2018年11月15日 第46号

一頭のクジラが鳴く。その声に応えて鳴くもう一頭のクジラ。南太平洋トンガの海中で交わされるクジラの会話、そこに音楽が織り込まれ、壮大なドラマが立ち上がった。命が響くその曲は、クジラからのメッセージを世に伝えるために生まれたものだ。

 

「Awakening Whale Song」 曲中のポエムを朗読するノアさんは、Miccaさんの英語の歌詞作りをサポート。Miccaさんは本作品にはノラの名で出ている

 

9月20日世界にアマゾンはじめとするインターネット販売サイトで配信開始となった楽曲「Awakening Whale Song(アウェークニング・ホエール・ソング)」。クジラの鳴き声はバンクーバー在住のKaiさんが録音し、曲は作詞・作曲家であるMicca さん(バンクーバー在住)が制作を担当した。曲をダウンロードした人たちからは「心が癒される感じがする」「体の芯から熱くなった」「よく眠れるようになった」という声に加えて、「曲がかかると、飼っている犬がなぜか起き上がってお座りの姿勢になった」とちょっと不思議な感想も寄せられている。

 

長年の動物との関わりがもたらしたもの

 動物へのマッサージとレイキのセラピストであるKaiさん。動物の感情を繊細に感じ取ってコミュニケーションする力は、クライアントをはじめ、周囲の人々がよく知るところ。動物保護活動には20年以上前から関わり続けてきた。2018年8月には海の生き物、海の実態を明らかにするドキュメンタリー映画『Blue(ブルー)』の自主上映を行い、130人以上を動員。マイクロビーズをお腹に満たした魚たち、漁船から廃棄される網にかかりながら泳ぎ続ける魚、フカヒレを得ようとする人間によってヒレを切り取られ泳げない姿で海に返されるサメ…。衝撃的な現実を見せる『Blue』の上映も、今回の楽曲配信も、Kaiさんの胸の中の同じ思いからの行動だ。

 作曲に当たったMiccaさんは、SMAP、V6、今井美樹、大橋トリオをはじめとするアーティストに歌詞や楽曲を提供し、NHK番組『にゃんぼー』のオープニングテーマの作詞などでも活躍。最近はヒーリングミュージック制作にも取り組み、2017年のバンクーバー移住を機に北米でのネットワークが生まれている。

 「Awakening Whale Song」制作のいきさつや二人の思いに迫った。

−クジラと泳ぎたいと思ったきっかけはなんですか?

Kai クジラと泳ぐのはずっと前からの夢でして、いつか、クジラと交信したいと思ってたのが実現できました。クジラは自分の中で、この地球上の大きな保護者だと思っていて、宇宙からやってきたものだとずっと思っていました。

−そして実際にクジラに逢えたわけですね。

Kai はい。一緒に泳げたんです。そして防水のビデオカメラで録画もできました。逢えたのはザトウクジラです。体がだいたい15メートルあって、さすがに大きくて。でも怖いとは思わなかったんですよ。

 ツアー1日目にクジラと目が合ったときは、「ウェルカムホーム、おかえり」って言われました。自分は「そうか、(私は)帰ってきたんだ」という気持ちで号泣でした。泳いでいると向こうから寄ってきて、離れても追いかけてくるんです。自分が見ていなくても、クジラが泳いでくる方向がわかる感じもしました。

 2日目に海に出ていき、クジラ5頭に囲まれていた時は少し違っていました。南太平洋の島々ではすでに海面の水位が上がって島の面積が少なくなってきています。そして海の汚染も他の地域同様に進んでいる。今後きっと自然災害も増えますよね。こうした問題に関してですね、クジラに言われたんですよ。こんなことを言うと頭がおかしい人だと思われるかもしれませんが、クジラから「こうした状況は、すべて人間のエゴから起きていることだ」と言われたんです。こんなこと新報に書いても大丈夫ですか?

−はい、書きます! そうしたクジラからの訴えがKaiさんに伝わったと。

Kai はい。それで海のために何とかしたい、本当に何かできないかと思ったんですが、どうしていいのかわかりませんでした。そんな折、友人の後藤えむさんが私の撮ったビデオのクジラの鳴き声を音楽にして販売することを提案してくださり、Miccaさんを紹介してくださったんです。そこから収益を海の環境改善団体に寄付することを思いつきました。

−Miccaさんはこのプロジェクトの提案を受けて、クジラの音を聴いた時にどんな構想が浮かびましたか?

Micca Kaiさんからクジラを助けたい、海の汚染をストップしたいという熱い思いを聞いてから、クジラの声、そして島の教会で録音した讃美歌を聞かせてもらったんです。そこから自分の中に、陸にいる人間がクジラに会いに海に入っていくイメージが生まれて、讃美歌、ポエム、クジラの声を組み込んだ音楽を作っていきました。

−クジラの鳴き声と音楽がそれぞれの持ち味をうまい具合に高め合っていますね。

Micca クジラの声に寄り添って、海の中の“空気感”をうまく出せたらと思いながら、目をつぶって、自分が海の中に入っているような感覚になって録りました。

−制作過程でどんなことを思いましたか?

Micca 私たちの生きる、この地球の半分以上が海で、そして海の中では陸地以上にたくさんの生き物が私たちと同じ時を生きている。でも普段、私たちがそういうことに自分のフォーカスを当てる機会ってなかなかないじゃないですか。私にはKaiさんの話がそのきっかけとなりました。この曲を聞いている間だけでも、イマジネーションがほかの生き物たちに広がっていけば、それは意識の中で祈りに近いものになるんじゃないかなって思います。

 これまで東京で音楽作りをしてきましたけど、こうした見えないところにフォーカスを当てた音楽がクリエーションできたのは、この大自然のカナダに来たおかげだと感じています。

−海の汚染状況について、Kaiさんはどんな思いをもっていますか?

Kai 『Blue』の映画の中で紹介されていたように、石油タンカーからのオイル漏れで汚れ、マイクロビーズが氾濫し、それを魚が食べて、その魚を私たちが食べています。私たちがしたことが私たち自身の体を蝕んでいますよね。東南アジアの魚の乱獲は進み、生態系が侵されて、サンゴはどんどん消えていっていてと、本来地球の浄化の場である海がそれどころではなくなっていて。

 ジェーン・グーダル(Jane Goodall)さんという、動物が大好きでチンパンジーを研究している方がいるんですが、その方の言った言葉があります。「地球は人間のニーズには耐えられるけれど、人間のエゴに対するキャパはない」まさしくそう思います。彼女は自分にマジックが使えるとしたら、人間を消滅させたいとも言われていました。人間は、食べ物も木もとり過ぎだと思います。

 クジラに関しては、日本での捕鯨の問題がありますよね。クジラの排泄物には大量の鉄分が含まれていて、その鉄分によって植物プランクトンが増えて、大気中の二酸化炭素CO2の吸収に貢献しているとオーストラリアの研究者が発表しています。クジラを獲ることの問題点は、生態系のことだけではないんです。

−今後の環境運動として行なっていきたいことはありますか?

Kai 日本で映画『ブルー』を上映したいですね。クジラ肉やフォアグラ、馬刺しなど、食べなくても生きていける珍味の消費量は日本が世界一。プラスチックの使用の問題も、最近タイでは海藻で作ったプラスチック製のような容器も出てきています。汚染を今止めないと、未来の子供たちのため、地球に存在する全てのもののためにも、手遅れになってしまいます。少しでもできるところからやっていきたいと思います。

 

売り上げの全額が海の環境保護団体への寄付に

 購入は インターネットでAmazon や iTunesほかのサイトから、もしくは「Awakening Whale Song」、あるいは「Kai's project 22」と検索すると直接購入サイトを開くことができる。

(取材 平野香利 / 画像提供 Kaiさん)

 

トンガの海中のクジラ(撮影 Kaiさん)

 

2018年9月、Kaiさんがキツラノビーチの清掃活動に参加した際に撮影

 

2004年からKaiさんが参加している世界最大の動物愛護団体PETAのCEOであるIngrid Newkirkさんと共に(写真左がKaiさん)

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。