2017年8月3日 第31号

 アルツハイマー型認知症だった母は、介護保険制度にはかなり助けられました。この制度がなければ、年金生活をしていた母にとって、介護にかかる費用は経済的にかなりの負担になっていたと思います。

 母は、介護保険サービスを利用して、日曜日以外の合わせて週6日、通所介護施設(デイサービス)と通所リハビリテーション施設(デイケア)に通っていました。その他にも、立ち上がる時に使う屋内用の手すりを「福祉用具貸与」のサービスで利用し、家の屋内外に手すりを設置するため、「住宅改善費」の給付を受けました。因みに、更新を忘れていたため、要介護度認定調査を再度行った結果、母の要介護度は「要支援2」から「要介護3」になりました。その後、病状が進行して寝たきりになり、意思の伝達も困難になり、介護なしでは日常生活を送ることができなくなりました。もし、改めて認定調査を受けていれば、「要介護5」のレベルでしょう。

 介護保険制度は、2000年に施行され、途中、何回かの見直しを経て、2015年の改正後、現在に至っています。介護保険の保険者は、40歳以上の日本の全国民で、65歳以上の人が支払う「第一号保険料」と、40歳から64歳までの人が支払う「第二号保険料」に分けられています。

 介護サービスを利用することができるのは、65歳以上の人、もしくは、加齢が原因と考えられる特定疾病(16種類)のある40歳から64歳の人となります。介護サービスの利用料は、利用者の自己負担分を除いたうちの半分を介護保険、残りの半分を自治体(国、都道府県、市区町村)でまかなう仕組みになっています。

 2015年の改正で、全国一律だったサービスが、自治体単位に移行したことにより、自治体や地域の事業所によるサービスの格差が現れています。また、「要支援1」および「要支援2」と認定された人が、介護保険適用から外れ、自治体の地域支援事業に切り替わったことで、改正以前に受けられたサービスが受けられなくなるケースも出てきました。それを補うために、「住民力」、つまり地域の住民の力を利用する動きが出てきています。

 例えば、高齢者の生活支援を行う地域住民が、少額ながら給与が支払われる「生活サポーター」 として活躍している自治体もあります。「時間貯金」制度を作り、生活支援を行った時間をカウントし、将来支援が必要となった時、生活支援を優先的に受けることができるようになっています。「生活サポーター」の活躍が可能になった背景には、要支援の人への介護の規制が緩和され、介護の資格がなくても介護の仕事に従事することができるようになったことがあります。また、体操プログラムを提供し、継続的に体操をしている住民には、運動指導員無料派遣、体力測定無料、栄養士・歯科衛生士無料派遣、体操DVD無料提供の特典をつけている自治体の例もあります。

 ただし、運動によって元気になる人もいますが、病気があって細かいケアが必要な人もいます。十把一絡げの自立支援をしてしまうと、却って生活の質が下がる人も出てきてしまいます。また、「自立」のための支援が「孤立」に繋がることや、病状が悪化することもあります。

 こういう状況には、日本での自立支援の概念の捉え方が影響しているようです。日本では、自立支援は、残存機能の強化と捉えられていますが、国際的には、生活の維持や自己決定権の尊重と捉えられます。残存機能の強化は、最後までその人らしく、人生の主人公として生きるための手段と考えられます。人により体の状態、病気、人生観、これまでの人生が異なることから、本当に必要な支援は何かを見極めることを重視します。

 必ずいつか、命が終わるのが私たちの宿命です。元気でいることは大切ですが、元気でなくても幸せに暮らせる社会作りに取り組むことが、自分たちの老後を支えることに繋がります。

 


ガーリック康子 プロフィール

本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定

 

 

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