2018年7月12日 第28号

 東洋医学には、治療に臨む際、「標治」と「本治」を二本立てに考える思考論理が古くからある。これは現代医学の対症療法と原因療法に等しいものと思われる。「標治」、標的を狙い撃ち、病態を退治する。いわゆる対症療法では、一時的に症状を改善することを目標とする故に、病気を根治できず、症状が現れる度に薬を投与する。例えば、証の分析もせずに、簡易に使える痒み止めの漢方薬も多数存在する。苦参、地膚子、白蘚皮、夜交藤などが挙げられ、処方した時、患者の症状によって加味することが可能である。あるいは便秘治療のように、多くの下剤は標治法に相当し、便通を良くする即効性のある大黄、芒硝などの生薬が添加される。

 漢方治療の良さは「本治」、つまり原因療法を目的とし、「審症求因」の教えに則り、外側に表現された症状を分析して裏側の原因を突き止めて治療を行う。ただし、本治法は体質改善が目的で改善されるまでに時間を要するために、その間、標治法を併用することも少なくない。一般には標治には即効性が求められるが、本治に応用される処方は即効性のものもあれば、長期間服用すべき処方もあり、漢方薬は長期間服用しないと効果が現れないとされるのは「本治」を言ったものである。

 筆者の今までの臨床経験では、アトピー性皮膚炎の治療に当たって、皮膚を標的とした治療だけでは根治しない症例に対して、本治の方へ助けを求め、胃腸機能の改善に力を注いで治療を併用すると不思議に皮膚の症状が寛解されるケースがある。特に難治性のアトピーではいつも「標治」と「本治」交替の悪戦苦闘だった。また、それは患者からの強い信頼と病気に負けない根気がないと成し遂げないもの、つまり、医者と患者の二人三脚で頑張るしかないのである。

 漢方療法を行う際、皮膚に現れている症状を局所の証として把握し、症状を改善する治療、つまり「標治」を行う。また、個々の患者の体質を全身の証として読み取り、本格的な体質改善、因みに「本治」を行う。一般的に、標治の漢方製剤で皮疹をある程度改善させてから本治を行うが、症例によっては本治を主体に行う場合、あるいは標治と本治を同時に投薬する場合もある。

 標治の代表的漢方製剤はまず「黄連解毒湯」があり、黄連、黄芩、黄柏、山梔子からなる。黄連、黄芩、黄柏で熱を清し、毒を解き、湿熱を取る効果に優れる。更に、黄柏が虚熱を冷まし、山梔子で清熱涼血すると同時に利水作用が期待される。のぼせ、赤ら顔などの上半身の症状を緩和する他、鎮静効能も強いので、瘙痒、紅斑、炎症を解消するために相応しい。炎症の強い湿潤局面によく使われる。アトピー性皮膚炎で瘙痒症を退治したい場合のファーストチョイスとされる。陽証や実〜中間証の患者に適する。次に、清熱作用のある「黄連解毒湯」に血虚を改善する 「四物湯」(芍薬、地黄、川芎、当帰)を加えた「温清飲」がある。のぼせなど上半身の熱を冷まし、血行障害による足の冷えを改善する効目がある。激しい瘙痒があり、分泌物の少ない慢性の皮疹を伴う症例に適用する。皮膚は浅黒く肌荒れもみられ、酷く乾燥している皮膚に使われる。陽証、虚実中間証の患者に適する。

 真っ赤な顔で受診する患者に会う際、もし陽実証だと判断したら、「白虎加人参湯」が良い選択だろう。石膏、知母、粳米、甘草、人参からなる医聖「張仲景」が考案した名方剤で、石膏と知母により全身の熱を冷まし、口渇を改善させた上、巧妙に人参や粳米の配合で体力を回復させる効果を持つ。鮮紅色紅斑や浸出性紅斑に効き、アトピー性皮膚炎の顔面の紅斑の熱感を取り除くことを目標に使用する。

 西洋薬の抗アレルギー剤に劣らぬ効果を持っているのは消風散。石膏、牛蒡子、木通、知母、苦参、蝉退、胡麻、甘草、荊芥、防風、地黄、蒼朮、当帰からなる。石膏、知母、荊芥、防風は清熱作用を有し、木通と蒼朮は利尿作用を持つため、湿熱が解消される。陽証、実〜中間証の患者、夏に悪化する傾向のある皮膚疾患が適応で、熱感も分泌物も多く、瘙痒感の強い亜急性から慢性の皮疹に相応しい。

 西洋薬の抗生剤も兼ねた効能を持っているのは十味敗毒湯である。柴胡、桔梗、茯苓、樸樕、甘草、荊芥、防風、生姜、独活、川芎からなる。散発性或いは瀰漫性の紅斑があり、乾燥し、激しい瘙痒を伴い、化膿を伴うか化膿を繰り返す場合に適する。陽証,実〜中間証の患者で、湿疹病変の急性期で治療経過中に毛包炎を合併している場合にも応用できる。

 次に、高齢者や虚弱体質などで、軽度の貧血や四肢冷感があり、分泌物は少なく、湿潤なく皮膚が乾燥し、瘙痒がある場合に「当帰飲子」がよく処方される。「当帰飲子」は芍薬、甘草、黄耆、荊芥、防風、蒺藜、地黄、何首烏、川芎、当帰から構成される。血虚を改善する「四物湯」に六つの生薬を加えたもので、防風と荊芥は外邪を駆除発散し、黄耆と何首烏は気を補い、皮膚免疫力を高め、蒺藜は瘙痒を抑えることができる。陰虚証の患者に適するもので、冷え性タイプのアトピー性皮膚炎で,紅斑や湿潤傾向の少ない時の基礎処方として用いられる。

 アトピー性皮膚炎に効く本治の代表的漢方製剤を次回に続く。

 


医学博士 杜 一原(もりいちげん)
日本皮膚科・漢方科医師
BC州東洋医学専門医
BC Registered Dr. TCM. 
日本医科大学付属病院皮膚科医師
東京大学医学部漢方薬理学研究
東京ソフィアクリニック皮膚科医院院長、同漢方研究所所長
現在バンクーバーにて診療中。
連絡電話:778-636-3588 

 

 

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