身近な国際交流の舞台

 キンダーに入学して娘たちの生活は一変しましたが、母親ライフのほうも並行して様変わりします。カナダで初めて一人ランチできる喜びよ……。午前中のESLも授業終了と同時に鉄砲玉のように飛び出して迎えに行かずともよし。授業にも身が入るというものです。
 ESLと言えば、カナダへ来て最初の足掛かりにする人も多いでしょう。そこはカナダでありながら、先生以外全員が外国人の国際交流の舞台とも言える場。裸の自分で勝負すると言ったら大げさですが、母の顔を取っ払って自分の名前を語れる久びさの場所です。
 クラスは日本人が私一人あるいはもう一人いるくらいで、アジア、中南米、ヨーロッパからとバランスよく集合した理想的環境です。「母国語禁止」のため同じ国の人同士がつるむこともありません。先生は細やかな配慮型で、グループ分けでは男女や国籍を上手にミックスし、25人の大所帯ながら皆と親しくなりやすい雰囲気です。挨拶代わりに出身国を訊ねるものの「どこの国の人」というのを意識せずにいられる、オープンな感じ。一方で、私の抱いていたステレオタイプをいい方に打ち破ってくれる人も多々います。
 中でもメキシコ人の印象が抜群。総勢8人のメキシコ人(全員女性)と接すれば、いずれも確固たる魅力をビシビシ発散しているタイプで驚かされます。いつ見られてもOK然としたキープスマイル、意欲的な授業態度、気の利いた会話、一対一の時はフレンドリーであたたかみを感じさせます。ファッションやメイクを決めている人も多く、女性力が高いというのかしら、恋敵にはなりたくないけれど。

問題点が浮かび上がる

 現在のクラスはプレゼンテーションとグループワークに力を入れていますが、この二つこそ私の弱点と知ることになりました。プレゼンでは緊張のあまり声が裏返ったり、「ah…」と無駄な音が入りスムーズさからは遠く、聞かされている方に同情してしまうほど。  そしてプレゼン以上の課題はグループワークです。授業で「広告」がテーマだった時、4〜5人のグループである商品の看板を作ることになりました。私は雑誌編集の仕事をしていのでその時が思い出され、意気込みも少しばかりの自信もありました。ところが、いざ「商品名は」「キャッチコピーは」「イメージは」とアイディアを出す段階でクラスメイトたちに圧倒されてしまったのです。自分一人でブレインストーミングをした上で仲間とアイディアを出し合う、あるいは編集長をトップとした役割の明確なチーム内での作業は繰り返ししてきました。しかし、初めて顔を合わせる人とアイディアを出し合い、役割を振り分け、短時間でまとめ上げ、発表する。そのスピーディーな臨機応変さが自分に欠けていることに気づいたのでした。
 打ちのめされた私は、こう乗り切ることにしました。アイディアの出ない時はとにかく進行役に回ること。そして、出てきたアイディアを進展させること。グループワークのタブーは「無口」です。「無口」は語学勉強の場を無意味にするだけでなく、外国人には「考えていない人間」のレッテルを張られやすく、日本人の看板を多少は背負っている身としての見栄もあります。そうやって一歩ずつ成長していくしかありませんね。  カナダでは、プレゼンやグループワークの機会が義務教育から頻繁に設定されていると聞きます。ああ私はそういう機会が少なかったな……なんて自分の受けてきた教育のせいにしても始まりません。でも娘たちにはそういう機会を多く持ってほしい。自分のアイディアを堂々と表明するトレーニングを積んでいってほしい。ますます国際社会になる未来のために、そして母の苦い体験から、そう願ってやまないこの頃です。

ご意見・ご感想・筆者へのメッセージは
バンクーバー新報編集部This email address is being protected from spambots. You need JavaScript enabled to view it. までお寄せ下さい

2013年10月31日 第44号 掲載

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。