2018年11月8日 第45号

 バンクーバー新報11月1日号で乗松聡子氏の投稿を読んだ。先に私が問題にした点に関しては答えが出されてはいず、結果は失望というよりほかはない。「南京大虐殺記念日制定を支持する日系カナダ人の会」のお偉方の名前は依然として明記されず、そういう人々の存在の真偽はわからない。(それに比べて、「カナダの人種和合を促進する期成同盟」はその設立以来委員の名、職業などを明らかにしている。)

 乗松氏は「南京大虐殺記念日の是非についてはさまざまな意見があっていいと思います」と述べる。一見して、何に関しても意見の違いがあっていいと思っているような印象を受けるが、それにも拘らず氏は同じパラグラフの後半で、「南京大虐殺はなかった」と言う人々を「歴史修正主義者」ときめつけ、「歴史自体を否定している人が少なからずいる…歴史の否定だけは許されません」と教えを垂れる。彼女自身が歴史修正をしていることは先の投稿(9月13日号)で述べたので、ここでは触れない。

 氏は「南京大虐殺は動かせない史実です」と述べるが、その次には虐殺された者の数を、「極東国際軍事裁判における判決では20万人以上(松井司令官に対する判決文では10万人以上)、1947年の南京戦犯裁判軍事法廷では30万人以上とされ、中国の見解は後者の判決に依拠している。一方、日本側の研究では20万人を上限として、4万人、2万人など様々な推計がなされている」と言う。これはまさに南京問題の核心をついていることになる。すなわち、犠牲者の数を誰も確証できないのである。氏のいう「動かせない史実」とは程遠い。戦争であるから、南京占領の時点で日中両軍に死傷者が出たことは容易に察せられる。しかし、犠牲者の数には2万から30万という大きな開きがあり、中国側が30万という最大数を引き合いに出して、カナダにおいて一方的に日本を、日本人を、ひいてはカナダの日系人をおとしめる行為に出ているのは、不条理である。これ程に意見の相違のある事件、カナダが関与していなかった事件、カナダにとっては外国である二か国間の論争に関して、カナダ国が記念日を制定して良いものだろうか?

 次に「日系人はカナダ総人口の約1%、その中で日本語を使う人はさらに少数派です」と氏は言う。多数決で物事が決まるこの世の中であるが、少数派ではいけないのか、それを問いたい。たまには少数派の意見の方が正しいと思われる場合もある。少数派の意見に対しても聞く耳を持ち、その意見も尊重するのが多数派の懐の深さでもあるだろう。氏の言葉の端々に、氏が、たかが総人口の1%、と日系人を見くびった態度であるのがうかがえる。

 「人口の1%にも満たない人々にしか届かない言語だけで議論するのではなく」と氏は続けるが、実は自分の生国の言語で記念日制定を叫んでいるのは、カナダに住む中国系の人々である。ジェニー・クワン国会議員の記念日制定運動は主に中国系カナダ人を対象として進められていて、全カナダ人に呼びかけているわけではない。我々日系人の何人かはその実例を経験してきている。これは多様文化主義を国是とするカナダにおいて、人種間の亀裂を生み出す行為であり、これが国会議員のすることか、と問いたい。

 乗松聡子氏の意見と違う意見が新聞、雑誌に投稿されるからといって、それを「脅迫」だ、「人権侵害」だ、などと騒ぎ立てるのは、まさに氏の言う「強圧的な言葉を使って批判する」やり方であり、反対意見を封じようとする行為である。自分の意見が絶対に正しくて、それとは異なる意見は正しくない、という一方的な考え方に基づいた発言である。そういう人と議論をしても、何の益があるだろうか。彼女の言う「相手へのリスペクト」は美辞麗句に過ぎず、彼女自身には、彼女の意見に反対する人々へのリスペクトは微塵も見られない。

 


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