「ワクワク系マーケティング実践会」主宰 小阪裕司さん

『「買いたい!」のスイッチを押す方法』、『「惚れるしくみ」がお店を変える!』など、多数のベストセラーを持つ小阪裕司さんは、講演・セミナー講師をはじめ、さまざまな活躍をしている。6月、講演会「ありがとうと言われる商い」などでバンクーバーを訪れた小阪さんに話を聞いた。

 

 

バンクーバー講演会の様子。ビジネスの視点が変わるヒントが、たくさん語られた

  

 小坂さんには、昨年バンクーバーで公演された際にもインタビューに応じていただいた。  小坂さん主催の「ワクワクマーケティング実践会」は、ゆりかごから墓場まで…産科のお医者様から葬儀屋さんまでと、様々な業種•ビジネスで、業績アップに貢献されていますね。

 最近、いくつか新しい動きがあるんです。先日も製造業の人をターゲットにした新聞、日刊工業新聞と組んで、シンポジウムを行いました。私が主宰する「ワクワク系マーケティング実践会」にも製造業の方がいらっしゃるので、その方たちに登壇いただきました。

 

 製造業でのワクワク系というと、ワクワクする製品を作るということでしょうか?

 いえ、やはりマーケティングです。製造業では、作っても売れないということがとても多いんです。「良い商品なのに、どうして売れないんだろう」が製造業の方の悩みの代表的なものの一つで、商品が悪かったか、価格が高すぎたかが、売れなかった原因ということになっています。  しかし、それは違うということは、すでに検証済みです。ワクワク系マーケティングとしては、売れない最大の原因は、その商品の価値をちゃんと語っていないということです。それはマーケティングの問題で、当会の会員がきちんとマーケティングしてみると、売れなかった製品が爆発的に売れたりするんです。すなわち商品は問題ないということになります。  20年、この仕事をしていてすごく思うのは、良い商品なのに売れないのはエンドユーザーに価値が伝わっていないからの一点に尽きます。たとえば、その工場でしか紡げない糸があります。安く売る中国なんかと競争すると勝てない。工場はつぶれてしまいます。でも、価値をちゃんと伝えると、高くても売れるんです。  ある会社は、そこにある機械でしか織れない糸を持つ会社から、その機械や、時に職人など、ひっくるめて引き取って、若い人に技術継承しています。そうして作られる糸の価値をきちんと世界に語っているので、その会社で織った糸をルイヴィトンやニナリッチが買ってくれています。日本には後世に残すべき、そこでしか作っていないような素晴らしいモノや技術がすごくたくさんあります。残念ながら価値が伝わらないままにどんどん衰退している状況もあるので、私は「産業文化の絶滅危惧種」と呼んでいます。  あるクリーニング店の当会の会員は、「クリーニングは職人芸だ」とおっしゃっています。最近多い、料金の安い、工場でのクリーニングは、職人芸のクリーニングとは全く別モノです。この二つは違うと語るといいのに、語らない。だから、競争に負けて、お店はつぶれてしまう。

 

 残念ですよね。

 そうなんです。職人芸のクリーニングをする店にカシミアのセーターを送ると、「よみがえって」戻ってきます。でも、良いと言われているチェーン店の一番良い仕上げを頼んでも、「へたっ」として返ってきます。チェーン店はセーターはそういうものだと言います。でも違うんです。本物の職人には、カシミアの命をよみがえらせる技術があるんです。だから良いモノを長く着ることができて、エコでサステナブルです。そういった価値をきちんと伝える必要があります。  もうひとつ、日本の企業の特色でしょうか、誰のために作っているのか分かっていないケースが多いんです。技術志向の製造業者の集まりに行くと、「これは世界最小、最軽量のXXXなんです」などと聞きます。「すごいですね。で、誰が何のために使うのですか?」と聞くと分からない。  私が主宰する「ワクワク系マーケティング実践会」は商業者が多い会なので、いわば川下(かわしも)です。そして、製造業は川上(かわかみ)です。川上にある製造業の方が意識をもって自分たちで主導し、価値がきちんとエンドユーザーにまで伝わっていく状況を作っていくことが必要です。  最近では川上の製造業者もエンドユーザーのことを考えています。私の新しいミッションの一つは、価値創造型サプライチェーンの構築です。製造から販売までがスクラムを組むというものです。今は分断されていて、製造が勝手につくって持っていくという状況です。その上、マーケティングが、我々が提唱するマーケティング的にはうまくない。だから売れないのです。

 

 

バンクーバーの「ワクワク系マーケティング実践会」メンバー、板垣仁新領域研究所の板垣仁さんと

 

 小阪さんの著書のひとつ『価値創造の思考法』では、木の趣きと味わいが楽しめる床材のライブナチュラルについて紹介している。キツツキがつついて、傷ついた樹皮を巻き込んだ痕跡や木目は、バークポケットと呼ばれ、これまでは低級品扱いだった。しかし、ライブナチュラルは、その痕跡がどうやってできるかを伝え、情緒的価値を語ることで、バークポケットのある床材の価値を高めることに成功している。小阪さんの「ワクワク系マーケティング」は、価値を創造して、その価値をきちんと伝えようと説く。  「ワクワク系マーケティング」とは何でしょう。

 ワクワク系マーケティングにはいくつか特色があります。そのひとつは独自のフレームワークメソッドにあり、その独自性というのは、「人の心と行動を軸にしてビジネスを考える」というものです。普通は競合する会社や製品に対してどう勝つか、あるいはヒット商品をどうやって出すか、いかに効率化を行って価格を下げるか、ということがビジネスを考えるメインになっています。しかし我々は、お客様に「買う」もしくは「店に行く」という行動をしていただくために何をすればいいかを考えます。そして「ずっと自分の店や商品に対して行動してほしい」ので、「継続的、永続的に行動してもらうにはどうすればいいか」。そういうフレームワークから考えます。

 

 会員は、小阪さんが主宰されている会の会員ですね。「ワクワク系マーケティング実践会」について教えてください。

 ビジネスをしている人の会で、私、小阪裕司が提唱している理論と実践法をみんなで学んで実践する、そしてお互いに意見や情報を交換する、という会です。現在、正式な会員はバンクーバーでは9社、日本では千数百社です。  毎月届く会報誌で、私と会員の皆さんはつながっています。会報誌は主に会員さんたちの実践事例と私の解説で構成されていて50〜70ページになります。

 

 会合はどれぐらいの頻度で行っているのでしょう。

 あちこちで頻繁に行っていて、バンクーバーでも集まっていらっしゃいます。

 

講演中の小阪裕司さん

 

 地域ごとにグループがあるということですか?

 はい。今、システムを整備中で、各地でいつ、どんな会合が開かれているか連絡をとりあえるようにする予定です。「来月、ここでやるよ」と連絡しておくと、行きたい会員の方が参加できますからね。

 

 出張で来ている人がいるかもしれませんしね。

 そうなんです。先日も大分で会合があったんですけど、山形からいらっしゃった方がいました。たまたま九州に出張していらっしゃったそうです。他にもセミナーや、あるステータスの会員の方は年に4回の定例会、というように皆さんが会う機会があります。モチベーションの持続のためにも会員が集まる機会は大切です。そういう状況作りには力を入れていて、たとえば新人研修、ブートキャンプもあるんですよ。ブートキャンプには見識の豊かな先輩方が来て、貴重な対話の場を作ってくれます。  会報誌は、かなりのボリュームなので、読むのがしんどいという話も聞きます。そこで、最近、音声解説版も試験的に始めました。とても評判がいいので、レギュラーメニューになりそうです。でも、とにかく仲間たちが会うことが一番です。

 

 バンクーバーではどれぐらいの頻度で集まっていますか?

 一カ月に一回は定例会的に集まっているようです。それから個別で数人が集まったりすることもあるので、一週間に一回会うこともあります。  私たちの実践会は、学習科学の分野で『実践コミュニティ』と呼ばれているもので、創発的会合が重要です。そして外化すると伸びます。外化とは自分がしていることを話したり、考えていることを発表したりすることです。これも会合に参加することで自然に行えます。私たちの会は仲間意識が強いので、仲間たちからフィードバックもたくさんもらえます。

 

 6月9日に行われた小阪さんの講演会は約180人が集まり盛況となった。また、本紙で連載中のコラム『招客招福の方法』も好評だ。

小阪裕司さん 山口大学人文学部卒業(美学専攻)。2011年博士(情報学)取得。人の「感性」と「行動」を軸にしたビジネスマネジメント理論と実践手法を研究・開発し、その実践企業の会「ワクワク系マーケティング実践会」を主宰。 自己啓発の機会や役立つ「技術」と「精神」を提供するとして、ビジネスパーソンの間で評判も高いマーケティングマガジン、月刊『商業界』の今年2月号では、雑誌の約半分、60ページ余りを使って、「心の時代の商いの旗手」として小阪裕司さんの特集を組まれた。

 

「私の新しいミッションの1つは、製造から販売までがスクラムを組む、価値創造型サプライチェーンの構築です」と語る小阪裕司さん

 

(取材 西川桂子)

 

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