竹葉リサ監督

 

竹葉リサ監督は、一言でいうと「竹葉リサ」としか言い表せない不思議な雰囲気を持っている。あるフォトコールの場所にルンルンと歩いてくる可愛い女性がいた。周りはてっきり日本の女優だと思ってカメラを向ける。「え?違う?誰この人?」というのが竹葉監督だった。そして自分の映画のフォトコールでは一人でやって来て、女優以上に目立つハッピーポーズ(写真参照)で大サービス。「こんな監督がいるんだ」とプレス関係者を喜ばせた。今回のロッテルダム国際映画祭でインタビューが一番多かったのもうなずける。「このキャラはすごい、絶対見逃せない!」と世界のプレスが順番を競った。

  

映画の主人公たち(©IFFR2015) 

   

映画『春子超常現象研究所』のあらすじ:主人公の春子は毎日一人でテレビばかり見ていた。そんなある日、突然、テレビに心と体が宿り、二人は奇妙な同棲生活を始める。ヒモだった「テレビ男」はやがて有名になり、問題が発生してくるというラブ•コメディー。

 

インタビュー時の竹葉監督

 

これまでになかったカワイイ映画

 竹葉監督といえば昨年、初の長編作品『さまよう小指』で、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2014の最高賞グランプリと批評家賞をダブル受賞した注目の新鋭監督。同作はその後、ロッテルダムやプチョンなどの海外国際映画祭にも正式招待された。5歳の頃から片思いしている男性の小指から、彼のクローンを作って夢心地の女の子を描いた作品は、世界的に注目された。

 ゆうばり国際映画祭の新しい規定で、監督は1年以内に2本目を作らなければならない。脚本を急ぐと同時に、どうせなら2014年に書く意味のあるシナリオにしたかった。その年は、AI人工知能(コンピューターなどで人間と同様の知能を実現させる)が初めて人間に勝り、2045年頃にはロボット社会の飽和状態になると推測されたので、物の心が分からなくてはならない時代が来ると感じた。ある日、周りを見ると、みな携帯電話でサッカーを観ながらツイッターをしていた。最近は、一家団らんでテレビを見る家族が少なくなってきたので、できるなら家族をテーマにした映画を作りたい。ロボットと人間、そして、テレビと家族。ロボット映画はたくさんあるので、日本らしい付喪神(つくもがみ、物に魂が宿る)を題材にして、最終的に「テレビ男」に恋する主人公を描こうと決めた。

 

テレビ男の中村蒼さん(©IFFR2015)

 

 脚本ができあがると、今度は「テレビ男」役の俳優探しが大変だったと監督はふりかえる。監督が一番こだわったのは、テレビ男の「横顔」だった。俳優の中村蒼(あおい)さんは「洗練された3D顔の持ち主」で、テレビをかぶっても横顔が「すごくかっこよかった」そうだ。かぶりもの姿が愛おしくなければならないというテレビ男のルックス条件にもぴったりで、彼のおかげで軽薄なテレビ男も純粋で繊細なキャラクターになってくれたと笑顔で話した。また春子役の野崎萌香さんは、モデルで今回が初めての映画出演。芝居歴はないが、会った瞬間「みぃ~つけたっ!」と竹葉監督が思ったぐらい「衝撃的な可愛さ」を持った人である。

 

授賞式で(真ん中が竹葉監督)

 

作品へのこだわり

 今回の映画製作について竹葉監督が思ったのは、東京に住んでいる監督という意識を持つことだった。東京ならではのアイドルや漫画などのポップ•カルチャーを入れないと海外で説得力がないと思い、漫画みたいな映画を撮ろうと俳優たちに呼びかけた。例えば、漫画が巻頭カラーのときは普段の白黒と違い、これでもかと色彩を全面に押し出すエネルギーがある。このカラフルな面を意識しながら映画を作ったという。社会の常識からはずれるような画面、音楽、またUFO、MHK集金男、コスプレ男など、ここまでやってくれる東京監督の飛び抜けた発想には頭が下がる。

 

友人であるカルロス・M・キンテラ監督(右)と

 

 映画の中で好きな監督は、イラン映画『運動靴と赤い金魚』のマジッド・マジディ監督で、影響を受けた作品は『KAMIKAZE TAXI』や『ブリキの太鼓』など、監督が名前を挙げたのは意外な作品が多い。理由を尋ねると、主人公が一般人とかけ離れた特殊な経歴の持ち主で、ストーリーの展開が読めない部分がとても魅力的だという。そしてティム•バートン監督の『シザーハンズ』のように、「情報量が多いが100分程度」という作品も好むそうだ。監督自身も長く座っているのが苦手なので、これからもあまり長くならずにできるだけ情報量のある楽しい映画を作っていきたいと締めくくってくれた。

 前作の映画では、振り向いてくれない彼のクローンをつくり、今回は、ある日突然、人間になったテレビ男に恋をする主人公。女の子なら誰でもこんな空想をしても、それをそのまま映画にするのは並大抵ではない。竹葉リサ監督がロッテルダム国際映画祭にショートを含めて3回連続招待されるという夢のような偉業を成し遂げているのは、おそらくこの監督が研究熱心で、他国にないもの、また他国から求められているものをはっきり見極めているからであろう。この映画と監督は、これからも海外の映画祭を順番に回りそうな勢いがあるので、今後も注目したい。

『春子超常現象研究所』のWEBサイト:http://haruko-movie.flavors.me で『さまよう小指』のDVDは日本で発売中。

 

竹葉監督のプロフィール写真 (©IFFR2015)

竹葉リサ監督のプロフィール

1983年生まれ。

『さすらいのエイリアン私立探偵ロビン』などの短編映画やミュージックビデオ、テレビCMの監督を経て、2014年『さまよう小指』で長編デビュー。

本作『春子超常現象研究所』が長編第二作目になる。ゆうばりやロッテルダムなど数々の国際映画祭に招待され、国内外で現在も活躍中。次作も大きく期待される東京在住の女性監督である。

 

(取材 ジェナ・パーク) 


 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。