2018年5月17日 第20号

 毎朝、天気予報や交通情報のチェックも兼ねて、ラジオを聞くのが日課です。先日も、いつものように、ラジオを聞きながら仕事に出かける準備をしている途中、ニュースの時間になりました。平凡なニュースがいくつか続いた後に読まれたのが、 高齢者虐待のニュース。88歳の女性に身体的暴行を加えた罪で、この女性のために雇われていた介助者が、 懲役60日の実刑判決を言い渡されたというものです。

 この事件が明らかになったのは、この女性が暮らす介護施設に息子が面会に行った帰り際に、彼女が帰らないでくれと息子を引き止めようとし、介助者が自分を殴ると訴えたことがきっかけです。この女性は、脳卒中の後遺症で半身不随、さらに、アルツハイマー型認知症が進行しているため、事の詳細を説明することができません。不審に思った息子が、 実態を把握するために、 母親の部屋にビデオカメラを設置しました。

 後日、息子が見た映像には、この介助者が、母親の頭、顔、額、口、足を殴っている様子が何度も映され、果物ナイフを突き付けて脅す様子も捉えられていたそうです。この介助者は、この事件が発覚するまで、4年間この女性の介護をしていましたが、その2年ほど前から、 母親の体に時々あざができるようになり、息子がその理由を尋ねると、ベッドへの移動中に起きたという説明を受けました。

 さて、2016年2月に、厚生労働省が 「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等(通称、高齢者虐待防止法)に関する法律に基づく対応状況等に関する調査」の結果を発表しました。この調査は、介護施設での高齢者虐待について調べたもので、そのデータによると、虐待を受けた高齢者のうち、7割以上が認知症のある高齢者ということが明らかになりました。認知症がある高齢者ほど虐待を受けやすい事実が浮かび上がり、上記のような事件は、洋の東西を問わず、その典型的なケースと考えられます。

 日本でも、介護施設での高齢者虐待が時々ニュースになりますが、実は、高齢者虐待は、家族と同居している高齢者に起きることのほうが多く、虐待する側もされる側も、虐待の事実を隠す傾向が強いうえ、メディアで児童虐待ほどの報道がされていないというのが現状です。そのため、潜在的なケースがなかなか表面化せず、実際はかなりの件数に上ると推定されています。その背景には、「希薄な近所付き合い」、「老老介護、単身介護の増加」、「介護者の社会からの孤立」、「介護疲れ・ストレス」、「介護離職等による経済的困窮」、高齢者の「認知症による言動」、「介護者への依存度の高さ」など、様々な要因があります。また、高齢者虐待には、虐待をする側に「虐待をしている」という自覚があるとは限らないという特徴もあります。

 上記の事件のような「身体的虐待」や「性的虐待」など、直接的なものだけが高齢者への虐待ではありません。 特に、同居する家族による虐待は、「心理的虐待」(脅迫や侮辱などの言葉による暴力)、「ネグレクト」(生活に必要な介護や世話の放棄または意図的な怠慢、必要な医療や食事、衣類や暖房の提供の拒否、病気の放置など、生活上に不合理な制限、戸外への締め出しなど)、「経済的虐待」(年金・預貯金・財産を横取りしたり、不正に使ったり、売却する行為)も多く見られるようになります。どのような形にせよ、高齢者の基本的人権を侵害・蹂躙し、心や体に深い傷を負わせるような行為は、全て虐待と見なされます。

 介護の場が施設か在宅かに関わらず、認知症の高齢者は、虐待を受けてもその事実を訴えることができないため、虐待が表面化しにくくなります。また、介護施設の個室での介護や、在宅の単身介護の場合、虐待を受けていても、周囲がなかなか気付きません。高齢者虐待を防ぐには、高齢者の日常生活を見守ることのできる社会環境だけでなく、 介護者の心身の健康を守るための介護者へのケアも不可欠です。

 


ガーリック康子 プロフィール

本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定

 

 

 

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