2017年3月16日 第11号

バンクーバー海洋博物館では、今年3月24日から1年間、太平洋戦争勃発直後にカナダ政府がブリティッシュ・コロンビア州の日系カナダ人漁民から没収した漁船の写真、関連書類の複製、船の模型などを展示する。

没収された1200隻にも及ぶ日系漁船団を焦点に、日系漁民が味わった失意や、戦中カナダで日系コミュニティーに向けられた数々の不正を思い出そうと企画した展示は、世界初の取り組みと同博物館は言う。

 

没収された後、集められた日系漁船、1941年12月10日。(Library and Archives Canada提供)

 

■日系漁船没収

 1941年12月7日、日本軍による米国真珠湾攻撃の後、カナダは日本に宣戦布告する。国家安全保障を目的に「戦時措置法」を発令。日系人全てを「敵性外国人」とし、沿岸から160キロ幅の「保護地域」に住む全ての日系人を立ち退かせた。日本に帰国しない者は内陸で強制収容する。同時に、財産権や職業選択の自由などの基本的な人権を剥奪した。

 アジア人に対する憎悪・差別が国内で一番激しかったブリティッシュ・コロンビア州では、多くの日系人が従事していた漁業が財産没収の最初の標的となる。1200隻に及ぶ漁船、網、道具類が押収され、非日系漁民などに安価で売りさばかれた。

 

■The Lost Fleet 企画の理由

 バンクーバー海洋博物館は、1959年開館以来、太平洋の北西沿岸と北極圏の「海」の歴史と保護をテーマに、多くの独創的な展示を行ってきた。その過程で、アジアの国々から太平洋を渡ってカナダにやってくる移民たちの玄関口となるバンクーバーの歴史と、日系カナダ人漁民の歴史が密接につながっていることにも注目してきた。

 一方、世界では今、シリアをはじめとする国々の難民問題の表面化と深刻化が進み、難民受け入れという点ではカナダもその渦中にある。バンクーバー海洋博物館のThe Lost Fleet(失われた漁船団)と題した展示会の企画決定は、このような状況の中で行われた。

 日系漁船の没収から始まった日系人に対する数々の不正が、ついにはバンクーバーの日系コミュニティー消滅にまで追い込んだ歴史と現在の難民問題とは重なる点があるからだ。

 

■展示が問いかけること

 没収された日系漁船が集められ、広い水面を覆うほどの大群となって漂う写真からは、日系漁民の数がいかに多かったかが想像できる。漁船を押収された漁民の表情を捉えた写真からは、困惑や喪失感が伝わる。日系漁民が自らの手で作った漁船や各種の網・道具類の模型からは、彼らの苦心・苦労がしのばれる。

 戦後、多民族国家カナダは、日系漁船没収から何を学んだのか。難民問題、社会的弱者・少数者をめぐり揺れ動く世界情勢を背景に、過去からの学びは現在と未来にどう生かされるのか。この展示が、カナダのみならず世界の国々に問いかける課題は軽くはない。

(取材 高橋 文)

 

《バンクーバー海洋博物館》
住所:Vancouver Maritime Museum, 1905 Ogden Avenue in Vanier Park, Vancouver, BC V6J 1A3
電話:604-257-8300

 

漁船を没収するカナダ海軍からの尋問に答える日系漁民、1941年12月9日。(Library and Archives Canada提供)

 

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