2016年10月27日 第44号

 頭部が失われたままになっていたキリスト像が、地元アーティストの手によって修復された。しかし以前とは全く別物となった姿に、地元住民は驚きを禁じえなかった。

 場所は、オンタリオ北部の都市サドバリーのサント・アン・デ・パン・カソリック教会。敷地内に立つのは、ほぼ等身大の聖母マリアに抱かれた幼児期のキリスト像で、乳白色の素材でできている。

 この教会の司祭ジェラルド・ラジュネスさんによると、この像は過去に少なくとも2回は損壊されているという。いずれも幼児キリストの頭部が持ち去られていたが、これまでは後日発見され本体に戻されていた。

 しかし昨年10月に再び頭部が盗まれてからは、行方不明となっている。教会としては、壊されたキリスト像を放っておくわけにはいかず、ラジュネスさんは新しい頭部を再彫刻できないかと、地元の関係者に聞いて回ったが、残った部分の像に合わせる必要もあるため、誰も引き受けようとはしなかった。

 像全体を新規購入しようとすると、6千ドルから1万ドルかかると言われたが、新調した像が同じ盗難に遭わないとも限らず、ラジュネスさんは二の足を踏まざるを得なかった。

 そんな時、自分が頭部を作ろうと、地元のアーティストが申し出てきた。彼女は首のない像に粘土を直接盛り、そこからキリストの頭部を成型し始めた。粘土自身の重さで頭が落下しないようにバランスを取るため、顔は上向き加減にするしかなかった。

 もともとの像は、有名彫刻家の作ではないにしても、ノミで彫られた繊細なラインを表現した、いかにも教会にあるような像なのに対し、粘土で作られた頭部は指でつまんで目鼻立ちを付け、鋭利なもので柔らかい粘土に輪郭線を引いただけの、まるで埴輪のような作風。さらに完成後も塗装しなかったため、この頭部だけがまさに埴輪のようなオレンジがかった黄土色をしている。またインターネット上では、人気TVアニメ、シンプソンズに登場する赤ん坊マギーにそっくりだというコメントも多数見られた。

 「教会のメンバーからは驚きや失望の声が上がっている」とラジュネスさん。さらに粘土は雨に溶けだし、顔の輪郭は次第にぼやけてきている。「そう長くは持たないだろう」と語るラジュネスさんによれば、この地元アーティストは来年には石に彫りなおすつもりだという。自分は神学校でキリスト像の彫刻の訓練は受けてこなかったので、この試みが最終的にみなを喜ばせるような結末になることをただ祈るだけだと語っていたが、その後意外な展開をとげることになった。

 メディアが報道して間もなくインターネット上では、このショッキングな幼児キリストの頭部の画像を用いたコラージュ(合成画像)が、多数公開されるようになった。ジャスティン・トルドー首相や、女性蔑視発言で揺れるアメリカ大統領候補など様々な人物が素材となり、瞬く間に世界中の注目の的となってしまった。

 そんな中、21日にある女性が、失われた頭部を返しにラジュネスさんのもとを訪れた。女性によると、この頭部を持ち去った人物は個人的な問題に直面しているとのこと。

 23日の日曜礼拝では、集まった信者の前でこの頭部が披露された。ラジュネスさんは特に被害届を出すつもりはない、像が元通りになってよかったと取材に語っている。

 

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