2018年1月18日 第3号

 糖尿病には、1型糖尿病と2型糖尿病があることは、糖尿病と言われていない人にも常識となっているのではないでしょうか。1型糖尿病は、おもに自己免疫により起こり、過去のウイルス感染がきっかけになっている場合が多いとされています。膵臓内で体内ホルモンであるインスリンを生成することができないため、エネルギー源としてブドウ糖を細胞に取り込むことができず、血液中にブドウ糖があふれてしまいます。急に発症し、進行が早いのが特徴です。1型糖尿病は、インスリン依存型の糖尿病で、子どもや若い人に発症することが多いため、小児糖尿病とも呼ばれています。

 2型糖尿病は、中高年の人が、生活習慣による肥満や運動不足、ストレスをきっかけに発症することが多い糖尿病です。膵臓からインスリンは分泌されているものの、その効果が出にくくなったり、分泌のタイミングがうまくいかなくなったりします。時間をかけて発症し、進行も緩やかで、はっきりとした自覚症状がありません。食生活の改善や運動により、血糖値をコントロールすることで、血糖値を正常範囲に戻すこともできます。病状が進行し、血糖値が下がらなくなると、薬(血糖降下剤)やインスリン製剤(おもにインスリン注射)で対処します。糖尿病患者の99%を占めるのが、2型糖尿病とされています。

 この2型糖尿病と、アルツハイマー型認知症に関連があることがわかっています。糖尿病を患っている場合、アルツハイマー型認知症の発症リスクが2倍になるとも言われています。

 アルツハイマー型認知症は、脳の神経細胞が死んでいくことにより発症します。アルツハイマー型認知症の人の脳には、「老人斑」というシミのようなものがたくさんあり、この老人斑には「アミロイドβ」という物質が溜まっています。この物質が増えることにより、脳の神経細胞が障害を受け、最終的には死んでいくと考えられています。

 最近になって、アルツハイマー型認知症には、インスリンも関わっていることがわかってきました。脳の神経細胞のエネルギー源のほとんどはブドウ糖で、神経細胞には、常にブドウ糖が供給されている必要があります。ところが、アルツハイマー型認知症では、脳の神経細胞が壊れて脳が萎縮することで、神経細胞がエネルギー源であるブドウ糖を取り入れることがうまくできなくなります。糖質から変換されたブドウ糖は、最終的に乳酸に変わり、脳の神経細胞に行き渡ります。この脳内での糖質の変換には、インスリンが必要です。ところが、インスリンが正しく働かないと、そのシグナルが脳に伝わらなくなり、脳内にエネルギーが供給されなくなります。その結果、脳が正常な機能を果たせなくなるのです。インスリンが正しく分泌されないことで、糖尿病を患っている人の体内では、これと同じことが起きていることになります。これが、アルツハイマー型認知症が第3の糖尿病と呼ばれ始めた所以です。

 あまり知られていないアルツハイマー型認知症の症状として、やたらと甘いものを食べることがあります。飴を一日中なめる。コーヒーや紅茶に砂糖をたくさん入れる。おまんじゅうやアイスクリームのような甘い物を、1日に5、6個食べる。これを、脳に十分供給されない糖質を補おうとする反応と考えると、納得がいきます。 背景にある理由がわかる今は、このような症状を理解できますが、アルツハイマー型認知症の母の介護を手伝っていた頃、以前にも増して甘い物を食べようとして、夜中に起き出していた形跡さえある理由が、しばらくわかりませんでした。

 まわりの家族や友人が、尋常ではない量の糖分を摂っていることに気付いたら、糖尿病の他に、認知症も疑ってみてください。もしかすると、認知症の早期発見の糸口になるかもしれません。

 


ガーリック康子 プロフィール

本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定

 

 

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