カナダで最高位のスノーボード・インストラクターの資格「CASI ・Level 4」を持つ河田祐紀子さん。 広大なウィスラー、ブラッコム・スキー場を舞台に、世界中の若いスノーボーダーたちを指導している。彼らはヨーロッパ、オセアニアなどからやって来る、インストラクターの資格習得を夢見る若者たち。一見すると屈強な若者たちで、そんな中で、小柄な日本人の姿はちょっとお茶目な印象も。しかし、祐紀子さんは、スノーボードをすれば、どんな若者にも負けないたくましい滑りを見せてくれる。 そんな祐紀子さんだが、20年ほど前にカナダにワーホリでやって来た時は、まだまだ英語のレベルが低く、生活していくために仕事を探すのがやっとだったという。

そんな彼女が、どのようにしてたくましく成長してきたか、カナダで最高位のスノーボード・インストラクターの資格を持つまでになったかを話してもらった。

 

河田祐紀子さん

 

カナダでスノーボードのインストラクターになったきっかけは?

   ワーホリでカナダに来ると決めた時、一年間しかないので、この一生に一度しかないチャンスを有効に使おうと思いました。そこで、いくつか目標を持って日本を出発しました。

 英語を上達させるには、異国の文化に入っても、旅行者としてではなく、現地の人間として「生活」することです。そして選んだカナダという国の文化をじかに感じることです。

 ウィスラーを選んだのは、観光地であるので、カナダでは外国人の私でも就ける仕事の幅が広いのでは、と思ったことが理由の一つでした。同じ観光地でもBC州の他のリゾートやバンフではなくウィスラーにしたのは、バンクーバーに近かったので、シティ・ライフが恋しくなったらすぐに行けるからです。

   実はワーホリで来た年の前のシーズンに、下見がてらに2カ月ほどウィスラーに遊びに来たのです。その時、知り合ったカナダ人のお友達が、「これ受けてみれば?」とCASIのレベル1コース(※)を勧めてくれました。  

※CASIのレベル1コースとは、カナダのスノーボードのインストラクター資格。レベル1を取るとスノーボードのインストラクターになることができるが、教えられる範囲は初級者から中級者。レベル2は中級者、レベル3では上級者。レベル4ともなれば、カナダを代表するスノーボード・インストラクター呼ばれて良いほど高い資格。  

 

その資格を取ったことが、スノーボードのインストラクターという仕事をするきっかけになったんですね。

   今思えばこのレベル1が役に立ったんですね。翌年にウィスラーに来てシーズンパスほしさに山の仕事に応募しました。その時、偶然書類を受け付けてくれた人が、スキースクールのインストラクターの人で、ほとんどの仕事はもう募集してないけど、レベル1持ってるんだったらインストラクターはどうだろう?まだ探してるんだよ、と言われました。経験もないのに、さっさとその人が、書類をスキースクールに回してくれたんですよ。  

 

 

凄い。いきなり泳げない子を無理やり川の中に飛び込ませたような状況ですね(笑)

当時の祐紀子さんの英語力はどうだったのですか?教えることへの戸惑いなどは?

 実際にお客さんに教える時になって、結構大変でした。英語は昔からできた方なので、ゆっくり一対一で話してもらえれば大抵のことは理解できましたが、グループに混じって会話のペースが早くなると、ついていけませんでしたね。最初はレッスンも身振り手振りで教えて、同僚にも言い回しとかをいつも教えてもらっていました。3カ月ぐらい経ったら耳が慣れてきてわかるようになったんです。

 教えること自体は特に抵抗はなかったですよ。学生時代によく家庭教師のバイトや、大学のスキーサークルにいた時に後輩にスキーを教えたりしてたので。特にカナダは日本と違って「先生」って感じではないですから。

 

なるほど、カナダのカジュアルな環境とこれまでの経験が、祐紀子さんにマッチしていたようですね。

インストラクターをしていて、また現在はインストラクターを指導する立場でもあるわけですが、仕事をしていて良かったこと、楽しいと思うことは?

   この仕事の良いところは、いわゆる仕事っていう感じではないところですね。教える人々はみんな休暇で来ている方々がほとんどなので、基本的にリラックスしてるんですよ。しかも仕事場は大自然に囲まれた景色のいいところですし。楽しいところは、様々な国からやって来た、年齢もばらばら、文化や育った環境も仕事も全く異なった人々に、スノーボードという共通の趣味を通して繋がることができることだと思います。同僚にしても、お客(生徒)さんにしても。

 

考えてみたら、これほどの素晴らしいオフィスもないですね! インストラクター資格のレベル4というと、滑る技術、教える技術、またそのための英語力など様々な努力が必要だと思いますが、祐紀子さんをそこまで突き進ませた要因とは?

   仕事を実際に始めて、結構自分に向いているなって思いました。楽しく教えていて、お客さんからもいいお言葉もらってたりしてたんです。ですが、やっぱり日本人ということで、同じインストラクターのレベルでも、滑るのも教えるのも私と大差ない同僚のインストラクターには良いレッスンが結構回っていて、自分には回ってこないことがよくあったんです。あと、見かけだけでアジア人だから、英語わかんないとか言われたりしたことも。

 そんなことが続いたとき、スキースクールの最古参の同僚でいつも私にアドバイスをくれていた人が、こんなことをおっしゃってくれたんです。

 「一番上のレベルに挑戦してみれば? そうすればみんなに何も言われなくなるだろうし、もしウィスラーから他のところに行きたくなっても、いつでもどこでも仕事が取れるよ。YUKIならできると思うからトレーニングしよう!」って。当時、女性でレベル4持っている人は東カナダに一人いただけで、日本人でも誰もいなかったですし。これは頑張ってみよう! と思いました。    

 

レベル4を取って何が変わりましたか?

   レベル4ということは、いつも周りの人からレベル4だからという目で見られています。同僚からもお客さんからも。なので、受かったからそれで終わりというより、それからがまた始まりなんだという気がしました。技術レベルも教えるレベルもレベル4として高水準を保たなければいけないですしね。

 仕事上はレベル4だと、他のリゾートで仕事を探そうとしても簡単にオファーが来ますし、そのおかげで私は南米のチリやアルゼンチンでシーズンを過ごして、そこでまたいろいろな人と巡り合えました。CASIの試験官としてもいろいろなところにコースを教えに行くことが増えました。バンフや東カナダだけでなく国外にも教えに行きました。CASIの代表として本当にいろんなところに行かせてもらえています。

 あとは、普通のレッスンだけでなく、他のインストラクターをトレーニングする機会も増えました。そうなった時に今まで自分がトレーニングを受ける立場だったのが逆転して、今度は同僚のトレーニングのコーチとなる。今まで先輩の方々からいろいろ教えてもらったこと、自分の経験から学んだことを伝えるって感じです。責任が増えましたね。

 

ところで、今季のウィスラーは、近年ではなかったほど雪が降り良コンディションで、クリスマス時期も世界中のスキーヤー、スノーボーダーで大変賑わいました。現在の祐紀子さんのホームにもなっているわけですが、そんなウィスラーのスノーボーディングの魅力を最後に教えてください。

 コースの選択肢がどんなレベルにもいろいろあるというところでしょうか。特に日本のリゾートやヨーロッパのリゾートだと、上級者のレベルでないと景色のいい山の上の方まで行けないってことがあるんですけど、ウィスラーは中級者でも山の上の方まで行けて、滑れるコースがあるんですよ。

 あと、リフト乗り場は混んでいても、実際にコースにでてみると、周りに人があまりいなかったりということはよくありますね。一つのリフトからアクセスできるコースがたくさんあるからでしょうね。もちろんパーク愛好者にはきちんと整備されたパークもレベルに合わせていろいろありますし。パークに行くと、雑誌で見るようなプロのライダーも滑ってることがあります。

 それから、スキー場エリア内でもオフピステ(人の手が入っていない雪面)が楽しめるのもウィスラーの良さですね。パトロールがあらかじめ雪崩のコントロールをしているので、バックカントリー装備がなくても手軽にスキー場のエリア内でオフピステが楽しめますよ。

 今季のウィスラーでは例年以上に高コンディションに恵まれていますので、ぜひみなさんのお越しをお待ちしています!

(取材 飯田房貴/写真提供 河田祐紀子さん)

 

カナダのインストラクター資格の試験官となった祐紀子さん。カナダ・スノーボードの伝道師になった

 

なんと中東ドバイまでカナディアン・スノーボードのスタイルを伝えに行った。まさにカナダを代表するスノーボーダーに

 

今季はシーズン早々に北海道に行き、日本人スノーボーダーにCASIを伝える試験官として活躍

 

カナダならではの森の中の深いパウダーを楽しむ祐紀子さん

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。