ペットコーナー 連載100回突破

 

写真家 斉藤光一さん

 

連載開始から2年あまり、本紙「今週のワンちゃんニャンちゃん」のコーナーが100回を迎えた。撮影を担当する斉藤光一さんへの質問「100匹の撮影で一番大変だった時は」に対する回答は「全部大変で全部最高!」——。前のめりに面白いことを仕掛けていきながら、地道にコミュニティに貢献する写真家・斉藤さんの仕事ぶり、彼の抱くホットな構想に迫った。

 

 

1.岡田誠司在バンクーバー日本国総領事夫人の寧子さんと広告に登場するデイジーちゃん

  

「最初はカメラを出さずに飼い主さんとの雑談からですね」。飼い主に受け入れられている様子がペットに伝わった頃に撮影開始。そうして何枚か撮ったらカメラのモニターで飼い主に見せる。「かわいい!いい子!いい子!」と飼い主から思わず声が出る。「そんな飼い主さんのハッピーがペットたちのハッピーにつながりますよね。だいたい僕は数を撮るので、やっているうちに飼い主さんもペットもリラックスしてきて、カメラ目線でない写真が撮れるんです」。しかしハプニングには事欠かない。撮りに行ったらモデルの猫がいなかったなんてことも。「天候にしろ、ペットの状態にしろ、過酷な状況に置かれたときほど、それを突破しようと燃えます」(笑)。その過酷な状況を突き抜けるアイディアがひらめいたとき「ゾクゾクしますね」と語る瞳がきらり。

 

 

2.新報で掲載中の斉藤さんの広告。斉藤さんが選んだ英語の格言に翻訳家の船橋敬子さんが日本語訳を、

イラストは竹内祐紀名さん作というコラボレーション作品だ。(毎月第1、2週号パート2に掲載)

  

ペットコーナーの写真を見てそのペットのファンとなったり、他界したペットとの思い出にひたったりする話も本紙編集部に届く。「愛犬や愛猫が見知らぬ誰かの喜びや癒しの存在になっているって、こんないいことないじゃないですか」。こうした読者の反応に触発されてペットの写真集の出版を構想中。その足がかりとして、本紙掲載の自身の広告にはペット写真とひと言の掲載を始めた。(写真2)  

さらに最近撮り始めたのは、飼い主とペットの絆が見えてくるようなショット。写真からは、さりげない日常のなかでのペットとの触れ合いとぬくもりが伝わってくる。愛犬との撮影を依頼したエクレストン希子さんは「斉藤さんは楽しくおしゃべりしている間に撮ってくださいました。和ませてくださるのが上手な方ですね。想像以上の写真に感激しています」と語る。(写真1、3)

 

 

3.エクレストン希子さんと愛犬セイディちゃん。

海辺なら海を写すという常識を外したホワイトロックでの1枚

 

そもそもペットを撮るきっかけを作ったのは、元在バンクーバー日本国総領事大塚聖一氏の伴侶、はるひ夫人だ。本紙で企画した夫人へのインタビュー時に斉藤さんが撮影を担当。その際に、夫人から飼い犬ジゲン君の撮影の依頼を受けた。(写真4) 撮影後、仕上げた写真をプリントしようと、ジゲン君の画像データを持って大手印刷会社へ。するとその会社が「この犬の写真を見本にしたい」と写真集を作成。それが取引先に配布されるという思いがけない展開になった。写真を見て感心し、斉藤さんにペット撮影の道を強く勧めていたはるひ夫人は、この展開に「ほらね」。手応えを感じた斉藤さん、東京のコダック社のギャラリーで個展の機会を得て、「バンクーバーのペットたち」と題した展示を実施。そこに訪れた編集者が、ペット雑誌『Neko Mon』で斉藤さんのペット写真を使って特集記事を組むという、さらなる展開も続き、ペット撮影への半ば使命感とも言える思いに火がついたのだった。(写真5)

 

 

4. ペット撮影の道を切り開くことになった大塚元在バンクーバー日本国総領事夫妻の愛犬ジゲン君

 

5. 日本の雑誌『Neko Mon』に使われた1枚。庭の桜の木をバックにツーツープスちゃん

 

一生の記念となる挙式撮影も斉藤さんの本領発揮の場。今年4月、日本から急な依頼が舞い込んだ。那須高原の地元名士の挙式の撮影だという。依頼主は、かつてバンクーバー内のビルボード広告などの数々の仕事をチームを組んで行った仲間。現在日本でウェディングコーディネーター兼デザイナーとして活躍中であるその人物に加えて、挙式ビデオの担当者も同じく当時の仲間だ。彼らとの友情が、斉藤さんに即答でイエスと言わせた。彼らが斉藤さんに頼んだのには訳がある。挙式後に、カナダのような屋外での撮影ツアーを顧客に提供したいと思ったからだ。日本では屋内での挙式撮影が一般的だが、しかしそれでは面白味が出し切れない。その思いは斉藤さんと一致。すぐに日本へ駆けつけた。挙式当日、カナダでの撮影のように、映画のワンシーンのようでいて、かつ自然な雰囲気の撮影に成功し、新郎新婦のみならず多くの関係者も喜ばせた斉藤さんに「日本でもこのような挙式の野外撮影をもっと広めていきたいですし、個人が写真家を選ぶ北米のように日本の挙式写真家の地位を上げていきたい」との思いが募っている。(写真6)

 

 

6.那須高原の挙式。ホテル初の野外撮影に緊張感高まる中でもリラックスした表情が引き出されて

 

郷里長野県上田城のタペストリーは斉藤さんの情熱と根気強さの結晶だ。(写真7、8)素材となる地元の子供たちのプリント写真約600点のスキャナーでの読み込み、合計2万点以上の画像調整……気の遠くなるような作業である。自分で提案したとはいえ、収入にならないプロジェクトであり、日々の仕事を終えた後の深夜の作業は3カ月に及んだ。その作品を上田市に寄贈し、上田駅の駅ビルに展示されてから今年で10年。母袋創一上田市長によると、かつての子供たちが立ち止まり、自分の写真が一部となったタペストリーを見て懐かしがっている姿が見られるという。「故郷を思う気持ちを若い人たちに」との斉藤さんの思いは実を結んできている。「将来バンクーバーを舞台にしたタペストリーも制作できたら」との構想も。  ボランティアといえば東日本大震災の被災地復興支援JAPAN LOVE PROJECTの活動を撮影してきた斉藤さん。「今も継続して熱心に活動を続ける彼らの姿に頭が下がります」。彼らも斉藤さんに対して同様な思いを抱いていることをフェイスブック上で伝えている。

 

 

7. 上田城タペストリー:上田市のスポーツ団体参加の子供たちの小学生の写真600点を含む約2万7千点の写真を使用。

上田駅の駅ビル内情報ライブラリーで多くの人の目に触れている

 

8. 上田城タペストリーの一部:写真1点1点をスキャンし、色を整え、大きな上田城の写真を構成する画素としている。

一区画の中に同じ部活動の子供たちが入るような配慮も

 

隣組や個人に向けての写真教室にも精力的だ。「一度習えば一生もの」の撮影テクニック。受講者が撮影した写真をもとにしたアドバイスや、構図の取り方、光の使い方など即生かせるヒントが盛りだくさんの教室である。取材中もたくさんの写真テクニックを惜しみなく語ってくれた斉藤さん。ちょっと記者が席を立った隙に録音機材に面白いメッセージを残していたのは彼の仕業だ。優れた撮影技術だけでなく、写真で物語を生み出す感性や、細やかな気配りぶりは周知のところだが、茶目っ気たっぷりで人懐っこいところが、作品だけでなく撮影のプロセスも楽しいものにしていることは間違いない。

 

 

2009年の天皇皇后両陛下の カナダ御訪問の撮影も貴重な経験だ

 

ファッション写真の撮影もこなす

 

 

フォトグラファー斉藤光一さんプロフィール

 

フォトグラファー斉藤光一さん。「今後、音楽家の方とコラボして、写真と音楽を合わせた映像をYouTubeに載せることもしていきたい」とアイディアは尽きない

 

長野県上田市出身。バンクーバー在住。

写真奨学生としてニューヨークで写真理論を学んだ後、日本、カナダ、ヨーロッパなどで個展を多数実施。活動は人物、風景、メニュー撮影から舞台、映画のスチールフォト撮影まで幅広い。日米元兵士の再会を描いた映画「かつては敵だった」ではパラオ共和国のペリリュー島に赴き、スチールフォト撮影と通訳も務めた。

http://www.k-graphicphoto.com

   

(取材 平野香利 写真提供 斉藤光一さん)

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。