本場のパティシエに習う伝統菓子

 

ベルギーに入るとすぐ目につくのがお菓子。ドイツやフランスなど経済大国に近隣していながら、独特の伝統菓子や菓子職人が多い土地として古くから知られている。フランス語で『パティシエ』と呼ばれる菓子職人は、単に美味しいお菓子やデザートを作るだけでなく、見た目にも美しい芸術作品を目指す。フランスやベルギーでは男性の方が多い職種で、料理のシェフと同じように社会的地位も高い。近年、特にパティスリー(英語ではペイストリー)やチョコレート店の他、ワッフルの屋台も増えているベルギー。今回、ブリュッセル在住のパティシエYOSHIEさんこと熊野佳枝さんに話を聞いた。

 

 ブリュッセル市内にあるお菓子のお店

 

ブリュッセル市内にあるお菓子のお店

 

佳枝さんがパティシェになったきっかけ

 佳枝さんがお菓子作りを始めたきっかけは、幼稚園の頃からお母さんが作ってくれたスポンジケーキだったという。今から思えばシンプルだったが、とても美味しくてその影響は大きかったという。小学校に入ってからは自分で本を読み、何度も失敗しながらお菓子を作り続けてきたそうだ。大人になり念願の製菓学校で洋菓子を2年間専攻し、ケーキ作りの基礎、和菓子、パンなどの知識も得た。日本のパティスリーで5年間仕事をした後、ベルギー研修の道が開かれた。

 ベルギーのパティスリーはとても大きく、ケーキ部門とチョコレート部門に分かれていた。佳枝さんが最初に驚いたのは、毎日多くの特注ケーキの注文があったことだ。しかもアニメの主人公や、年齢の数字だったりバラエティに富んでいた。毎日指導を受けながらそんなケーキ作りが楽しかったという。ベルギーのパティシエたちはそれぞれ自分の持ち場があり、仕事がとても素早い。しかし、ただ没頭しているのではなく、ラジオを聴きながら歌を口ずさむなど楽しみながら仕事をしていた。チョコレート部門では9月にクリスマス用のサンタを型どった大きなチョコレート生産が始まり、ベルギーならではのプラリネの修行も新鮮で充実していたそうだ。

 日本と違うところについて尋ねると、勤務時間だと答えが返ってきた。ベルギーでは午前6時から午後3時が通常の勤務時間で、3時になったら途中でも終了する。後片付けも3時になったらそのまま放置し、後は掃除専門の人に任せるというシステムだ。日本からきた佳枝さんは衛生上、途中放棄にかなり戸惑ったという。また、ドイツ研修では午前4時から昼の12時までの勤務で、毎朝9時に朝食バイキングが出て、お昼からは自分の時間を十分楽しめた。しかし、日本のパティシエの労働環境はヨーロッパに比べると良いとはいえない。クリスマスの時期などは早朝から深夜近くまでケーキ作りに追われ、2人のパティシエで1日になんと800台のケーキ作りをしたこともある。朝から晩まで立ち続けで働き、休みがないという厳しい労働条件のせいで、大好きなケーキ作りを辞める同僚もいたそうだ。

 

ケーキ作りの基本について

 よくお菓子作りは難しそうだとか手間がかかるといわれるが、佳枝さんは少しの基本を守るだけで、そう大変な作業ではないという。

お菓子の基本:

― 器具はきれいに洗ってしっかり乾燥

― 卵はMサイズ(卵黄と卵白の割合がちょうどいい)

― 粉は使う前にふるっておく(すばやく混ざる)

― オーブンは必ず余熱しておく

 プロの使う小麦粉は単に「ケーキ用」でなく、パッケージに記入されているたんぱく質の割合の「タイプ」で選ぶ。ヨーロッパ製の小麦粉の種類は、TYPE45(カナダのPastry flour, 日本の薄力粉)、55(All-purpose flour, 中力粉)、65~80(High gluten flour, 強力粉)となるそうだ。そして「型」だが、熊野さんのオススメは最近のシリコン型で、油分を塗る手間を省き、軽くて折りたためるので収納にも便利だという。

 

ワッフルについて

 ベルギーワッフルの歴史は古く、12世紀頃にすでに原型が存在して、ベルギーでは18~19世紀に作られるようになったそうだ。国や地域によって形やレシピが違うのも特徴。電化製品のなかった時代、金属でできた型に生地を流して家の暖炉の火で作っていた。いつの時代でも生地を流した後、向こう側へ「ひっくり返す」形式のものが主流だ。ひっくり返すことで生地が少ない量で全体に行き渡り、軽いパリッとした食感につながる。『ベルギーワッフル』は、日本でおなじみの甘くてサクサクとした、パールシュガーがポイントのリエージュ風と、甘みのほとんどないブリュッセル風との2つに分かれている。ブリュッセル風は都会らしく、誰もが食べれるようにトッピングで甘みを調整する。粉砂糖、ジャム、生クリーム、チョコレートソース、アイスクリームの他に、ハムやチーズなど様々なトッピングとマッチできる。フランスのクレープ感覚で食べれるワッフルである。

 

今回、佳枝さんから特別に、手こねで作れるブリオッシュ(朝食用のパン)と、ブリュッセル風ワッフルのレシピを紹介してもらった。発酵時間はかかるが、簡単でお薦めだそうだ。

 

~ブリオッシュ~

ブリオッシュ(@YOSHIE)

<材料:12個分>

強力粉 ………………………………………… 500g

インスタントドライイースト ………… 6g

牛乳 …………………………………………… 180g

バター …………………………………………100g

全卵 ……………………………………………2個

グラニュー糖 ……………………………… 80g

塩 ……………………………………………… 12g

*デコレーション:卵黄に少々の水を加えた溶き卵、砂糖の塊 適量

<作り方>

① ボールに強力粉、グラニュー糖、インスタントドライイーストを加える。

② 40度ぐらいの牛乳、常温の全卵を加え、手で合わせる

③ しばらくこねたら、塩を加えなじませる。

④ 台に取り出し、肩の位置まで生地を持ち上げたたきつけ、 端を合わせて半分に折ってはたたきつけるを繰り返す。

⑤ 室温で柔らかくしたバターを練り込む。

⑥ 再びたたきつけを繰り返す。

⑦ 表面がきれいになり、生地を引っ張るとうすく透けるぐらいになれば、一つに丸めてラップをかける。

⑧ 25~35度に保ったオーブンで、1時間ほど放置し発酵させる。約2倍にふくらみ、つるりとした状態になる。

⑨ 取り出したら、人差し指で中心に穴を開け、全体を手のひらで優しくたたいてガス抜きをする。

⑩ 50gぐらいの丸型をつくる。

⑪ オーブンシートを敷いた天板の上に並べて、硬く絞った濡れ布巾をかぶせて、再度25~35度のオーブンで45分間放置して発酵させる。

⑫ 卵黄に水を加えた卵液をブラシで全体に塗り、砂糖の小さな塊を散らす。

⑬ 160度の余熱したオーブンで30分前後焼く。

お好みで乾燥レーズンなどを生地に混ぜ込んだり、出来上がりにバターをつけて食べても美味しい。

 

 

~ブリュッセル風ワッフル~

ブリュッセル風ワッフル

<材料:4人分>

牛乳A …………………… 170g

生イースト ………………… 30g

薄力粉 …………………… 330g

バニラシュガー ……………… 5g

牛乳B …………………… 500g

卵黄 …………………… 3個分

溶かしバター ……………… 70g

塩 …………………………… 少々

卵白 …………………… 3個分

<作り方>

① 軽く温めた牛乳Aで生イーストを溶く。

② ボールにふるった薄力粉と合わせる。

③ バニラシュガーも加え合わせる。

④ 軽く温めた牛乳Bの中に卵黄を合わせた後、他と混ぜ合わせる。

⑤ 溶かしバターと塩も加える。

⑥ 別のボールで、卵白をツノが立つまで泡立てる。

⑦ 全部をゆっくり混ぜ合わせる。

⑧ ラップをかけ、25~35度に軽く余熱したオーブンで1時間放置し、発酵させる。

⑨ 約2倍の量になれば、生地の完成。

⑩ 油を引き熱したワッフルメーカーに流し入れ、焼き上げる。

お好みのトッピングでいただく。冷めたら電子レンジで少し温める。 抹茶やあずきを入れて、自分のレシピに挑戦してみるのもよいかも。

 

インタビュー時の佳枝さん

 近年ダイエット志向のせいか、往来のクリームたっぷりのデザートを敬遠するベルギー人たち。しかし日本の定番である「いちごのショートケーキ」は、「きれい、軽い、美味しい」と人気がある。抹茶はまだフランスほど浸透していない。味を濃くしなければ分かってもらえないので、抹茶の量が余分に必要になるそうだ。またベルギーではワッフルに使う「パールシュガー」はあるが、カステラを作る「上白糖」がないので困るらしい。佳枝さんは現在、ベルギーのあるお店とコラボレーションで、日本とベルギーの素材を使ったお菓子を開発中。明るくてケーキの話題につきないパティシエYOSHIEさんは、今後も活躍してくれるだろう。 パティシエYOSHIEさんこと熊野佳枝さんの連絡先は: This email address is being protected from spambots. You need JavaScript enabled to view it.

 

抹茶のケーキ(@YOSHIE)

 

ワッフルの車

 

チョコレートは芸術品

 

いちごのショートケーキ(@YOSHIE)

 

 

(取材 ジェナ・パーク)

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