2017年7月27日 第30号

 「徘徊」は、認知症の問題行動ととらえられる行動・心理症状の代表的なもののひとつです。見当識障害(時間、場所、人物の見当がつかなくなる障害)により、自分のいる場所や時間などがわからなくなることで生じます。認知症と診断される人が増えるとともに、警察への行方不明の届出や、徘徊が原因で起きる事故も年々増加しています。これらの事故は、当事者だけの問題ではなく、その家族をも巻き込む大きな社会問題となっています。例えば、2015年の日本の警察庁の調べでは、全国の認知症行方不明者は1万2208人、そのうち、交通事故や水難事故、脱水や飢えなどで死亡した人は479人でした。

 徘徊の症状があるということは、外に歩いて行けるだけの体力があるということなので、 家族や周りの人がほんの少し目を離した隙や、留守の間にドアの鍵を開けて外に出てしまうこともあります。出かけてしまうことを感知するために、色々な徘徊感知機器が出回っており、大きく分けて3つのタイプに分かれます。

 まず、ベッドから離れた時に知らせる離床センサーが、屋内で最もよく使われている感知機器でしょう。ベッド上や、足元の床など、センサーの設置場所により、機能が少しずつ異なります。チャイムやメロディー、ランプの光などで知らせます。次に、ドアや玄関を通過した時に知らせるタイプのものがあります。部屋から出て赤外線の光を遮ったり、ドアが開閉するとチャイムが鳴って知らせます。このタイプは、家族が離れた部屋にいても、親機が知らせてくれます。また、身につけた小型の発信器がセンサーの近くを通ると知らせるものもあります。時計やペンダントなどの発信器と受信器との組み合わせで、認知症の人の居場所がわかります。最近では、クラウド型位置情報プラットホームを利用した比較的安価なGPS端末もあります。キーホルダーにつけたり、杖につけたりして利用者が携帯するだけで、 位置情報が検索できます。さらに、本人が発信器を持ち歩かなくてもすむのが、GPS端末を内蔵した靴です。自宅からある一定の距離を離れると、スマートフォンに通知する機能があるものもあります。

 これらの感知機器は、確かに、徘徊する人を探す時に役に立ちます。しかし、 普段から地域の人たちの見守りと協力があれば、行方がわからなくなっても、大事に至らずにすむ場合もあるはずです。ただし、認知症の家族がいることを隠していては、周囲の理解や協力はなかなか得られません。介護する家族と介護される人が共倒れにならないためにも、家族以外の力を借りること、そして、周りの協力が簡単に得られる環境づくりがとても重要です。

 


ガーリック康子 プロフィール

本職はフリーランスの翻訳/通訳者。校正者、ライター、日英チューターとしても活動。通訳は、主に医療および司法通訳。昨年より、認知症の正しい知識の普及・啓発活動を始める。認知症サポーター認定(日本) BC州アルツハイマー協会 サポートグループ・ファシリテーター認定

 

 

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