2018年2月1日 第5号

 「認知症と二人三脚」を書き始めて、ちょうど1年。全く面識のない方からも、「記事、いつも読んでますよ」というお言葉をいただく機会も増えてきました。うれしい限りです。ときには、ご家族やお友達、ご自身についての相談を受けることもあります。中でも多いのが、「認知症は遺伝しますか?」という質問です。

 ひと口に認知症といってもたくさんの種類があります。例えば、ビタミン欠乏、甲状腺疾患、睡眠障害や精神疾患など、治療可能な疾患や障害が原因で、一時的に認知症の症状が出ている場合は、その原因を治療することにより、回復が見込まれます。しかし、脳にアミロードβやタウと呼ばれるタンパク質が蓄積し、脳細胞が壊れてしまうアルツハイマー型認知症、脳卒中を原因として発症する脳血管性認知症、前頭葉や側頭葉が萎縮して起こる前頭側頭葉型認知症、神経細胞にできる特殊なタンパク質、レビー小体の蓄積が原因となるレビー小体型認知症、パーキンソン病やハンチントン病による認知症などは、回復の見込みはありません。 どの種類にも重複した症状があるため、病理解剖をしない限り、本当の原因はわかりません。

 認知症が遺伝するかどうかという質問で、皆さんが特に心配しているのは、 発症率が最も高いアルツハイマー型認知症です。ほとんどのアルツハイマー型認知症は、遺伝性のない散発性のもので、発症の最大のリスクは加齢です。年を取れば取るほど、誰でもかかる可能性が高くなります。研究により、発症するリスクが高くなる感受性遺伝子は見つかっていますが、直接の原因ではありません。しかし、 散発性のアルツハイマー型認知症の人のいる家系の場合、いない場合より発症する可能性は高くなります。

 稀なケースですが、アルツハイマー型認知症には、遺伝性のある家族性アルツハイマー型認知症があります。症状は、散発性のアルツハイマー型認知症と変わりませんが、 親戚中で発症する人数が多いだけでなく、世代を超えて発症します。発症率は、すべてのアルツハイマー型認知症の1%以下です。これまでに、発症に関わる遺伝子として、PSEN1、PSEN2、APPの3つがわかっています。この3つの遺伝子のいずれかに変異がある場合、ほとんど例外なく、若年性の家族性アルツハイマー型認知症を発症します。発症した親の子は、50%の確率でその遺伝子を受け継いでいることになります。若年性の家族性アルツハイマー型認知症については、遺伝子検査のオプションはありますが、検査の前に、家族の病歴について詳しい問診を行います。その上で、明らかに認知症が疑われれば、希望により検査が行われる場合もあります。

 母が認知症ではないかと疑いを持ち始めた頃から、認知症についての情報を、文字通り「漁る」ように収集し始めました。年に3、4カ月ほど介護の手伝いに一時帰国する他、直接介護に関わることができないことへの後ろめたさの反動で、認知症関連のワークショップやその他の講座に手当たり次第に参加しました。BC州アルツハイマー協会が主催するサポートグループにも通い、引いては養成講座を受け、サポートグループのファシリテーター認定も受けました。「知は力なり」と信じ、とにかく情報が欲しかったのです。

 こうして得た認知症の情報は、吸収するだけでは私一人の情報で終わってしまいます。それを発信し、共有することで、周りの人が認知症について詳しくなる。そして、そこから更に正しい情報の輪が広がり、地域社会全体に浸透していく。それが究極の目標です。「日本語認知症サポート協会(Japanese Dementia Support Association)」を共同設立したことも、その目標へのひとつのステップです。

 今のところ根治する治療薬のない認知症にも、そのうち新薬が現れるかもしれません。「認知症は遺伝子しますか?」という質問にも、今とは違う答えができるようになるかもしれません。その日が来るまで、地道に活動を続けるのみです。

 


ガーリック康子 プロフィール

本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定

 

 

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