2017年1月12日 第2号

アメリカ、シアトル近郊のベルビューで私立小中学校ベルビュー・チルドレンズ・アカデミー(BCA)を設立運営している清水楡華さん。昨年10月には、バンクーバーで日系女性企業家協会主催による講演会「夢を形にする喜び」で講師を務めた。その折にインタビューしたものと、2017年の抱負も交えたものを紹介する。

 

 

清水楡華さん

 

 BCAでの日本的なサービスと高いレベルの教育は現地でも高く評価され、現在約700人のアメリカの子どもたちが通っている。現地の日本人子女教育にも力を入れており、土曜日本語学校には約260人が通う。また、日米協会のボード、シアトル・シンフォニー・コミッティー・メンバー、シアトル裏千家委員長、ジャパンフェア実行委員長を務め、日本のアートや文化を紹介するボランティア活動をしている。

―アメリカへ来るきっかけ

 「主人の仕事の関係で当初は1年の予定だったのが長くなり、そのうちに主人が胃がんを患い、闘病生活の上に亡くなりました。その後、学校を引き継ぐ人も見つからず、自分で運営するようになりました。3人の子どもたちもアメリカ生活に慣れ、その将来を考えた時に、日本での教育よりもアメリカでの教育を選びアメリカに残ることにしました」

―学校を始めたいきさつ

 「子どもたちが最初ESLに入れられ、その内容では英語が身につかなかったので、ひらがなを習得するように、そして英語をロジカルに読めるようになるカリキュラムを自分で独自に作りました。それですらすら読めるようになり、アメリカ人以上の英語力が身につきました。学校からギフテッド(英才教育プログラム)に行くように言われたことで、当時のアメリカ人の父兄が強く関心を持ち、その教育法に注目するようになりました。そして学校をオープンすることを提案されました。やり始めてみると、手続きなどいろいろと大変でした。最終的にカリキュラム作りをしている私が中心となり、代表として学校がスタートしました」

―日本での教育関係の仕事

 「海外駐在員の帰国子女に、英語環境がなくなっても英語を定着させるためのお手伝いや、教材作りをしていました。高校の時の留学で、ホームステイ先が小学校の先生のご家庭で、アメリカの子どもたちが英語をどうやって学んでいくのかを見たのは印象的でした」

―最初に学校をスタートした時の様子

 「最初は10人から始まって、翌年には倍に増え、口コミのみで増えていきました。アメリカでは政府から学校補助がなく、私自身、投資ビザだったのでNPO(非営利団体)は作れませんでした。また、アメリカ人にとっては外国人である日本人が、アメリカの学校設立ということでかなり冷ややかに見られておりました。学校の場所選び、建物の基準など、たくさんの法令を調べて従うのはもちろんのこと、投資する資金もなく大変でした。それでも従来、カリキュラムを作るのは大好きで、夢を持って取り組んでいました。息を切らせながら、目の前のひとつひとつのハードルを越えていくという状態でした」

―学校の定期預金利用のサポートシステム

 「生徒が増えるにつれ、より広い校舎が必要となり、資金も調達できなかった折に、ひとつのアイディアが浮かびました。学校の銀行での1年物定期預金を父兄に提案するというものです。バブル崩壊で利子が1パーセントもないときに、2・2パーセントの利子を保証する定期預金の商品を銀行に作ってもらい、銀行はそれを現金担保として校舎建築のローンを組むというアイディアです。すべての銀行を回り断られた末に、たった1つ小さなできたばかりの地方の銀行が引き受けてくれました。あくまでも1年物定期預金でしたが、生徒とご父兄がこの学校に満足して続けていくという想定で引き受けていただきました。現在、90パーセント近い父兄がこのプログラムに参加し、喜んでくれています。当初小さかったこの銀行も、現在このプログラムの預金高だけで700万ドル近くなり、大きな地方銀行の1つになりました。何年かたって、私が何を一番この学校に寄与できただろうかと考えるとき、このアイディアがそのひとつです。このプログラムなしに今の発展はできませんでした」

―現在BCAの先生は約150人で生徒数は約700人

 「担任の先生の他に、コンピューター、スパニッシュ、アート、ドラマ、PE(体育)、ミュージックの6科目は専門の先生が教えています。給食もあります。マイクロソフトの近くということで、生徒たちはロシア、インド、オリエンタル、ヨーロッパからと国際色豊かです。保護者の方はそれぞれの国からのエリートで、教育熱心です。ひとりひとりの生徒を自分の子どもと同じように大切にし、その個性を生かし、生きる力の礎になる教育を提供したく思います」

―日本式算数を教えることへの先生たちの抵抗

 「アメリカの算数教育とまったく違う日本式の算数教育を導入したので、当初かなりの抵抗がありました。そのうちに子どもたちの高い学力を見て、先生にも日本式算数を認めてもらえるようになりました。今では、日本式算数を教えているということに誇りをもって、トレーニングに熱心に参加しています。当校で使っている算数の教材『BCA Math』は、日本の教育同人社が出版元になって全米で出版されます。日本の算数教育は、日本を世界へ紹介できる素晴らしいもののひとつです」

―IB(国際バカロレア)の候補校

 「IBプログラムの候補校となって2年目です。IBプログラムの履修は、世界中の大学への進学を可能にします。当校では、小学校からのPrimary Years Programや中学校からのMiddle Years Program を実施しています。IBというのはフレームワークであり、カリキュラムに関してはBCA独自のものを使用しています。IB認定スクールになるのは学校設立15年目のチャレンジです。積極的に未来を見て取り入れていくことが大切と考えます。このことで、先生のモチベーションも上がりました。子どもが主体になって知識だけを学ぶのではなく、学んだ知識をどう応用していくか、そして発見発達へつなげていくかを学習します。未来の世界を担う国際人として、コラボレーションの大切さ、プレゼンテーションする力を養います」

―BCA日本語学校について

 「BCAをオープンした頃で、土曜日は教室があいているのでそこを使うことにしました。現在では幼稚園生から高校生まで260人ほど通っています。国語と算数は日本で使われている教科書を使っています。日本の唱歌に触れることのできる音楽の授業もあります。全体授業中心で、授業時間を基礎復習に20パーセント、学年の内容を60パーセント、そしてチャレンジを20パーセントと分けて指導します。ひとりひとりの子どもが参加できる授業を計画して、楽しく通ってもらえるようにしています」

―今後の目標

 「子どもたちは無限の可能性を秘めているので、それをガイドしていく私たちの仕事もまた無限です。新年度は日本の伝統文化の紹介として茶道を紹介していきます。現在95人のアメリカ人の通う中学部も大きくなっており、リーダーを探しています。春には教育同人社と共に、アメリカへの『BCA Math』の販売が始まります。日本へ向けては、英語を一番最初に読めるようになるプログラムの紹介をします。そして、アメリカの英語教育を日本の子どもたち用にアレンジして紹介していきます。

 昔お世話になった方に、物事をやろうと決めたときに、もうすでに目に見えない成功への道ができていると教えられました。あとは、真摯に一生懸命、一歩一歩を大切に確実に歩むだけです。いつか叶うであろう自分の夢をイメージして胸を大きく膨らませて歩くのみです。どうぞみなさまにとって、2017年が夢が実現する年、または夢を立てる飛躍の年となりますよう、心よりお祈り申し上げます。  最後になりましたが、バンクーバーでの講演においては、たくさんの方に準備していただきお世話になりました。みなさんに暖かく迎えていただき、またひとつバンクーバーの良さを発見できました。またいつかお会いできる日を楽しみにしております」

 (取材 大島 多紀子)

 

 

日本の教育同人社と作った「BCA Math」

 

 

10月に行われた日系女性企業家協会主催の講演会の様子

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。