2020年4月30日 第14号

デジタル全盛のこの時代にあえてポストカードで、しかも手書きのイラストでレシピを紹介する。そんなプロジェクトを始めたのは山田宏美さん。そこには時間と手間が育む人の温もりと優しさを伝えたいという思いがあった。

 

自作の草木染エプロンを着けた山田宏美さん。天然酵母パンを手に(撮影:斉藤光一さん)

 

アナログの優しさを再発見

 表に料理の写真、裏に手書きのイラストレシピ。以前よく街のお土産物屋さんで売られていたポストカードに、料理のレシピを紹介しようとする試みは一見すると、時代に逆行しているように見える。しかしそこには深い思いが込められていた。

 きっかけは「便利さ」を極限まで追求する急激なデジタル化への疑問だった。「最初はすごくワクワクしながら楽しんでいたんですけど」と山田さん。しかし、生活のすみずみにまで浸透してきたあまりの急激な変化に追い付いていけない自分へのもどかしさと、生活のしづらさを感じるにようになったという。そんな時に、「自分自身が穏やかに時間を過ごすには、変化についていくのではなく、自分が今まで培ってきたことをもっともっと深めてそれを形として残せたらいいなって思うようになったんです」。

 そこからプロジェクトは動き出した。自分が培ってきたものとは何か?人生の中で楽しんできたものは何か?を考えた。それは家族とともにカナダで楽しんだ大自然、健康のことを考えて楽しむ料理、暇をみつけて楽しんできたクラフト作り。この3つだと思い至った。

 これに気づければあとは実行あるのみ。友人の助言も借りて、写真にこの3要素を入れ、ポストカードというあえてデジタルではない方法で伝えることに挑戦することになった。

 しかもイラスト。レシピといえば今やSNSでの早回し動画が主流の時代。それをあえて手書きイラストにする。「一枚一枚心を込めて、見てくれる人を思いながら、手書きで色を塗ってイラストで描くのもいいかな、温かな気持ちが伝わるかなって」。不慣れなデジタル機器を一から習うよりも精神的負担も少なく、何より絵を描くという楽しみがある。それをポストカードとすることで「誰でもが手に取って見られるので。だから多くの人に見てもらいたいです」。

こだわりは自然の優しさ 季節を感じてもらいたい

 写真に込めるのは、私たちが手にするものは自然からの贈り物ということ。料理やクラフトはもちろん、写真をあえて自然の中で撮るということも季節を感じてほしいから。

 「風景から季節を感じてほしいです」と背景に季節感を出す。だからタイミングが難しいと笑う。雪が降ると「雪の中でカメラを持って。でもすごく大変」。自然は待ってくれない。特に雪があまり降らないバンクーバーで雪の日はシャッターチャンス。しかし料理も用意しなくてはいけないからと大変なのだそう。

 それでも、「最近は季節感を感じることが少なくなってきたから」と自戒の念も込めてシャッターを切る。料理に季節感がなくなってきたことも実感している。だから春には桜、夏には新緑、大好きなバンクーバーの大自然を背景に、丹精込めて作った料理の写真を撮る。大変なことも多いが、いい写真が撮れた時は喜びも大きい。それがポストカードになるとなればなおさら。バンクーバーはこれからがいい季節。料理にも一層気合が入る。

レシピは簡単に3ステップで解説

 ポストカードに紹介されているレシピはどれも3ステップで解説されている。簡単で、でもひと手間かけておいしくが、毎日料理を続けられるコツだ。それは母として家族を守ってきた知恵。最近は健康志向もあり、天然素材、天燃調味料を意識している。

 もともと群馬にいた子どもの頃から父が畑を耕し、母が料理するという自給自足の生活をしていた。「季節の野菜を使って母が料理していましたから野菜が中心。今でもそうしたレシピが多いです」。ただバンクーバーという国際色豊かな特長を生かして、日本ではあまりなじみのない野菜を和風にアレンジするなどの工夫をしている。

 毎日の料理は献立が一番大変。「ちょっと今、この材料があるからこれを作ってみたいなという時に、一つのアイデアになればうれしいですね」と肩の力を抜いたレシピを提供していく。

クラフト作りは人生の集大成

 子育てが一段落したころからクラフトを少しずつ再開した。5年ほど前に夫を見送ってから本格的にのめり込んだ。それまで家族のために使っていた時間が自分のために向けられるようになったからだ。「今までやりたいと思っていたこと」、それがクラフトだった。

 今は織物と染物にはまっている。染物は天然の素材を使う草木染。組み合わせによってさまざまな色合いが生まれ、化学染料ではない「自然から生み出される色合いの柔らかさがすごい大好きで」。しかも奥深い。すっかり魅せられている。織物は裂き織りという手法と出合った。これまでやってきた着物のアップサイクルに通じるものがある。縁あってバンクーバーで知り合った先生に師事して始めた。「美しいだけではなく、違う価値のものが生まれてくる、それが楽しいですね」。古着に新しい命を吹き込む、そして再生する。今の自分の境遇と重ね合わさる。

花みずきプロジェクト

 自分の周りには「ハナミズキ」があふれていたと振り返った。とても縁が深い花木だという。あとになって知ったことだがと前置きして、「本当に偶然なんですけど、母が私が卒業した母校にハナミズキを寄贈していたんです」。それは今でも母校の校舎の前で毎年美しい花を咲かせているという。

 そしてバンクーバーのあるブリティッシュ・コロンビア州の州花がハナミズキ。花言葉は「永続性と返礼」。まさに「今、自分がやっているこのプロジェクトと同じ思いです」。一青窈さんが歌う『ハナミズキ』の歌詞にあるように「100年先まで続いて、みんなにお返しができたら。(プロジェクトは)偶然が偶然を呼んで、また偶然になってみたいになってますけど」と笑って、そんな縁が今の自分を支えてくれていると感謝した。

 料理、自然、クラフト。自分が大切にしてきたこの3つを表現したくて始めたプロジェクト。カメラも一眼レフを習い始めた。まだまだうまくできないもどかしさがある。インスタグラムも同じ。ついていくのに精一杯。でもコミュニケーションツールとして勉強中だ。アナログとデジタルが融合できる着地点を模索している。

 集大成のプロジェクトは始まったばかり。そしてポストカードで「本を出版できる日がくればうれしい」とまだまだ夢は尽きないようだ。

 

ポストカードと写真で紹介している料理やクラフトの一部はノースバンクーバー市にあるThe Workshop Vegetarian Cafeで販売されている。

レシピは花みずきインスタグラム @hanamizuki.canadaでも紹介。現在は英語のみだが日本語も予定している。

(取材 三島直美 / 写真提供 山田宏美さん)

 

手書きレシピのポストカード。「食の大切さ、自分で作る喜びを感じてもらえたらうれしい」

 

ポストカードに収められているキヌアサラダの写真。裂き織りのコースターとともに

 

古代米を使った雑穀ごはんとマイ箸などを収めるクラフト。大好きなノースバンクーバーの森で

 

特製フムス。珍しく大雪となったバンクーバーで

 

 

 

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