V 私とWar Horse(軍馬)

私の乗馬好きと、そして馬に対する強い愛着は理屈を越えるもので、自分自身一体どうしてなのだろうと常々不思議に思うことがよくありました。それも、どこか、馬に対していつも可哀相という申し訳なさ、罪悪感のようなものが心の深いところにあって、乗馬の際にも、馬を強く叱ったりリードすることがとても不得意で、またどんなに性格の悪い(?)馬にも厳しくあたることができませんでした。友人からは「You are too nice.」と表現され、この感情は馬のトレーニングには時にマイナスに働くことがあると徐々に分かって来ていました。さらに、先生から、馬に何か危険なことが起きたときはそれが障害になることがある、とも言われていたのです。


そして、ついにその危険なことが今年の2月に起きたのです(その詳細は次回に述べたいと思います)。幸い、馬も私も怪我もせず無事だったのですが、それ以来、何故自分は他の乗馬仲間のように、馬に対しピシッと強い態度に出られないのだろうという大きな疑問で、乗馬に対する自信を失いかけていました。ところが、この長い間の疑問が、この夏の前世療法のワークショップで、氷解したのです。というのも、驚いたことに、私が見た前世は2回とも、馬との深いかかわりがあったのです。

 

ワークショップで私が見た私の前世はこうでした。
それは、イギリス軍の甲冑の騎士。
私は中世のヨーロッパの戦場(スコットランドらしい?)に倒れていました。イギリスの進軍にともない参戦した騎士ですが、甲冑で男装をした十代の女の子のようでした。しかし、軍は惨敗し、自分は左耳の上に矢が突き刺さって気を失っていたのですが、ふと意識が戻って、あたりを見回すと味方は全滅、自分だけが生き残ったとわかります。周りは累々と死体の山で、父親も、自分の馬も死んでいます。自分の馬を死なせてしまった、馬を守ってやることができなかったという深い悲しみと、耐えられない痛みで、号泣していました。「馬さえいたら!」、全滅の前に援軍を求めることも、国に帰ることも出来たのにと。そこで、思い切り、自分で矢を引き抜いて、再び気を失ってしまいます。
再び気がつくと、質素な部屋のベッドの上に寝ています、傍らに優しそうな中年の農夫がいて、自分はこの夫婦に助けられたとわかります。結果的に、その家の養女になりますが、乗馬をすれば騎士の乗り方が一目瞭然のため、馬には今後乗らないようにと禁止されるます。かつ、老いた農夫夫妻の、私に馬に乗って故郷に逃げ帰ってほしくないという痛切な思いも感じ取れたため、その恩に報いるため、乗馬を封印し、私は自分の故郷を捨てたのでした。

次はアメリカ南北戦争の北軍の若い兵士でした。
戦争を忌避し、軍から逃げ出してきて、どこかの緑の平原を独りで歩いているのです。彼も、自分の馬を失ったことを嘆いていました。というのも、軍の兵舎を脱走するとき、厩舎から馬を連れ出して他の馬たちに嘶かれ大騒ぎになったらまずいと考え、自分の馬を置いてきてしまったのです。愛馬を見捨てた罪悪感で自分を責めながら、草原を一人で泣きながらさまよっていました。彼も、自分の故郷を捨てたのでした。というのは、故郷の両親は、奴隷解放のため北軍に入った息子を非常に誇りに思っており、そんな両親の手前、彼はおめおめと故郷に帰ることはできなかったのです。

 

このワークショップの済んだ後、ニューヨーク市内のホテルに帰り、ロビーでニューヨークの催し物のパンフを見ていてふと手に取ったものが、ミュージカル「War Horse」でした!(註1) その瞬間、私はただ「馬」に縁があるのではなく、実は「War Horse」と深い縁があったのだとわかったのです。さらに馬に対する尋常ではない愛着は、自分の馬を死なせてしまった罪悪感、自分の馬を見捨てた罪の意識の贖罪から来る憐憫の情だった、それは真の愛情ではなかったということが自覚できたのです。


そして、その瞬間、それ以上に驚いたことは、自分が今ここに生きている現実に眼が覚めたことでした。馬と私の絆が、もはや悲惨な戦争という状況にはないのだという事実の再認識でした。この21世紀は、世界の各地で紛争が起こりながらも、私たちの生活はまがりなりにも安定した社会に守られ、その中で私は馬とつながっていられるというその幸せな環境に改めて感謝し、それに報いるために、馬と人との生活に何か貢献したいという、前向きのエネルギーが湧いてくるのを感じたのです。註1;Coming Soon!  
ミュージカルはバンクーバーには来ませんが、スピルバーグ監督による映画「War Horse」がクリスマスに公開されます。

http://www.imdb.com/title/tt1568911/


2012年1月1日号(#1)にて掲載

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