2018年10月18日 第42号

 母が住んでいた日本の実家には、同居する家族がいました。しかし、生活時間帯が全く違ったため、父が亡くなった後、母は、一人暮らし同様の気ままな生活を送っていました。ほぼ一年に一度、子供達を連れて、その母に会いに行っていました。

 例年通り、日本に一時帰国していたある年の夏。母の部屋の押入れを片付けていると、見覚えのない、赤くて大きな座布団が2枚、出てきました。その色や柄からして、どう間違っても母の趣味ではありません。不審に思い、母に尋ねると、新しく買ったと言います。もっと詳しく聞くと、かなりの金額を出したことはわかりましたが、それ以外はお茶を濁すような答えしか返ってきませんでした。

 どうも、高齢者を狙った悪徳訪問販売業者の口車に乗せられ、買ってしまったもののようです。 いつ、誰から買ったかもわかりません。わりと用心深く、訪問販売で商品を買うようなことのなかった人です。今思えば、この頃すでに、認知症の兆候が出ていた可能性があります。もし、ずっと後から知った「成年後見制度」を利用していれば、その販売契約を取り消すことができたかもしれません。

 さて、この「成年後見制度」とは、広義で、日本での「意思決定支援法制」をいいます。つまり、成人した人の意思能力が低い状態が、ある程度の期間続いている場合、本人の判断を他の人が補うことにより、本人を法的に支援するための制度です。「成年後見制度」には2種類あり、それぞれ、「任意後見」、「法定後見」といいます。

 「任意後見」は、本人に「判断能力」があるうちに、本人が自らの意思で予め選んだ「任意後見人予定者」と、生活や療養・看護、財産管理に関する事柄について、代理権を与える契約を結びます。「任意後見人予定者」になるのは、親族でも構いませんが、弁護士や司法書士などの専門家が依頼を受けることもあります。社会福祉法人などの法人も、「後見人」になることができます。公証人が作成した「公正証書」による契約を結ぶと、「任意後見契約」が締結済みであることが、法務局に登記されます。その後、例えば認知症などで本人に「判断能力」がなくなった場合、家庭裁判所により「後見監督人」が選ばれます。原則として、「後見監督人」には弁護士などの専門職の第三者が選ばれます。「後見監督人」が選ばれると同時に、後見が始まり、「任意後見人」が「後見監督人」の監督のもとで、本人の不動産や預金などの財産の管理や処分などを代行します。

 もうひとつの「法定後見」は、後見を行う時点で、認知症を発症している場合など、既に「判断能力」が不十分となっている場合の後見制度です。「法定後見」では、本人、配偶者、四親等以内の親族、検察官、市町村長などに「申立権」があります。「判断能力」の程度により、「後見人」や「保佐人」、「補助人」が選ばれます。「判断能力」が欠けていることが通常の状態の場合は「後見人」、「判断能力」が著しく不十分な場合は「保佐人」、「判断能力」が不十分な場合に「補助人」がそれぞれ選ばれます。

 「後見人」の役割は「法律行為」で、まず、年金や不動産などの財産の管理があります。「後見人」には「取消権」があるため、 騙されて家を売却する契約をした場合など、その契約を取り消すことができます。ただし、日常生活に関する行為は取り消すことができません。例えば、一人暮らしの人が、近所の商店街の魚屋で、刺身を十人前買ってしまっても、それは取り消せません。その他に、「身上監護」という役割があり、介護サービスや入院の契約などを代行します。ただし、「成年後見人」が直接介護を行うものではありません。

 「認知症」の高齢者が「成年後見制度」のどちらを利用するかを判断するには、「判断能力」が不十分ということが基準になります。「判断能力」が不十分でも、「契約能力」がある場合は、「成年後見制度」ではなく、「日常生活自立支援事業」を利用します。電気代やガス代などの公共料金の支払いや、通帳の管理、福祉サービスを契約する際の手続きなどの援助が必要な場合、こちらを選びます。一方、「判断能力」が不十分で、「契約能力」もないと判断されて初めて、「成年後見制度」を利用することになります。

 日本の家族を守るために、いま一度、「成年後見制度」を見直してみてください。

 


ガーリック康子 プロフィール

本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定

 

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。