2018年5月24日 第21号

 「身体拘束」とは、「入院中の患者に対し、患者本人の生命の保護、および自他への重大な身体損傷を防ぐために行われる行動制限」です。原則として、 やむを得ない場合に限り、本人または本人に代わる者の同意のもとに行われます。

 「身体拘束」と聞くと、皆さんが想像するのは、おそらく、精神科病棟で使用される拘束衣、体をベッドに縛り付けられた状態や、自他の身の安全を保つための保護室や独房への収容などかもしれません。しかし、外部からの侵入、 認知症の人の徘徊などを防ぐための部屋の外からの施錠、 手指が自由に動かせないようにする「介護ミトン」や車いすから落ちないようにする「車いす用腰ベルト」の装着、さらに、精神安定薬や抗精神薬などの過剰な投薬も、「身体拘束」と見なされます。ベッドから起き出したことを知らせる離床センサーや徘徊センサーについても、その使い方により、「身体拘束」と見なされる場合があります。

 実は、私の母が入院していた時にも、「身体拘束」は行われました。すでに寝たきりで、一人でベッドから起き出して院内を歩き回るようなことも、暴力をふるって誰かに危害を加える可能性もありません。母の場合、誤嚥性肺炎を繰り返していたため、食事を摂ることが危険という判断のもと、経静脈栄養になりました。その直後、腕に刺された点滴用の針を何度も抜こうとするため、それを防ぐために、「介護ミトン」を手にはめられました。判断能力がないとされていた本人に代わり、家族が同意をした上でのミトン装着でした。 しかし、ミトンが付けられると、今度はこのミトンもなんとか外そうとします。 「介護ミトン」という優しげな名前はついていますが、本人が簡単に着脱できないような作りになっているもので、実際は「身体拘束」の手段のひとつです。本人にしてみれば、手の自由が利かなくなる厄介な物で、何度試みても自分では外せないことに対して、何らかのストレスを感じていたと思います。

 やむを得ない「身体拘束」は、「例外三原則」のすべての要件を満たす場合に限り、認められます。「例外三原則」、つまり「切迫性(本人または他の人の生命や身体が危険にさらされている可能性が極めて高いこと)」、「非代替性(身体拘束、その他の行動制限を行う以外に代替的な手段がないこと)」、「一時生(身体拘束、その他の行動制限が一時的な手段であること)」のいずれかの要件が欠けると、虐待に当たると考えられます。

 安易に行われる「身体拘束」は、虐待と考えられるだけでなく、体への影響が大きいことが問題になります。まず、長時間同じ姿勢でいることで「突然死」を招く可能性があります。足が圧迫され、血流が滞って血栓ができやすくなり、できた血栓、またはその一部が血流に乗って肺の静脈を詰まらせる、いわゆる「エコノミークラス症候群」です。「身体拘束」が精神的苦痛をもたらし、その経験が「トラウマ」として残るとも言われています。高齢者の場合、体の自由が利かないことにより、運動機能や心肺機能が低下し、全身が衰弱してしまいます。衰弱して感染症にかかりやすくなることで、寝たきりになり機能低下と衰弱の悪化を招きます。その結果、「抑制死」と呼ばれる死に至ることもあります。また、 認知症と診断されている人に「身体拘束」が行われると、認知症の進行が急速に早まる傾向があることもわかっています。

 やむを得ない「身体拘束」を行う場合、本人に判断力がないと認められると、同意を求められるのは家族です。本人を代弁する家族は、「身体拘束」を名目にした「虐待」を招かないためにも、「身体拘束」の手段、その必要性を十分考慮した上で、判断する必要があります。

 


ガーリック康子 プロフィール

本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定

 

 

 

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