2016年9月8日 第37号

 白いウェディングドレスと、顔全体を覆う白い仮面をつけた謎の女性が、オンタリオ州トロントの街角で目撃されるようになって4カ月ほどになる。この女性をさらにミステリアスにしているのは、行く先々でドメスティック・バイオレンスによるトラウマを綴った手紙を配っていること。手紙には、彼女が受けた虐待や、恋愛関係の上に起こる暴力沙汰の複雑さが述べられていた。

 最近、この女性にメディアがインタビューを申し込み、女性は筆談による取材に応じた。

 それによると彼女の目的は、愛情から端を発した暴力について、多くの人に知ってもらいたかったことと、こうした被害を受けた人に対し、同じような境遇の人は身近にもいて、自分たちは孤独ではないと伝えたかったということ。特に孤独感ほど心に傷を残すものはないと、彼女は付け加えている。

 最近の手紙には、暴力を振るう相手は、私を追いかけるのは別に悪いことではないと思っているようだ。そして私もそのような人物を近づけるのは問題ないと思っていたようだ。往々にして暴力を振るう人物は、私がつくしている人か、それに関係する人だったりする。私たちはそんな人が自分をわざと傷つけるとは信じたくないし、捧げられる愛に頼りたい。しかしそれは時として暴力といえる強さを持っている…と綴られている。

 それにしても、なぜ仮面をつけ、沈黙を守っているのかという記者の問いに対して彼女は、沈黙は声をあげることができず、誰からも気づかれないでいる人たちを代弁するためだと答えている。また仮面は、不特定多数ということを表現しているとも。

 彼女のこうした行動に対しては、賛否両論が起こっている。彼女の精神状態を疑ったり、ソーシャルネットワークのサイトに悪意ある書き込みがなされたりする一方、多くの女性のために彼女は行動しているのだと支持する女性もいる。

 仮面の花嫁は、ドメスティック・バイオレンスについて人々が話し合い続けてくれることを願い、今日も街のどこかを歩き続けている。

 

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