2020年3月5日 第10号

2月22日と23日の両日、ブリティッシュ・コロンビア州バンクーバー市内のスコシア・ダンスシアターで、YAYOI THEATRE MOVEMENT(以下YTM)主催『Comedia 2020』が上演された(メディアスポンサー:バンクーバー新報)。今回の公演をもってYTMとしての活動にピリオドを打つ平野弥生さん。これまで平野さんが表現してきたアートの世界とは、人生とは。

 

︎『Comedia 2020』を上演した平野弥生さん。終演後の質疑応答にて(撮影:ルイーズ阿久沢)

 

根っからの演劇人生

 子供のころから近所の子供を集めて芝居をし、中学・高校では演劇部に所属。大学で演劇を専攻後、さらにマイム・ダンスや日本舞踊を学び、パフォーマーとしての道を歩んできた。

 1989年に文化庁の1年派遣の在外研修員に選ばれ、ドイツへ。8カ月間ケルンでパントマイムのミラン・スラデクさんの元で学んだあと、残りの期間をカナダのエドモントンでダンスをマリア・フォーモロさん、クラウニングをジェーン・ヘンダーソンさんの下で研修した。9月に渡欧して、11月にベルリンの壁が崩壊。まさに激動の時代だった。

 「その頃の東ドイツでは自由にものを言うのがむずかしかったので、言葉を使わないマイムはボディートークで、何でも表現できたのです」

 1990年に日本に戻り、YAYOI THEATRE MOVEMENT(以下YTM)を設立。世界各地のフェスティバルに参加。マイムのほかに能や日本舞踊を学び、日本では文化庁の芸術祭参加をした『道成寺』で、太鼓グループと華やかな舞台を展開した。

次々に創作作品を発表

 2002年にカナダに移住後は『四季』や『心中』など日本文化を紹介するような作品、日系人に的をあてた『Identity-Ancestral Memory』ほか『メディア』『お国』を創作・上演し、バンクーバーの観客にアートや人生についての“疑問”を投げかけてきた。

 2017年にはピアニストのサラ・デイヴィス・ビュクナーさんとのコラボレーション『物語』(ジャック・イベール作曲)をニューヨークのカーネギーホールで上演し、ニューヨークタイムズ紙で高い評価を受けた。

 また、バンクーバーオペラ『蝶々夫人』や劇団や団体の振り付け、ショートフィルム『あかし』ほか映画やビデオに出演するなど、活動の場を広げている。

本当に大事なものは何か

 「今、世界中で世の中が変わっていく時期なのか、“嘘”がはびこっていて、何が本当で嘘なのかわかりにくくなってきています。また一時期よりも、人種や貧富の差があからさまになってきているように思います。今回の演目は、こんな時代に本当に大事なものは何なのかということを、自分自身を含めて問いかける題材です。

 ダンテの時代も大変だったみたいで、彼はそれを“Comedia”という題で書いたようです」

 イタリアの詩人ダンテによる『神曲』は、3部からなる長編抒情詩である。平野さんはこれを基に、チェロ奏者のマリーナ・ハッセルバーグさんとともに地獄、煉獄、天国を描いた作品『LIFE AS “COMEDY”』を創作。2018年から2度の試作発表会を経て今回の本演に臨んだ。

マイムとチェロが創り出す世界

 暗闇をさまよい、恐怖におののきながら岩をどけ、崖をよじ登っていく長い旅。チェロのほか、金属や木製の民族楽器を用いてかもし出す風の音、動物の声、地獄の響き。しなやかな肢体と全身全霊での無言のパントマイムに絡む異質の音が、緊迫感を引き起こす。

 本演では場面場面でギュスターブ・ドレの版画が映像として映し出され、テーマごとに作曲家、米倉豪志さんのオリジナル曲をチェロが奏でた。

 米倉さんはマリーナさんの即興演奏法を念頭に5曲を作曲。平野さんのこれまでの活動やビジョンを鑑み、日本の伝統音楽の素材も挿入した。劇のBGMに終始することなく、音楽によって劇が立体的な構造を持つよう意図したという。

 マイムダンサーとチェロ奏者が創り出す独特の世界。いつしか両者がとけ合い、不思議な心地良さが広がる。ようやくたどり着いた『天国』の場面では、光とともに開放感を感じた。

ゆっくり時間をかけて

 YTMが30周年を迎えた今、その活動にピリオドを打つことを決めた。

 「いろんな場面でアートの世界も変化が速く、難しいものがあります。これからは本当に自分のやりたいことを、ゆっくり時間をかけてやっていこうと思います。差し当たって、中国大連からの戦後の引揚げ者である母の話を、何らかの形にしたいと思っています。ようやく今になって語り始めた母の話を、後世に伝えていく必要があるような気がしています」

 そう話す平野さんからは、ひとつのことをやり終えた安堵の微笑みとともに、次へと進んでいく自信が伝わってきた。

 

平野弥生(ひらの・やよい):
兵庫県宝塚市出身。桐朋学園大学演劇科卒業と同時にマイム活動開始。89年、文化庁の在外研修員としてドイツとカナダで研修。帰国後YAYOI THEATRE MOVEMENTを設立。世界各地のフェスティバルに出演し13カ国30数都市で公演。ジャズの日野皓正、ピアニストのサラ・デイヴィス・ビュクナー、マイムのニッキー・ソティロフなど、国境とジャンルを越えた共同制作も数多く展開。能面製作は現在18面あり、自身の公演ほか依頼でも作成。2002年よりバンクーバー在住。

 

(取材 ルイーズ阿久沢)

 

︎『Comedia 2020』より。草原をようやく通り抜けたら、豹に出くわす(撮影:Yukiko Onley)

 

︎『Comedia 2020』より。森の中で目覚めたダンテ、道に迷っている(撮影:Yukiko Onley)

 

︎『Comedia 2020』より。ダンテの恋人ベアトリーチェは天国に(撮影:Yukiko Onley)

 

︎(左から)金属や木製の民族楽器を用いてあらゆる音を表現したチェロ奏者のマリーナ・ハッセルバーグさんと、作曲家の米倉豪志さん。「チェロ1本での演奏でしたが、多様性をもたせるよう、さまざまな演奏技法を含めるようにしました」と米倉さん(撮影:ルイーズ阿久沢)

 

︎2013年、バンクーバー市内オーフィアム・アネックスシアターで『Medea - 六条』を上演。左側で能面をつけているのが平野弥生さん (撮影:Yukiko Onley)

 

︎2017年、カーネギーホールでピアニストのサラ・デイビス・ビュクナーさんとコラボレーション

 

 

 

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