2019年2月21日 第8号

 遠隔介護という言葉が流行り始めたのは、日本で核家族化が進み、今や2、3世代が同居する世帯が減少したためでしょう。私が子供の頃の新潟では、どこの家庭にもおじいちゃんやおばあちゃんが家にいるのは珍しいことではなく、つまり3世代が同居していた訳ですが、その裏には終わることのない嫁姑の内戦のように難しい人間関係もありました。私の母親に言わせれば、それも当時は「我慢するしかない」時代で、果てには舅や姑の介護や看取りを全てこなしたものでした。

 そんなたくましかった1950年代生まれのベビーブーマー達もエイジングに逆行することはできず、介護を必要とする人の数が増えてきました。ところが、ベビーブーマーの子供の世代(つまり私の年代)の多くは、軽々と田舎を捨て、住みやすい都会での生活を選んだり、また私や妻のようにカナダへ渡ってきた者もいますから、今後はより多くの日本の高齢者が国内外を問わず遠隔的に介護を受ける形になっていくことは容易に想像できます。

 実際、複数の疾患を抱える私の妻の母(つまり私の義理の母)は、昨年から健康状態が思わしくなく、年末には妻が一時的に日本へ帰ったり、カナダに戻った今も毎日実家に様子見の電話をしている状態です。その原因の一つが「リウマチ性関節炎」(以下、関節リウマチ、英:Rheumatoid Arthritis)です。

 俗に「リューマチ」と言われる関節リウマチは、自己の免疫システムが誤って自分の正常な細胞を攻撃することにより、関節が炎症を起こす疾患です。この疾患はどの年齢の人にも起こりますが、30代から50代で発病する人が多く、女性の患者数は男性の約3倍といわれています。

 関節リウマチの症状の一つとして、朝、起きたときに強く感じる「こわばり」が有名ですが、なんとなく関節を動かしにくくいものの、使っているうちにだんだんと楽に動かせるようになるのが特徴です。昼寝をしたり、長い時間椅子に座ったりして関節を動かさない状態が続いた後にもこわばりがみられます。関節リウマチは、手足の関節に起こりやすく、左右の関節で同時に症状が生じやすいことも特徴ですが、貧血や微熱、全身倦怠感といった全身的な症状を合併することもあります。症状は天候に左右されることが多く、暖かく晴れた天気が続くときは痛みが軽く、天気が崩れ出す前や雨の日、寒い日には痛みが強くなります。関節リウマチが進行すると関節が破壊され、関節の変形、脱臼、癒合(ゆごう)などを引き起こし、日常動作や生活が損なわれてしまいます。

 関節リウマチの自己免疫システムにおける原因は未だに明らかになっていないため、関節リウマチを根本的に治す方法はありません。従って、様々な薬を使って炎症と痛みを抑え、身体機能と生活の質を維持し、良い状態を長く保つことが治療の目標となります。すると、やはりよく知っておきたいのは「お薬」のことです。

 医学の父と呼ばれる古代ギリシャのヒポクラテスの時代からヤナギの樹皮には鎮痛作用があることが知られており、これはサリシンという物質に由来する鎮痛効果でしたが、その後、このサリシンを基に化学的に合成されたのがアセチルサリチル酸で、一般的には「アスピリン(Asprin)」と呼ばれる薬です。アスピリンは、長きにわたり関節リウマチの治療に使われてきた一方で、吐き気などの胃腸障害が起こったり、人によってはアレルギー反応を示す人もいるため、今ではそれほど頻繁に使われる薬ではありません。

 最近では、アスピリンと同様の作用機序により抗炎症効果を発揮する薬はいくつもあり、これらを総称して「非ステロイド性消炎剤(Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drug」(通称NSAID、エヌセイド)と呼ばれます。市販薬でいえば、naproxen(ブランド名;Aleve)やibuprofen(Advil)、また処方せん薬としてはdiclofenac(Voltaren)やcelecoxib(Celebrex)が代表的です。これらの薬は、効果が大きく異なるというよりも、副作用を上手に管理するために使い分けをします。

 非ステロイド性消炎剤の薬の説明書には、数多くの副作用が記されていますが、その中でも特に注意が必要なものに胃腸障害、腎機能障害、肝機能障害、血小板・心血管系障害(心不全)があります。

 関節リウマチのような慢性疾患では、継続的な薬の服用が必要になりますから、これらの副作用を出方をみながら、場合によっては副作用を最小限に留めるために別の薬を飲むことがあります。腹痛や吐き気、消化性潰瘍は最もよく見られる副作用であるため、抗ヒスタミン薬(例:ranitidine, famotidine)や、プロトンポンプ阻害薬(例:rabeprazole, esomeprazole)は、胃腸症害がでた場合に胃酸を抑える目的で処方されます。

(続く)

 


佐藤厚

新潟県出身。薬剤師(日本・カナダ)。
2008年よりLondon Drugs (Gibsons)勤務。
2014年、旅行医学の国際認定(CTH)を取得し、現在薬局内でトラベルクリニックを担当。
2016年、認定糖尿病指導士(CDE)。

 

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