2018年1月18日 第3号

日本酒の造り手である春日井敬明(よしあき)さん、そして創業者の小林友紀さん、河村祥宏(よしひろ)さんの3人のイニシャルが偶然にも一致。YK3と命名して日本酒メーカーを創業したのは2013年のことだ。江戸時代の方法で日本酒を造り、地元ならではの生酒も生かし、足を使ってカナダの人々へ日本酒浸透を進めるYK3。その地道な活動ぶりに迫った。

 

機械を一切使わず酒造りを行う春日井敬明さん

 

日本とカナダの平和友好の祝い酒に

 第二次世界大戦中、日系人の強制移送先となったアルバータ州レスブリッジ。この地には日本とカナダの平和で友好的な関係を築こうと造られた日加友好ガーデンがある。2017年12月、そのオープン50周年記念祝賀会でふるまわれたのが、同社オリジナルの紅白の日本酒。伝統的な純米酒の「ニッカユーコー・シロ」に、日本酒が苦手な人でも気軽に飲めるクランベリーとブルーベリーを入れた「ニッカユーコー・アカ」。品種は同ガーデン運営者との相談で決定した。「日本から渡ってきた人たちがカナダで培ってきた歴史と、カナダで造られる日本酒とは相通じるものがあって採用していただけました」とYK3の小林さんは語る。(この2種の酒はアルバータ州での限定販売。ただしサスカチワン州のレストランの顧客にも提供している)。

 

日本文化を北米に広める役割を

 現在カナダには日本酒メーカーがオンタリオ州に1社、ブリティッシュ・コロンビア州に2社存在する。その中の1社がリッチモンド市所在のYK3である。

 YK3には前身となる酒造会社があった。この酒蔵事業の経営数字見込みを分析した時の小林さんの印象は「正直、利益率のいいビジネスではないとは思いました」。

 会計士の資格を生かしてカナダの会計事務所で勤務後、独立してコンサルタント事業を継続している小林さん。カナダ社会にどっぷりの生活の中、日本文化に触れる機会をと、日本酒のソムリエ「唎酒師(ききさけし)」の民間資格を日本で取得していた。そのことを知っていた河村さんから、この酒蔵を一緒に経営しようと持ち掛けられた時の小林さんの第一印象が、前出の言葉だった。河村さんが内に秘めていたのは、この北米の地で、日本文化を広められる社会的意義の大きい事業への志。その思いに共感した小林さんは「酒蔵経営も自分の勉強になるならば」と身を乗り出した。さらにその酒蔵が持つ、飲み手の信頼を獲得できる技術も小林さんの決断を後押しした。それが、杜氏(とうじ)・春日井さんの存在だった。 

 競合ひしめく長野でトップで試験を合格した杜氏の確かな腕。

 春日井さんは、カメラ機器メーカー、オリンパスで営業職を勤めた後に、造り酒屋の造り手「杜氏」への道へ転向。滋賀県、長野県で酒造を経験し、2004年には長野県での酒造技能士の試験をトップで合格するほどの技術を取得した。その腕が買われてYK3の前身となる会社に招かれ、カナダの地で酒造りに挑んできた。「春日井の製法は江戸時代の方法。マシンを一切使わず、自分の手で痛々しいくらい大変な作業をしているんです」(小林さん)。

 日本では地酒ブームと言いながらも、完全に機械化し、完璧に温度管理された製法で造るメーカーが多い。そうして造られた酒から、その土地ならではの味わいがどれだけ出てくるものだろうか。春日井さんは疑問を抱く。「本来、お酒はその土地に合わせて貯蔵してうまみを出す訳ですから」しかし日本は温度変化が激しいという事情もある。「幸いここバンクーバーは夏が涼しくて、お酒を造るのにはいい環境。年中通して製造できます」(春日井さん)。

 同社の工場の清潔な空間に数々の醸造器が並ぶ。ここにむせるようなアルコール臭はなく、すっきりとした香りが漂う。原料となる米は、ほぼ無農薬。自然界に存在する他の菌の影響を受けないよう酵母を少しずつ増やしながら醸造する。周りの自然の環境がつねに変化する中、安定した発酵状態を保つために細やかな配慮と調整が必要となる。春日井さんの頭に聞こえるのは「考えろ」の言葉。自分の師匠の杜氏からも父親からもそう叩きこまれた。謙虚な姿勢で考えに考えながら、麹菌、酵母という微生物たちに向き合う。

 

デリケートな生酒が供給可能

 現在9種類を製造するYK3。「カナダではまだ需要が小さいので、特定のお酒だけを造るのでは経営が難しいですね。カナダ人の好きな日本酒のタイプが日本人と同じでもないですし。古い製法ながら、熟成純米酒から、アルコール度が11パーセントと低いもの、フルーティーなものまで幅広く醸造しています」(小林さん)。

 同社の強みは、火入れ(加熱処理)をしていない生酒を造って顧客に直送できること。現在BC州では各リカーストアへの配送前の倉庫に冷蔵設備がないため、輸入品の生酒は流通していない。爽やかな味わいが魅力の生酒を提供できるのは、醸造所から直接配送できるカナダのメーカーだけだ。

 そうした強みも生かしながら、同社はカナダの人たちに日本酒の魅力を懸命に伝えている。「自分からリカーストアで日本酒を手に取るカナダ人はそういない。自分から出ていくしかない」(春日井さん)。食品イベントへ出店し、試飲を勧めるときのことを小林さんはこう語る。「ここにスピットバケット(吐き出し用の器)もあるし、とりあえず全種類飲んでみてって勧めると、どれか一つは『これが好き』となるんです。でも最悪、うちの酒が好きじゃなかったとしても、今度また他のお酒(日本酒)飲んでって言う。ワインやビールと一緒で、トライしつづけることで、いつかは好きなお酒に当たるかもしれないよって」。質の低い日本酒や好みでないものを飲んだために、日本酒は自分に合わないと決めつけてしまった人をたくさん知っている小林さん。それだけに日本酒本来のうまさを知ってもらいたいのだ。

 

バンクーバー島で販路開拓

 営業先は近郊に留まらない。2年前、春日井さんはフェリーでバンクーバー島へ渡り、ビクトリアのレストランに飛び込んで「お酒の売り込みに来ました!」と店主に声をかけた。対する返事は「何だって?」。1回営業に来たところで、こいつは2度と来ることはないだろう。その程度の姿勢で俺に何をお願いしようというのだという意味の罵声だった。店主に図星を突かれた春日井さんは思った。確かにビクトリアは遠くて交通費がかさむ。しかもBC州政府の権限で酒類の販売、流通を制限される仕組みである以上、店に足を運ぶ意味は薄い。しかし春日井さんは店主に「わかったよ、毎月来てやるよ!」と約束。以来、毎月ビクトリアに行く際には、経費を無駄にしないため、他のレストランやプライベートのリカーストアを回り続けてきた。そしてリカーストア店内で試飲提供を重ねるうち、「最初の頃は『こんな得体の知れないもの飲めるか』って言ってた人が、『お前、この前いただろ?』となって——」。こうした取り組みで、ビクトリア、ナナイモ、コモックスにまで販路を拡大してきた。

 

信頼の積み重ねで

 バンクーバーの人気レストラン、キッサタントにYK3の日本酒がタップ酒として置かれたのは2016年のこと。キッサタントでの採用が決まった後には、同店や系列店のオーナー、シェフやサーバーを含む25人がYK3へ見学に訪れ、酒造りの工程を学ぶほどの展開を迎えた。「日本食以外のところにも、日本酒が広がっていってほしい」という同社の願いは確実に叶い始めている。

(取材 平野香利)

 

ニュージーランドの酒蔵Zenkuro創業者の一人でもある河村祥宏さん

 

おいしい日本酒を探すうち、いっそ自分でと酒造の世界へ

 

日加友好ガーデンのオープン50周年記念の会でのレスブリッジ市のクリス・スペアマン市長(写真右)とYK3の小林友紀さん

 

写真右端のにごり酒が意外にカナダ人に受けるというa

 

日加友好記念に造った紅白の酒

 

 

今週の主な紙面
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