2018年10月4日 第40号

9月24日、ブリティッシュ・コロンビア州バンクーバー市内のリステルホテル・バンクーバーで日本・カナダ商工会議所の第15回年次総会が開かれた。続く講演会では在バンクーバー日本国総領事館より経済担当の石川征幸領事が『日加経済関係 今後の展望』についてわかりやすく解説し、出席者45人が興味深く聞き入った。懇談夕食会では名刺交換と親睦、ディナーを楽しみながら和やかな歓談が続いた。

 

第15回年次総会

 

故小松和子元会長の意思を継いでいきたい 新会長、アダムズ弘美さん

 日加商工会議所はカナダ連邦政府に登録している唯一の日系経済団体として2003年に発足した。

 冒頭でアダムズ弘美さんが「主人の病気のため3カ月お休みしましたが、再び推薦を受けて会長に就任いたしました」と報告し、同商工会議所の創立者で7月27日に永眠した初代会長小松和子さんに敬意を称し、全員で黙とう。小松さんの意思を継いで商工会の活動を続けていきたいと挨拶した。

 今年は理事が8人から12人に増加。会計監査報告が承認され、副会長のギャリー・マトソンさんが「今年度はイベントを増やし、日加経済の上で本商工会議所に何ができるかを考えていきたい」と述べた。

 出席者から災害への支援、また労働・雇用法や契約書に関する勉強会の提案があり、今後はそれらに対応できるよう、セミナーなども考えていきたいとの返答があった。このほか文化や音楽・伝統芸術の紹介や、ネットワーキングのイベントも開催していきたいとのこと。

 

バンクーバー総領事館  石川征幸(まさゆき)領事による講演 『日加経済関係 今後の展望』

 石川征幸領事は始めに「本年7月27日に享年75歳で御逝去された小松和子パシフィック・ウェスタン・ブリューイング社社長が設立した本商工会議所を一層拡大・発展していくことが、我々残された者の務めと実感しております」と述べた。

 石川領事は6月21日にバンクーバー総領事館に着任。前職は経済産業省中小企業庁国際協力室で、日本の中小企業の海外進出の後押し、また外国の中小企業の育成支援、特にサウジアラビアとロシアの中小企業育成支援に力を入れていた。

(以下は講演からの抜粋)

 現在、BC州には日系企業約250社が進出しています。今回の講演会では、いつか、どこかで皆さまのビジネスチャンス拡大につながるような話として、大きく①CPTPP、②IT、③観光の3点についてお話したいと思います。

CPTPP
 CPTPPとは「包括的かつ先進的な環太平洋パートナーシップ協定(Comprehensive and Progressive Agreement for Trans-Pacific Partnership)」といい、日本、オーストラリア、ブルネイ、カナダ、チリ、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、ペルー、シンガポール、ベトナムの11カ国による経済連携協定です。各国ともお互いに関税を引き下げ、貿易上の障害を取り除き、域内の貿易を拡大していこうとするものです。

 皆さまもご存知のとおり、2016年のオバマ政権の時にオリジナルのTPPが合意されたのですが、トランプ政権がTPPからの離脱を宣言しました。その後日本が主導的な役割を果たし、残りの11カ国でTPPの交渉を続け、最終的に本年3月に11カ国がCPTPPを署名し、各国は当該協定の締結に向けた作業を進めています。

 内閣府の調査によると、2016年度実質GDP水準換算では日本国内で7・8兆円の経済効果があり、2016年就業者換算では日本国内で約46万人の増加が見込まれるとしています。

 カナダは世界有数の農水産品の輸出国であり、特にBC州の港からは同州のほか、アルバータ州、サスカチワン州、マニトバ州などの州で採れる豚肉、牛肉、小麦、大麦、菜種油、果物、木材、魚貝類などの農水産品を日本に輸出しています。

 本協定が発効し、日本向け農水産品の市場アクセスが緩和された際には、BC州を拠点とするこれらの農水産品を取り扱うビジネスチャンスが生じるでしょう。

IT
 先日BC州議会議事堂を見学した際、天井の四すみにそれぞれ、川で砂金を採っている人、鮭の漁をしている人、木材を伐採している人、果物を収穫している人の4つの絵が描かれているのを見ました。エネルギー・鉱業、漁業、森林業、農業の4つは、今も昔もBC州の主要産業であることの証でもあります。  近年、BC州政府はIT産業の誘致に力を入れています。バンクーバーに進出した日本のIT企業に当地を選んだ理由を伺ってみますと、シリコンバレーは人件費が高く、米国は若干敬遠傾向にあるようです。バンクーバーは日本に近く、BC州はIT関連の起業家向け税制優遇措置があり、ブリティッシュ・コロンビア大学やサイモン・フレーザー大学を卒業した優秀な人材が確保できるという利点が多いということでした。

 バンクーバーでは、日本のIT企業がビジネスチャンスをつかむべく懸命に努力をしており、多くの起業家が集まって切磋琢磨を続けるITの一大拠点であると思います。

観光
 日本政府は2020年までに訪日外国人旅行者数を2015年の約2千万人から2倍の4千万人にしようという目標を掲げています。

 日本は2019年に天皇陛下の御退位及び皇太子殿下の御即位の儀式が行われます。その年にラグビーワールドカップ、G20首脳会議と、その関連大臣会合も開催されます。さらに2020年は東京オリンピック開催の年ですから、日本は世界からますます注目されるでしょう。

 2016年、日本からカナダへの旅行者は約3万人で、前の年よりも10%増加。カナダから日本への旅行者は約2万7千人で前の年よりも18%増加しています。すなわち、日本とカナダの観光のビジネスチャンスは拡大傾向にあります。

 私は、日本の観光客がカナダ、バンクーバーに期待するものは「安全」と「健康」だと思っています。世界中で痛ましいテロがあり、アメリカも不安定な状況の中、カナダは日本と同じぐらい「安全」というイメージがあると言って差し支えないと思います。最近のバンクーバーを訪問される日本の旅行客は、ハイキング、サイクリング、スキーなど体験型の旅行を楽しむ傾向にあるようです。

 日本に旅行するカナダ人も増えるでしょう。全国各地の歴史的な遺跡、お寺、神社など建築物だけでなく、空手、柔道、剣道、生け花、茶道、陶芸をはじめとする伝統文化に触れて実際に体験したいというカナダ人もいるでしょう。日本の伝統文化を紹介するビジネスにチャンスがあるかもしれません。

終わりに
 カナダでは、バスで乗客が気さくに運転手に「サンキュー」と言って乗り降りしています。これは日本では見かけたことがない風景です。

 これからの駐在期間を通じて多くのカナダ人と接し、アメリカとは違うカナダの良さ、それも自然が豊かであるとか、人がいいという一般的でない、何か具体的なことを実感していきたいと常々考えています。

 以上、ご静聴ありがとうございました。

(取材 ルイーズ阿久沢)

  

今年度の理事のみなさん (前列左から)ロバート藤田さん、ギャリー・マトソンさん(副会長)、アダムズ弘美さん(会長)、大竹加代さん、(後列左から)サミー高橋さん、松山正義さん、ケーシー若林さん、東敏隆さん(事務局長)、ユウジ・マトソンさん、ライアン藤井さん、アンディ伊藤さん(舘澤利典さんは欠席)

 

『日加経済関係 今後の展望』について講演した在バンクーバー日本国総領事館より経済担当の石川征幸領事

 

講演会に続き、懇談夕食会が開かれた

 

懇談夕食会で歓談するみなさん

 

(左から)日本・カナダ商工会議所アダムズ弘美会長、在バンクーバー日本国総領事館・経済担当石川征幸領事、東敏隆事務局長

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。