2018年12月6日 第49号

師走に入る直前の11月30日、ブリティッシュ・コロンビア州バンクーバー・ダウンタウンのパブリック図書館で、建友会主催の消費者対象のセミナー(メディアスポンサー・バンクーバー新報)が、「健康は住宅から」と題して開催された。第1部は、伊藤公久さん(プロフェッショナル・エンジニア)の講演で、住宅の室内空気の汚染の現実、シックハウス解決策、ビルディング・エンベローブのテクノロジー、換気システムなど、健康で快適な住宅へ向けた解決策を解き明かした。第2部は、この問題をさらに深く探求するべく、パネルディスカッションが行われた。パネラーは、理学博士の高久英輔さん、呼吸器内科・医学博士の吉川純子さん、建築家の廣田瑛太郎さん。それぞれの専門分野から『健康は住宅から』のテーマを掘り下げた。

住宅という普遍的なことに、“健康”というアングルからメスを入れた講演には、少し恐怖すら感じる、まったく新しい気付きを呼び起こした。一般の生活者にとっても、建築関係者にとっても『心得ておくべき知識』で、これからの住まいづくりへの啓蒙活動でもあった。2時間半に及ぶセミナーだったが、“もっと時間を”というのが、約40人の参加者の一様の思いであった。

 

「大学の講義のようだった」という参加者もいた会場

 

<第1部、伊藤公久さんの講演概略>

室内の空気質の現状

 これまで考えもしなかったことだが、人間が一日に呼吸する空気の量は、平均約20kg(約10畳間、10立方メートル)。人生の90%は室内で過ごす。なのに、空気は、屋外と比較して25〜100倍汚染しているという。その結果、ダニ、カビ、ペットダストなどによる喘息患者が、年間約20万人緊急病院に搬送されている。

 シックハウスの影響を受けている家族数は、40%。150平方メートルの住宅で、1年間に発生するハウスダストの重量は約18kg、風邪の感染場所の90%は、室内。こうした結果、アメリカでの喘息患者数は、1,000万人〜1,200万人。病院を訪れる子供の最も多いのが、喘息だという。(アメリカEPAの統計による)

シックハウスの要因

 シックハウスの原因物質には、VOC(揮発性有機化合物)、カビの胞子、ダスト(埃)、ダニ、タバコの煙、花粉、排気ガス、殺虫剤、ラドンガスなどがある。また、発がん性のある化学物質を発散する建築材料、家具の使用が原因だ。

 また、1970年代のエネルギー危機に始まった省エネ住宅の普及で、建物の気密性が高まったことが、さらに拍車をかけた。

 気密性が高まると、結露が起きやすくなる。空気が露点温度に達したとき、気体のはずの水蒸気が水滴に変わり、室内の壁など表面結露、また、壁の中にも結露を起こす。それが、カビやダニの原因となる。

◎室内空気の汚染源

● 地下室…蓋を開けた缶のペンキに含まれるVOCの揮発、地中から侵入してくるラドンガス、湿気も多くカビが繁殖しやすいので、除湿機の設置で対応を。また、ボイラーが設置されていることが多く、不完全燃焼ガス、一酸化炭素の発生もあるので、換気に注意。
● バスルーム…カビの原因、湿気対策の換気を。
● ベッドルーム…ダニの発生源となる寝具などの埃、カーペットをこまめに清掃を。
● リビングルーム…暖炉からの一酸化炭素、二酸化窒素の発生を防ぐ煙突の清掃、換気に注意。また、検査感知器の設置を。ペットの羽毛、表皮がカーペットにつくので、清掃を。タバコは禁煙が望ましい。
● キッチン…キャビネットの中にある洗剤などにVOCの発生源になるものがあるので、管理を十分に。ネズミ、害虫の発生を防ぐ殺虫剤は、無化学物質剤を。また食品の管理を十分に。ガスコンロを使っている場合、一酸化炭素の発生に注意。レンジフードのメンテナンスを忘れずに。

◎室内に侵入する外気の汚染源

● 車の排気ガス、工場の排煙
● 山火事からの煙
● PM2.5
● ラドンガス…地中に含まれている火山性のガス。室内に侵入する可能性があり、健康被害のおそれがある。ラドンガスは、無色、無臭の放射性ガス。発生源は、ウラン、花崗岩、頁岩、リン酸塩などを含んだ土壌や岩から濃度の高いラドンガスが見つかる。井戸水への侵入もある。タバコに次いで2番目に多い肺がんの原因。アメリカでは年間約1万4千人の命が奪われている。特に、タバコとラドンガスの混合に注意が必要とされている。ラドンガス対策としては、基礎コンクリートのシール、配管周りのシール、基礎壁をシールすることが重要。

ビルディングエンベローブ(外皮)

 屋根、外壁、床など家全体を覆うことで、省エネ性能、防水、防風、防湿、防蟻、構造的安定(安全性)、騒音防止、地中からのガス(ラドンガス)や、水分、湿気の浸入を防止、浸入した湿気を排出する効果がある。

快適な室内環境にするための換気システムの種類

 住宅の気密性を高める一方、健康で快適な室内環境を作るためには、換気が欠かせない。換気システムには、各種の方法がある。住宅のタイプや暦年数などに合わせて選ぶ必要がある。

● 全排気型換気システム
 これには、個別型と集中型がある。

● 給排気型換気システム
 顕熱交換型と全熱交換型がある。

 

<第2部、パネルディスカッションの概略>

 今日のテーマの「健康は住宅から」のなかで、特に、「呼吸器に関連すること」を、3人の専門家と講演者の伊藤さんがモデレーターとなって、さらに突っ込んだディスカッションが行われた。

伊藤:まずは、吉川さん。呼吸器内科の専門医として、VOC、カビ、ダニなどが、呼吸器系疾患に与える影響などをお聞かせください。

吉川:カビの胞子は、目には見えませんが、数百万個が蔓延しているといわれます。生活のなかで吸い込んでいますが、健康な体で免疫機能が正常に働いていれば、問題はありません。カビによる疾患は、肺炎、アレルギー性喘息があります。

伊藤:そうした症状はどんなものがありますか?

吉川:咳、鼻炎など呼吸器系に症状が出ます。アレルギー性肺炎の場合、急激な発熱、なかには呼吸困難になって救急搬送される方もあります。

伊藤:アトピーの原因は、どんなことがありますか?

吉川:アレルギー疾患も同じですが、個人の体質的な面や環境もありますが、やはり、カビも含め、空気中の埃、ダニなどによって発症するケースが知られています。この対策に、空気清浄機が効果があったという報告もあります。また、温度、湿度、季節的な影響もあります。

伊藤:空気清浄機というお話がありましたが、はたして100%信頼できるものでしょうか。

高久:日本の空気清浄機は、そこそこ性能がいいのではないでしょうか。最高レベルのものは、半導体製造工場でも使われているように、超微粒子も除去できています。これを頂点として、家庭用に応用されている物もあります。メーカーによっては、静電気方式のものもあります。ただ、メンテナンスをきちんとしていないと、中にカビが生えていて、それを撒き散らす結果になることもあります。

伊藤:高齢者住宅に詳しい廣田さん。室内の空気環境に特に留意しておられることはありますか?

廣田:特にテクニカルな面ではありませんが、窓を部屋の両側、向かい合わせに設置することで、空気が抜けるようにデザインしています。機械を使って、ベンチレーションする場合は、必ずマニュアル通りにメンテナンスするよう管理します。また、木造の建築途中の場合、雨に濡れたときも木の含水率が19%を下回るように注意しています。水分を含んだまま断熱材を入れると、カビの発生源になるからです。

 

 この後も会場では、熱い議論が交わされ、参加者からは数多くの質問が出された。

(取材 笹川守)

 

 

講演中の伊藤公久さん

 

パネラーの吉川順子さん

 

パネラーの高久英輔さん

 

パネラーの廣田瑛太郎さん

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。