちに解決策が見えてきた。インド側が自転車のチューブを加工した装具のアイディアを提案し、古賀さんも賛同することができたのだ。文化の違いを痛感し、インド側の視点の大切さを知った。

 「ジャイサーデース、ワイサーヴェース」とはヒンディー語の「郷に入れば郷に従え」。それを実感しながらのプロジェクト遂行だった。

 その後、『スーラジ ザ・ライジングスター』は日本に逆輸入されたり、韓国での放映も決まった。日本の文化の海外輸出の新しい形として、日本の中学・高校の社会の教科書にも取り上げられた。

 

自身にとってのインドの意味(本紙インタビューに応えて)

 インドでの取り組みはインド取材でもあると古賀さんは語る。アニメの製作を通して、インドのエンターテイメント産業やスラムを、そしてインド社会を見ているのだという。1986年から追ってきたこの国の変化は、「ガンジス川の流れのようだ」と形容する。「ゆっくりとした速度なので変化はないように見えるけれど、着実に水が注ぎ、巨大な川になって流れている。その巨大なうねりは、ずっと見ていないと見失ってしまう。また、経済発展によって、インドの消費社会が変化し、いままで大切にされていた文化が失われてきていることを寂しく感じますね。例えば、食生活。加工品やインスタント食品が入り込んできています。時間に追われて、食文化にも大きな変化がきていますね」。

 インドに魅了される理由はどこにあるのか。「講演でもお話ししましたが、インドには日本にはない強い刺激がある。刺激的すぎて拒絶する人もいますが、僕はその刺激を自分の中に取り込みながら、次の刺激を求めています。でもそのスパイスが無数にあるので、結局インドとは何なのかを理解するのは難しい。そういう意味では取材しがいがあります」。

 

地下鉄サリン事件から20年—『アット・オウム』を 今年3月に出版

 「あの事件の時、妻は妊娠7カ月でした。その娘が今年二十歳になろうとしています。オウムの信者はその年代が非常に多かった。娘がオウムのような団体に入りたいと言ったらどうやって引き止めるのか。あの時、なぜ若者たちはオウムに惹かれ、なぜサリンをまいたのか」—サリン事件の起きた1995年から3年間、古賀さんはプライベートな時間を使ってオウムの施設に通い続けていた。そこで施設に取り残された写真を見つける。強制捜査の時に施設内部で信者が撮影した写真、そこに写る捜査員はまるで犯罪者に見えた。

 サティアン内外の撮影を続け、熊本県波野村のオウム施設「シャンバラ精舎」のある敷地では、その施設同様に簡素なプレハブ小屋で、真冬に一夜を明かしたこともある。2000年に『場所 オウムが棲んだ杜』として、これらの写真集を出版したが、サリン事件から20年後の現在、あらためて「なぜ」に迫り、『アット・オウム』の本を生み出した。麻原の側近やサリンプラント内部で働いた人物など、さまざまな立場にあった元信者9人からじっくりと聞き出した出家理由や現在に至るまでの心境。そして記録写真の数々と麻原彰光の説法。記者には読後、これまで接してきた情報からは感じ得なかった思いが沸き上がってきた。信者の視点からオウムの世界を描いた作品『アット・オウム(@aum)』—そのタイトルは意味深長である。

 講演会では日本、イラク、インドの3国のほか、フランス、北朝鮮での体験を含めて話を進めた古賀さん。最後に自身の思いを凝縮して、こう締めくくった。「情報過多の時代、印象や憶測での判断が社会の空気を作り、不安感、失望感が日常に蔓延する社会の中で、白か黒かの単純化、善か悪かの二元論的な見方ではなく、視点を変えて考えてみることが大切です」。会場から大きな拍手が送られた。

   * * *

 講演を聞いた鈴木結佳さんは、「ジャーナリストとはここまでするものなのかと、その情熱に打たれました」と語り、原口孝徳さんは「やりたいことに突っ走っている姿」に共感を覚えたという。

 本講演会の開催には、古賀さんの学生時代からの友人であり、バンクーバー在住の写真家・斉藤光一さんとのつながりが大きな架け橋となってきた。斉藤さんの案内でパウエル街やスティーブストンの漁港、日系文化センター・博物館など、日系移民の歴史的場所を巡った古賀さんのバンクーバー滞在の数日間。ここでも古賀さんの目は、バンクーバーの日本人、そして初期の日系移民たちの視点から沸き上がる思いに向けられていた。 「バンクーバーの日系移民に関して伝えられていないことがたくさんあることを知りました」。

 誰もやらないことをやりたい、人と違う視点で事象を追いかけたい、そのあふれるパッションとみずみずしい思いが、これからも世界に希望の芽を見せてくれることだろう。

 

「日本にこれほどやんちゃな方がいてうれしく思います」と感想を語るコスモス・セミナー(http://www.cosmos-seminar.com)主宰の大河内南穂子さん

雑誌『クーリエ・ジャポン』の創刊編集長、インド版アニメのチーフ・プロデューサーとして活躍。『飛雄馬、インドの星になれ!』ほかの執筆や、自身が撮影し製作した写真集『普賢岳OFF LIMITS』の出版など、多彩な経験を持つ古賀義章さんならではのバラエティに富んだ話が展開された

講演会の場でも「視点を変えること」の実践として古賀さん自らカメラを取り出し参加者を撮影

講演の最後にコスモス・セミナーから古賀さんに 花束が贈られた(贈呈者はデトレフセン悦子さん)

帰国前のバンクーバー国際空港での斉藤光一さんと古賀義章さん。1988年、二人が偶然バンクーバーで知り合ったその日に観た映画がU2のドキュメンタリー。東京ドームのコンサートも一緒に観ており、今回の滞在中、バンクーバーでU2のコンサートが開催されたのは奇遇なことだった。滞在中は忙しくコンサートには行けなかったが、お揃いのU2のTシャツでご機嫌な二人(撮影 古賀祥子さん)

講演会当日、古賀さんは弊社に立ち寄り、 バンクーバー新報社主・津田佐江子と対談した

 

(取材 平野香利 写真提供 斉藤光一さん)

 

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