2019年1月17日 第3号

 皆様、新年明けましておめでとうございます。

 まずは、昨年参加させて頂いた宴席での出来事を紹介します。序盤から年齢層が高いことに気づいていましたが、椅子の数の少ない立食パーティーで、多くの人がごった返していました。その歓談のひとときに、やはり一人の男性が急に倒れました。幸いにも現場には、日本語を話す田中朝絵医師(ファミリードクター、日加ヘルスケア協会理事長)と、日本の看護師資格を持つ渡瀬容子さん(日系シニアズ・ヘルスケア住宅協会)がおり、救急車が到着するまでの間、この2人を中心にバイタルサインのチェックと応急処置がなされました。医師と看護師がその場にいれば、薬を持たない「手ぶらの薬剤師」にできることはほとんどありませんが、さらなる補助が必要とされる場合に備え、真横でスタンバイさせて頂きました。幸いにも救急隊が現場に到着する頃には、倒れた方は意識を取り戻し、事なきを得ました。

 カナダでは、「ファーストエイド」(英:First Aid)(応急処置、応急手当て)の訓練が求められている職種が多く、ファーストエイドプロバイダーと呼ばれる人は結構います。かくいう私もその一人で、薬局という、基本的に何らかの疾患を抱えた人が訪れる場所で働いていますので、3年おきにファーストエイドのトレーニングを受けています。上記の例のように、基本的な応急処置によって命をつなぐことが可能なケースは多々あります。興味を持たれた方は是非トレーニングを受けてみてください。セント・ジョンズ・アンビュランス(St. John Ambulance:https://www.sja.ca/)をはじめとして、いくつもの民間の会社がトレーニングコースを提供しています。

 次に、近年の北米全体の社会問題として、麻薬過量摂取(Over Dose:OD)事故があり、政府の統計では2018年の上半期のODによる死亡数は2066人。この数を社会全体として減らすために、ODの場に居合わせる可能性がある人には、薬局では無料で配布されている「ナロキソンキット(Naloxon kit)」を入手することを強くお奨めします。ナロキソンは、OD時の救急蘇生に用いられる薬で、筋肉内注射により投与されますが、これは予備知識さえあれば一般市民の方でも容易に行うことができます。ブリティッシュ・コロンビア州のハームリダクションプログラム「Toward the Heart」は、オンラインでナロキソンキットのトレーニングコース(https://towardtheheart.com/naloxone-training)を無料で提供していますので、もしものときのために、一度この内容をご覧ください。

 緊急時に行う注射といえば、「エピペン(Epipen)」を思い浮かべる人は多いかもしれません。アレルギーによって複数の臓器に強い症状が現れる過剰反応「アナフィラキシー」は、血圧低下や呼吸困難、意識障害などに進展すると「アナフィラキシーショック」と呼ばれ、これは命にかかわる危険な状態です。しかし、エピペンを使うことで命を救うことができます。エピペンは、基本的に誰もが容易に使えるように設計されていますので、アナフィラキシーが疑われる場合には、ためらうことなくエピペンを使用し、そして911で救急車を呼びましょう。

 最後に、昨年末に実際に薬局で起こったお話ですが、胸の痛みを訴える女性が、薬局へ担ぎ込まれました。(急性の症状が出た場合に、近くの人の助けを借りて薬局に来て、応急処置を行いながら救急車を呼ぶことは、実は珍しいことではありません。)この患者さんによれば、以前経験した心臓発作と同じような胸の痛みとのこと。911に電話をすると、アスピリン(Aspirin, ASA, acetylsalicylic acid)を噛み砕いて服用して、救急隊の到着を待ってくださいと指示されました。これは、アスピリンが血液を薄め、血栓の形成を遅らせることで心臓への血流を確保するためです。通常、325mgの錠剤を1錠、低用量81mgの錠剤であれば4錠を、噛み砕いて飲みます。今年は、もしもの時のためにアスピリンをご家庭に用意しておくことをお奨め致します。

 手ぶらの薬剤師も、薬に関する知識であれば、活字を通して皆様に情報伝達していけるかと考えております。本年もどうかよろしくお願い申し上げます。

 


佐藤厚

新潟県出身。薬剤師(日本・カナダ)。
2008年よりLondon Drugs (Gibsons)勤務。
2014年、旅行医学の国際認定(CTH)を取得し、現在薬局内でトラベルクリニックを担当。
2016年、認定糖尿病指導士(CDE)。

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。