2017年2月2日 第5号

 「(日本と)同じ時期のヨーロッパは、ローマ帝国の栄光と衰退、ゲルマン民族の大移動、中世の聖職政治とイスラム帝国の興亡、イギリス、フランス、ロシアの革命、ギリシャ人の手から松明を奪い取ったプロメテウスをひきあいにだす無神論文明の恐ろしい夜明けを経験してきた。」と言うのに対してジンガーは、日本の政治、文化的生活が比類のないほど連続的に展開されて独特であるとも言っている。

 さらに「さまざまな起源の異なった素材をひとつのるつぼに投げ込むことによって形成される。日本人が、どの民族と人類に近似し、過去にどう移動したかは、今もって解決されない問題である。しかし、外国の研究家はこれには少なくとも三つの構成要素があり、ある程度は識別できると考え始めた。(中略)1930年代には、ヨーロッパ人の北欧の先祖(ノルマン人)にあたるものをアジアのどこかに求めることが、日本の愛国主義者の間で流行した。太陽神の子孫はツングース人としばしば同一視された。」

 イギリスのケルト文化は、日本の縄文土器の渦巻き文様に似て共通点があり、縄文人らしき人が氷の海を渡っていったのではと小生は想像をめぐらすが、根拠はない。が、そういうことを書いた本はある。

 「日本では、イギリスと同じように、全くの外来支配民族が、被征服民族と完全に混血してしまったので、今日では、血統の差異はほとんど政治的、社会的差別に関係しない。」  最近、イギリスがEU離脱を決めた一つの原因はこんなことにもあるのかもしれないが、小生はグローバルな経済の流れの中で、国際化は押し止めるべきものなのかは疑問に感ずるものである。

 「ギリシャ人をツールメーカー(道具製造人)と呼ぶことは的はずれかもしれない。それにしても、たんなる習慣やしきたりによらずに、ものごとをうまく処理するのがギリシャ人の技術、つまり知識、工夫、さらにコツだった。こうした技術を描いた設計図をもとに、のちの西ヨーロッパおよび中央ヨーロッパは、政治機構を知的に追求したのである。このような意味では、日本人の心は非技術的である。かれらは合理的なものの考え方の効果を信じない。彼らが成就することには往々にして一般化できなかったり、合理的分析を拒否したりする。」

 「戦略や兵術は『一時しのぎの寄せ集め』と定義されるが、これほど的確に表現した言葉はない。日本がはたして神政政治であるかないかという疑問さえ、1946年(昭和21年の終戦後)まで公に解答されなかった。(中略)戦前に天皇の神性を奉ずる人々(今ふうに言えば、ポピュリズムか)の誰一人として、(軍人は政治に関与すべからずとあきらかに規定した)軍人勅諭の擁護にたちあがらなかった。」

 クルト・ジンガーは1886年、マグデブルクに生まれたユダヤ系ドイツ人で、豊かな想像力や、ギリシャ、ラテンの古典教育でつちかわれた知力は一流といわれる。日本には1931年に来日、東京帝国大学で政治、経済を講義した。ケインズの近代経済学は第一次世界大戦後にハンブルグでジンガーが編集していた経済雑誌に寄稿された時に始まるといわれる。日本には1939年まで滞在する。

 「合理主義の申し子で機械生産のもっとも近いところにあたる18、19世紀を支配した経済学説は、何が育つかではなく、何が作れるかに立脚した。自然の富や、その限界ではなしに、ある目的にかなう道具の発明を、植物のような有機的共同体でなしに、一定の合理主義的な目標を掲げて出発点にした。(中略)共同体は思いのままにつくれるものではない。共同体は、自然と文化、風土と歴史、フィジス(自然)とノモス(掟)の接点に存在する。」 

 今頃は、IT(コンピュター)や遺伝子の操作による生命科学による新産業革命で世の中は急速に変化してゆく中で、人間はどう変化(進化)してゆけばよいのか?やはり、老いたる小生はラテン語のHUMUSである腐食土になり、次の世代を大きく育てる肥やしになるべきものなのか?HUMUSは人間性HUMANITYの語源でもある。

 ジンガーは言う。「日本民族の永続性という現象にたいして、ただひとつ支配的な原因をもとめなければならないとすれば、私は躊躇することなく、日本人は生活のごく細部にわたってまで、自然の教えに従ってきたからだといいたい。西洋の諸国民はあまりにも自然の教えを無視してきた。しかし、この方法は土壌が耐えうるかをしらべずに、新しい都市の建設をもくろむように、大きな危険の原因になる。」

 このことは、東京の築地市場の移転問題にも似るようにも思える。

 


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