2019年10月17日 第42号

 皆さんこんにちは。10月になり秋も徐々に深まるバンクーバー。いかがお過ごしでしょうか。今月も先月に引き続き「怒り」の感情についてです。「怒り」というのは、人がある状況に反応する時、実は2番目の感情といわれています。「怒り」は、時に私たちが感じることの難しい気持ちを隠す役割、すなわち心を守る役割もあるのです。そして、その1番目の感情や気持ちは、私たちが心の奥で切に求める真のニーズとつながっています。

 「怒り」の下にある1番目の感情には、どのようなものがあるのでしょうか?先月のコラムでもご紹介しましたが、怒りと同時に人は恐れも感じています。その恐れは、不安や心配といった気持ちも含まれます。その他、悲しみ、失望感、時に「恥」の気持ちなど、他にも感情は沢山あります。「怒りのアイスバーグ」を見ると、「怒り」の下には実に様々な感情が埋もれています。

 例えば、あなたの悩みを、パートナーがあまり聞いていない状況があるとします。そしてパートナーは「うん、うん」と、あなたの顔を見ずに、スマホを見ながら頷くだけという状況が続いたとします。この状況にあなたは次第にイライラし始めました。そして「なぜあなたはいつもそうなの?」と責めるかもしれません。

 この場合、怒りの下にある他の感情は何でしょう。話を聞いてもらえないという状況には、可能性として自分の話を真剣に受け止めてくれないという「落胆」や「悲しみ」があるかもしれません。そして相手への「失望感」や、それに対する「傷つき」、結果的に理解されない「孤独感」も感じているかもしれません。このように様々な気持ちがあるので、皆さんも最近、自分が怒りを感じた場面を思い出して、アイスバーグを参考に、その下にある感情を書き出してみましょう。

 今度はここで書き出した気持ちを見ながら、心の奥で切に求める真のニーズを探ってみましょう。ここで参考になるのが、家族療法のヴァジニア・サティアによるYarning (真のニーズ:人が切に願うもの)です。サティアによると「理解されること・認められること・つながり・帰属感・受け入れられること・安全・安心感・創造性・愛・希望・自由・平和」は、万国共通する人々の切なる願いだといいます。そしてこれらの切なる願いが得られない時に人は、怒りを含め、様々な感情や気持ちが心に沸き起こります。

 怒りを感じた時はチャンス!怒りのサインを見逃さず、その下の感情を知り、そして自分が何を望んでいるのかを明確にする。それができると、怒りで対応するのではなく、相手に自分の気持ちやニーズを伝えるという、対話の選択肢が広がっていきます。

 この例の場合、真のニーズは何でしょうか?表面的なニーズは「話を聞いてもらいたい」ですが、そこには「つながり、愛、理解されたい」などの真のニーズが見えます。表面のストーリーではなく、心の奥で願う気持ちやニーズに焦点を置いた時、多くの場合、相互のコミュニケーションは変化していき、結果的に関係修復がよりスムーズにいきます。

 怒りは私たちが本当に望んでいる事を教えてくれる大切な感情。感情に良い・悪いはありません。むしろ私たちの感情は、怒りを含め、真のニーズを発見する入り口であり、また、傷ついた心を癒す道へも繋がっているのです。

 

 


加藤夕貴
MA, RCC ((BC州認定臨床心理療法士)、認定表現アーツセラピスト  想像して創造する遊びの中で、気づきと心の成長を促す、表現アーツセラピーを中心に、バンクーバーと日本で心理カウンセリングやワークショップを行なっている。

HP:http://www.youkikato.com/japanese.html

 

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