映画『味園ユニバース』の
     山下敦弘監督

〜映画と音楽初のコラボレーション〜

前回『リンダ•リンダ•リンダ』という音楽系の映画でロッテルダム国際映画祭に招待された山下敦弘(のぶひろ)監督。今回新作『味園ユニバース』(英語名『La La La At Rock Bottom』)はさらに音楽度をアップしてロッテルダムのスペクトラム部門(高い実績を持つ監督の作品)に世界プレミアとして出品された。山下監督は初日上映の翌日、映画祭スケジュールの合間をぬって新報のインタビューに応じてくれた。

  

映画の打ち合わせ中(@IFFR) 

   

ストーリー

 今回の映画は大阪が舞台で、記憶喪失になった男が町内ロックバンド「赤犬」のボーカルに迎えられ、閉ざされた過去の記憶を明らかしていくというストーリー。関ジャニ∞(エイト)の渋谷すばるさんが、単独映画初主演で歌うこと以外全ての記憶を失った男を演じる。タイトルの「味園」は大阪・千日前に建つ実際の味園ビルからで、大阪を拠点とするバンド「赤犬」は監督と同じ大阪芸術大学出身の実在するバンドで本人役で出演している。

 ロッテルダム国際映画祭の2日目の22日、山下監督は映画祭恒例の「ミート&グリート」という監督紹介コーナーに出演した。これは毎日4時に、3、4人の監督がステージに呼ばれ、自分の映画の予告を見てコメントしたりインタビューに答えるという企画。今年の3番目に呼ばれた山下監督は、2006年の『リンダ・リンダ・リンダ』以来のロッテルダム国際映画祭出演で緊張していると話した。普段意地悪な質問をするというインタビューの女性もこの日は「みなさん、この方は日本のビッグな監督よ」と紹介して、映画の予告を見て「おもしろそう、もっと見たい。ライブも見たい」と興奮しながら話していた。

 

 

「ミート&グリート」監督コーナーにて

 

映画製作について

 今回の主役選考について監督はプロデューサーといろいろと相談したという。ジャニーズのことはくわしく知らなかったが、関ジャニ∞の中でも影を持った感じのある渋谷さんが印象に残ったという。しかし撮影現場では渋谷さんを見ても特にジャニーズだと感じなかったらしい。「たまにファンが見に来ているので『あ、そうだ。彼ジャニーズなんだ』と思いましたけど」と笑う。主役がグループのボーカルで歌唱力のある「渋谷くん」と決めると、次は舞台が「大阪」と考えながら、自分のルーツに近い「赤犬」と思いつき音楽を盛り込んだ脚本が進んでいったそうだ。

 山下映画にはこれまでにも美男・美女の俳優が出演しているのだが、どの人もとりわけきれいに映っているわけではない。映画で見る役と実際の俳優のプロフィール写真が微妙に違う。その点について尋ねると監督は笑いながら、特に美しく撮ろうと思っていないが、「その瞬間そこにいてくれたらいいと思える俳優」を求めているそうだ。「いろんなタイプの監督がいると思うんですが」とことわりながら、「僕は普通にそのまま撮ったり、またスキのある瞬間に魅かれます。またいろいろな「顔」を撮った方が映画も豊かになるんです」と答えてくれた。この映画の渋谷さんも「関西のいかついお兄さん」風で、「きれいなアイドル」ではなかった。渋谷さんを初めて映画で見たオランダ人関係者は彼が「歌える俳優」だと思ったようだ。

 

 

「ミート&グリート」で他の監督と一緒に 

 

映画+歌のライブの試み

 山下監督の映画には音楽がある。前作の映画ではペ・ドゥナさんが歌った「リンダ・リンダ・リンダ〜」が妙に頭に残り、今回は渋谷さんの歌う「あの頃は〜」が残った。監督自身はバンドをしていたのではなく、お兄さんが演奏をしていたそうだ。ただ音楽を意識するきっかけは大学に入り最初に見た「赤犬」のライブだったという。

 山下監督は10年前の作品『リンダ・リンダ・リンダ』が自分にとって大きな起点だったという。この映画はとにかく楽しい。まるで高校生の女子バンドの一員になったみたいに話がすすみ、自分の青春を思い出して共感できる作品だ。『リンダ・リンダ・リンダ』の前はくすぶった人間関係を描く作品が多かったそうだ。このような青春映画は監督にとって初めての試みで、この映画を通して得たものが大きく、また自分が思っていた以上に音楽の力は大きいと実感したそうだ。この『リンダ・リンダ・リンダ』が観客にとって見ていて気持ちの良い映画だったと知ったので、今回の映画も、これまでの「自分の好きでない」エンディングに決めたそうだ。そして観客にこんな映画が見たかったと思わせるライブも盛り込んだという。

 「大げさな言い方かもしれないけれど」と監督は間をおいて、「これはある意味で映画と音楽のコラボなんです」と話してくれた。監督が作る映画設定の中に渋谷さんが入ったのだが、この映画は歌以外何も残らなかった男の話で、主人公の歌に説得力が必要だった。「これは渋谷君の専門分野で、彼の音楽的な力と歌の演出がなければできなかった。彼に助けられながら一緒に作った感じがします」と監督は話す。

 これまで音楽は映画の一部として、雰囲気を高めるために使われた。今回のように音楽が映画の重要部分を占めて、しかも映画のエンディングとライブのオープニングが一つに続くような例はこれまでになかった。もしこれが監督の「実験」だったなら今回の実験は大成功だったといえる。また英語版『La La La At Rock Bottom』という意味不明なタイトルも映画を見れば主人公のrock bottom(どん底)が理解できるという魅力がある。『味園ユニバース』はロッテルダムを世界プレミアとし、2月14日のバレンタインデーに日本封切り、そして世界に羽ばたく。監督の初めての国際映画祭はバンクーバーだったのでまた機会があったら行ってみたいと言ってくれた。近いうちにこの映画と監督に出会えることを期待しよう。

 

インタビューの朝、プレス・センターにて

 

山下敦弘監督プロフィール

1976年、愛知県出身。高校在学中より短編映画を製作。デビュー作『どんてん生活』が2000年ゆうばりファンタスティック映画祭のオフシアター部門のグランプリを受賞。2005年の『リンダ・リンダ・リンダ』が熱狂的に支持されロングランとなる。2006年の『松ヶ根乱射事件』は東京国際映画祭コンペティション部門に出品され、2007年の『天然コケッコー』で報知映画賞監督賞を受賞。その他ロッテルダム、バンクーバー、釜山、トロントなど数々の映画祭から招待を受ける世界に名の知れた監督である。

(取材 ジェナ•パーク) 


 

 

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