セミナーは、在バンクーバー総領事館と隣組の共催で、BC州ローワーメインランド雇用基準局のロッド・ビアンチーニ所長を招いて行われた。開始にあたり、伊藤秀樹総領事が「総領事館が受ける相談は、労働と住居に関するものが最も多い」と話し、「BC州労働基準法の概要が分かれば回避できることも多いだろう」と、開催の目的を説明した。
BC州の労働基準法の適用対象となるのは、法律で定められた『被雇用者』だ。ただし、BC州労働基準法なので州政府管轄である必要がある。また、不動産業者やエンジニアなどのように、労働基準法の適用外の職業もある。

気になる賃金に関する規定
賃金は、トレーニング、スタッフミーティング・会議、移動時間、オンコールと全ての労働に対して支払わなければならない。最低賃金以上をカナダドルで支払うことが定められている。移動時間やオンコールなども支払われるので、ビアンチーニ所長は「記録をつけておくことが重要」とアドバイスした。
トレーニングにも支払う必要があるが、インターンシップやプラクティカムは少々異なる。「学校が関係するインターンと、基準法でのトレーニングは多少、違います。ケースバイケースなので、疑問があれば基準局で聞いてください」
セミナー出席者から「雇用主と従業員が、たとえば時間外手当はなしで契約時に合意していた場合はどうなるのか」という質問があったが、基準法第4項で、労使で合意していたとしても、雇用主は基準法を守ると定めてある。基準法に反する契約は結ぶことができない。
給与支払いは最低1カ月に2回、給与期間最終日から8日以内に行う。支払い日は2週間ごとか、あるいは15日と月末など。雇用契約が月収でも、支払いはその月収に応じて、1カ月に2回行う。解雇の場合は解雇から48時間以内、被雇用者が自分から退職した場合は6日以内に支払う。
最低賃金はほとんどの場合、時給8ドルだ。ただし、給与支払いを伴う就労の経験がない場合、合計就労時間が500時間に達するまで時給6ドル。500時間には、カナダ以外での労働を含めてよい。サラリー・給与制の場合も同じで、例えば一カ月1500ドル、200時間では時給8ドルに達していない。契約時に時間数まで明確にしていないこともあるので、月収制の場合は何時間かも明確にしてもらおう。また、職業によっては例外もある。

控除や休憩、超過勤務手当
給与から控除できる項目は雇用保険(EI)、カナダ国民年金(CPP)、所得税。顧客の食べ逃げやガソリンの入れ逃げ、レジの現金が不足、過分の支払い、作業服・制服の費用を差し引くことはできない。チップは基準法の上での賃金ではないものの、雇用主が被雇用者へのチップをビジネスコストに使用することはできない。
Minimum Daily Hoursは、一日8時間、あるいは8時間以下の勤務を予定していて、何らかの理由で業務が発生しなくなった場合に適用する。業務を行わなくても、8時間以内までを予定していたなら2時間分、8時間を超えて予定があったなら4時間分を被雇用者に支払う。ただし除外規定もあり、雇用主の管理を超えて、不測の事態が起こった場合は2時間だ。被雇用者が酩酊状態だったなど、会社やWCB(労災補償)の方針に違反していた場合は、実働に基づく。
食事休憩として5時間以上継続して働かないよう、最低30分の無給の休憩時間が与えられる。食事休憩に働いた場合、あるいは直接的もしくは間接的に雇用主が食事休憩中、仕事をするよう求める場合、賃金を支払わなければならない。実際に業務を行ったかは関係ない。重要なのは雇用主が食事休憩中に、職場にいるよう求めたかどうかになる。Rest Breakとして、シフトとシフトの間は連続して8時間空けて、1週間のうち連続して32時間は仕事をしないで休息時間が与えられることが定められている。
超過勤務手当は、例外はあるものの、ほとんどの被雇用者に適用される。勤務時間が1日8時間以上、または週40時間を超えた場合、基本賃金の1・5倍、1日12時間を超えると、12時間以降は基本賃金の2倍だ。また、各週、連続して32時間の休息時間が与えられず、業務を行うと、基本賃金の1・5倍となる。
この超過勤務時間の計算はまず一日ごとに見る。たとえば、月曜12時間、火曜12時間、水曜10時間、木曜8時間、金曜8時間勤務した場合、月曜と火曜が4時間ずつの超過、水曜が2時間で10時間分、基本給の1・5倍の超過勤務手当を受ける。そして、この人が土曜日も4時間働くと、8時間以内の勤務であるものの、月〜金曜までに既に40時間働いているので、4時間分は1・5倍の計算となる。あるいは月曜に10時間、火曜に6時間働いた場合も、2日で16時間、2で割って8時間とせずに、月曜は2時間の超過なので1・5倍になる。

合計9日の法定休日と年次休暇
BC州の法定休日は元旦、グッドフライデー、ビクトリアデー、カナダデー、BCデー、レイバーデー、サンクスギビング、リメンバランスデー、クリスマスの合計9日だ。暦で30日間以上雇用されていて、休日前の30日のうち15日以上勤務していると、法定休日に出勤しなくても、法定休日手当として平均日給が支払われる。そして法定休日に出勤した場合は12時間までは通常の1・5倍、12時間以上は2倍、加えて平均日給となる。つまり1月1日に勤務して法定休日手当を受けるには、暦で30日前に雇用されていて、この30日の間に15日以上働いている必要がある。
マネージャーは超過勤務、法定休日手当の適用外だ。マネージャーの定義は、監督、指導、人材など雇用関係の責任を持つ人か、会社や組織の重役だ。スーパーバイザーは労働基準法におけるマネージャーには当たらない。
連続して12カ月以上雇用された後は、1年間に2週間以上、5年連続して勤務すると3週間以上の年次休暇の権利を持つ。年次休暇手当は、雇用後暦上5日を経過すると発生。暦で5日を経過すると4%以上、連続して5年以上は6%以上で計算。
解雇の際には雇用主は規則を守る必要があり、労基法では書面での通知か解雇手当が求められる。手当は雇用期間連続で3カ月だと1週間の手当か書面での通知、12カ月だと2週間の手当か2週間の通知、連続3年間までは3週間の手当か通知、そして連続して3年以上勤務すると、3週間の手当か通知に加えて、1年増えるごとに1週間分を加算。ただし最高で8週分だ。雇用主側に正当な理由があるとき、辞職、退職、一時的な解雇などでは、解雇手当は必要ない。
新しい職場では、勤務時間の記録、給与明細書のコピー、雇用主との文書でのやり取りのコピーを保管しておく。何度もビアンチーニ所長が出席者に言ったのは、自己責任で『記録を保管しておくこと』だ。そのほか、労働に関する法律を理解しておくこと、雇用主に質問、また上手に交渉、対応するよう心がけることだ。
紛争の際の最初のステップはセルフヘルプキット。それでも解決しない場合は、仲裁、裁定、調査、判定、控訴の順で行われる。不服申し立てで気をつける必要があるのは、申し立てをするのに6カ月という期限があることだ。また賃金徴収も最終勤務日から6カ月、または現在も勤務している場合には不服申し立てから6カ月だ。雇用主が労働基準法に違反していると、罰金は違反一回につき、初回は500ドル、2度目は2500ドル、3度目は1万ドルだ。

 

(取材 西川桂子)

 

労働基準局の連絡先はwww.labour.gov.bc.ca/esb
通話料無料の情報ラインは 1-800-663-3316

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