2018年4月12日 第15号

バンクーバー市の隣組で3月22日、日加ヘルスケア協会主催の座談会が開催された。今回は日本で精神科医として勤務していた杉浦留奈さんが、シニアのうつ病と不安症の予防と対策について話した。23人の参加者が熱心に話に聞き入り、質疑応答も活発に行われていた。概要をここで紹介する。

 

杉浦留奈さん(右)とアンダーソン佐久間雅子さん

 

マインドフルな食べ方の実践

 通常通り座談会は、アンダーソン佐久間雅子さんがリードするマインドフルネスからスタートした。今回はマインドフルな食べ方をまず紹介。参加者にはレーズンが2粒ほど配られた。まずその1つを食べてみる。その時にどんなことを感じたか質問されると、意外と食べているものとは無関係の事柄を考えていることに気づかされる。もう1粒を食べるときには、いま食べているレーズンの味、食感などに意識を集中してみるように促された。このように食材や食べている今の自分に意識を向けることがマインドフルな食べ方だ。

 続いて部屋を暗くして瞑想を行うが、今回は自分の呼吸だけでなく、周りの生活音に耳を澄ましてみるように指導された。どれか1つの音に集中して意識を向け、次に呼吸に意識を向けることを繰り返す。雑念が浮かんできてもそれを受け止めた後、また呼吸に意識を戻す。マインドフルネスの効果は、今回のテーマでもあるうつ病や不安症の予防・対策としても注目される。

 

シニア世代のストレス

 かつて我々が経験したことのない超高齢化社会を迎え、シニアはあらゆるストレスを抱えるようになった。1つ目は健康問題。高齢になるにつれ、身体機能の衰えや罹患しやすくなる病気も増えてくる。またリタイア後、経済問題を抱えたり、人づきあいが減り孤立化したり、仕事を通して得られていた生活リズム、役割、目標などを失う。さらに、子供の独立や、友人や伴侶との死別など孤独感を深めるケースも多い。これらのような身体変化やライフイベントによる環境変化により、不安を抱え悩むシニアもいるだろう。リタイア後をどう過ごすかでシニアの生活の質は大きく変わってくるといえる。

 

ストレスがもたらす作用

 不安や緊張などのストレス状態では脳内の扁桃体が活動しはじめる。するとストレスに対応するために交感神経が立ち上がり、またノルアドレナリンやドーパミンなどの脳内神経伝達物質が放出される。これらの物質のバランスを取り、過剰な交感神経の活動をおさえ、自律神経のバランスを保つ役割をするのがセロトニンだ。しかし、ストレスが慢性化するとセロトニンが減って神経伝達物質のバランスが崩れ、自律神経の調整もうまくいかなくなる。このことが不安障害やうつ病の原因のひとつではないかといわれている。

 不安症(不安障害)は、人間が普段感じる感情や身体の体験が過剰にいきすぎて、生活に支障をきたす疾患である。高所恐怖症や先端恐怖症などといった特定の状況やものに対して恐怖を感じるもの、突然激しい動悸や息苦しさなどを伴う一過性の症状が出るもの(パニック障害)、社会不安障害、不安を感じる範囲が広く漠然とした不安を感じる全般性不安障害などがある。

 うつ病の場合、抑うつ気分、興味の消失、不眠、食欲不振、疲労感、精神運動焦燥または抑制、気力減退、自殺願望などの症状がある。これらの症状が2週間以上持続する場合、うつ病と診断される。さらに早期発見の手助けとして知っておきたいシニアに特徴的なうつ病の症状がいくつかある。それは、検査で異常がないのに身体の不調を訴え続ける場合、妄想を伴う場合、認知症のような症状が出る場合だ。また、エネルギッシュで多弁だが不安焦燥感が強い場合など、一見うつ病に見えない場合もある。年齢に関係なく、うつ病も不安症も早期発見と対処が大事だ。症状も多彩なので、その人らしさがない、何か違うと感じたら早めの受診を。

 

治療

 カナダの場合、うつ病や不安症が疑われても、まずファミリードクターに行くことになる。うつ病があると内科疾患(慢性身体疾患)をもたらしやすいのか、また内科疾患があるとうつ病になるのかは結論が出ていないが、内科疾患のある患者にうつの合併率は多く、またうつのある人は内科疾患の再発や予後によくない影響があると多数の報告がある。うつ病との関連性を指摘されている疾患に、高血圧、脳血管障害、心疾患、糖尿病、パーキンソン症候群、慢性関節リウマチ、悪性腫瘍などがある。いずれにせよ内科疾患の有無がうつ病と関連している可能性が高いため、精神科医に紹介された後でも、ファミリードクターと協力して治療にあたることは多い。

 カナダでのうつ病や不安症の治療は、薬物療法とカウンセリングに加え、非薬物療法としてその効果が認められているマインドフルネスも併用されている。うつ病の人には休養が大切といわれるが、シニアの場合、長期療養で筋力が落ちやすく、また認知症に移行するケースもあるため、早い離床を促す。なるべく自分で身の回りのことをするようにし、生活習慣を整えることが大事だ。不安症の人も生活に適応できるように、少しずつ段階的に行動していくことが必要だ。

 

予防

 予防としては、規則正しい生活習慣を送ることが大事だ。このことがセロトニンを増やすことにつながる。これは日常生活で実践できる。まず朝日を浴びること。曇りの日であっても多少の効果はあるので毎日の習慣にしたい。そして定期的な運動、特にウォーキングやジョギングなどのリズム運動をするのが良い。歩行が難しい場合でも座りながら、座るのが難しい場合でもベッド内で何かできることを見つけてやってみてほしい。リズム運動には咀嚼や呼吸なども含まれる。よく噛んで食べることも日常の中で簡単にできる工夫のひとつである。自律神経の中で唯一、自分で意識してコントロールできるのが呼吸なので、マインドフルネスで呼吸を整えることは自律神経を整えることにつながり、効果が期待できる。また、人と集まって話をしたり、会合に参加したりということでもセロトニンが増える。

 うつ病や不安症予防としてできることは他にもある。リタイア後や子育て終了後の「人生の新しい舞台」を前々から準備しておく。趣味を作っておくとか、いろいろなところに行って、自分の活躍できる場所や好きな場所を増やすということも良いこと。新しい習い事やボランティア活動もお勧めである。また、日常生活の中で不安になったことに気がつくことが大事だ。そうすると扁桃体の過活性が収まることがわかっている。感情の言語化というプロセスも加われば、さらに効果的。例えば、日記に「こういうときに不安になった」と書き留めておく。それを数日後に読み返してみると、多くの場合、取り越し苦労だったことに気がつくだろう(認知療法)。そうしたことを繰り返していくことで、脳が再教育されていくこともできる。また、人に話すことも有効だ。不安や悩みを話すことのできる相手が何人かいると、精神的にもバランスを取りやすいのではないだろうか。

 

周囲の対応

 シニアのうつ病は環境に起因するものも多いので、シニアを取り巻く環境を整えることで未然に防げることも考えられる。また、うつ病や不安症などを抱えている人の辛い気持ちに寄り添ってあげられるような、友人や家族のサポートも大切。小さなことであっても、「これも自分でできた」と認識してもらうことも大事だ。できることを少しずつ増やしていくことで、不安が取り除かれていく。また、周囲の人たちも一緒に不安にならないように、まず落ち着くことで患者の安心感はより大きなものになる。しかし症状が強かったり、患者が自殺願望を訴えたら、家族が抱え込まずに迷わず受診させるべきだ。

 

 うつ病や不安症についての詳しい解説から、自分でできる予防法から周囲の対応まで幅広く説明され、参加者は興味深く聞き入っている様子だった。

 

杉浦留奈さん プロフィール
名古屋大学医学部付属病院精神科などに勤務。精神科医師、精神保健指定医。現在はリッチモンド市が開催するWellness Clinicで指圧及び健康アドバイスのボランティア活動を行なっている。

(取材 大島多紀子)

 

 

質問も多数寄せられて関心の高さがうかがわれた

 

 

 

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