一般からも高い関心

5月11日、HRマクミラン・スペースセンターの講堂は満席だった。UBCのパトリック・ムーニー准教授(造園学)が行った講演は、金閣寺や銀閣寺ほか、新渡戸紀念庭園、庭園内の茶室『一望庵』について。茶道関係者のみならず、カナダ人を含む一般参加者約200人がスライドを用いた説明に興味深く聞き入った。
続いて行われたお茶のデモンストレーションではキース・スナイダー裏千家出張所駐在講師が解説する中、京都から来晩した町田宗芳業躰(ぎょうてい)先生が点前を披露した。業躰とは裏千家の家元に居住し、その道の修業をする高弟。
翌日にはUBC新渡戸紀念庭園内の茶室『一望庵』とロングハウスで記念茶会が開かれ、当代坐忘斎家元の従姉にあたられる櫻井宗幸先生・恒夫夫妻、岡田誠司在バンクーバー日本国総領事・寧子夫妻、林光夫裏千家淡交会バンクーバー協会会長・恵美子夫妻らが出席。会員手作りの和菓子や当地の焼き物を使った道具を手にした櫻井宗幸先生は、こうしてカナダで伝統が続けられていることに感無量の様子を見せた。一同は雨に濡れた木々の鮮やかな緑を眺め、静かな朝のひとときを楽しんだ。

 

海外での裏千家

町田宗芳業躰先生は1994年にUBC新渡戸紀念庭園内の茶室『一望庵』の改装が行われた際の『茶室披き』に来晩した鵬雲斎千宗室お家元(当時)に同道、昨年行われた裏千家北米地域巡回研究会に講師として再び訪れ、バンクーバーは3回目。「日本では研究会は1年に何度か行われます。海外では頻繁に行うことがむずかしい分、みなさん非常に熱心です。バンクーバーでの研究会のあとにポートランド、サンフランシスコやサクラメントにも指導に行きました」と、柔らかな京言葉で語った。
記念晩餐会には約120人が出席。北米、カナダの各裏千家協会からも多くの参加者があった。
裏千家北米総局事務長でニューヨーク出張所事務長兼駐在講師の弘田佳代子先生も「バンクーバー協会が裏千家の茶道を50年間続けてこられた歩み、その歴史の重みを感じます。この土地に根づく形でお茶の輪を拡げておられる会員の方々に感謝申し上げます」と話す。
バンクーバー協会には約20人のビクトリアの会員も含まれ、総数は約80人。一番多いのはデモンストレーションと呈茶の桜祭り、パウエル祭、日本語学校などからの依頼。『一望庵』に加え、コキットラムの東漸寺にも茶室があることから、茶道を続けるには恵まれた環境といえる。

 

 

茶道クラブ

茶道クラブは日系センターで毎月1回抹茶の好きな人が集まり、お茶の話のあと日本間で抹茶を一服する会。担当の境野章子先生によると、おいしいお菓子と抹茶が好き、着物を着ていくところがほしいなど参加のきっかけは人それぞれ。「お軸の禅の言葉や瞑想、懐石料理、お茶花、和菓子作り、日本庭園など興味の対象が広がり、日本古来の伝統文化の知識が深まります。茶室に正座することで、日常と違った雰囲気にひたることも魅力ではないでしょうか」と話す。

伝統芸術を次世代へ

現在バンクーバー協会幹事長を務めるフレミング京子先生は、茶道は総合伝統芸術だと説明する。「お茶会は、お客様へのおもてなしの心で、お道具の取り合わせ等が考えられます。季節に会ったお花やお菓子など、全てが一つになってその日を迎えます。日々、繰り返し同じお点前を練習しながらその中で、少しづつお茶の心を学んでいきますが、和敬清寂を理解するまでには相当長い道のりを必要とします。しかし、この素晴らしい日本の伝統芸術を、次世代へと渡すことが私たちの務めです」と話している。

 

取材 ルイーズ阿久沢

 

 

裏千家バンクーバーのあゆみ

1960年代
ブリティッシュ・コロンビア大学(UBC)内に新渡戸庭園が完成し茶室が造られた。その折、裏千家より原宗江先生が来加し講習会がもたれ同好会が始まった。渡辺宗信先生が入会し、幹事長{その後、支部長}として稽古が始まった。

1970年代〜1972年
同好会から支部になる。永井宗圭業躰先生はじめ山藤宗山業躰先生、横山宗樹業躰先生をはじめ、数名の業躰先生方が来加し講習会などがもたれた。

1980年代
UBCにアジアセンターがオープンし、当時の鵬雲斎千宗室家元がアジアセンター内に2畳茶室『和光庵』を寄贈。1984年、家元夫妻を迎えて落成式、祝賀会が開かれた。安部宗正業躰先生、倉斗宗覚業躰先生(当時、水谷)の指導により講演会、デモンストレーションがもたれた。

1986年
バンクーバー・エキスポに日本から多くの来客があり、前後して中曽根首相、佐方宗礼先生一行を迎え茶会、デモンストレーションがもたれた。

1990年代
新渡戸庭園茶室の傷みがひどくなり、鵬雲斎千宗室家元の好意により修復が始まり1994年に完成。家元夫妻を迎えて記念茶会、講演会、デモンストレーションがもたれた。裏千家宗家で研修を積んだキース・スナイダー先生がバンクーバーに裏千家駐在講師として着任。その後渡辺宗信支部長が日本に帰国。以降、東漸寺が主な稽古場となる。

2000年〜 現在
年行事の炉開き、初釜、利休忌をはじめ学校、コミュニテイ・センターなどからデモンストレーションの依頼があり会員が協力して行っている。4月の桜まつりでは茶席で呈茶をしている。また日系センターでも茶道クラスを受け持ち茶道普及に努めている。

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。