冒頭の挨拶をする伊藤秀樹総領事遠く離れた祖国での災害と危機。家族、親類、知人など被災者への心配と悲しみ。この状況は私たちにショック状態だけでなく、気分が重いといった抑うつ気分、ストレス状態を引き起こしている。4月5日、隣組・日加ヘルスケア協会・日本総領事館共催(協賛:ナショナル日系博物館ヘリテージセンター)の特別セミナーが日系プレースで開かれ約40人が参加。カウンセラーと医師が心の健康のマネージメント、子どもたちが災害報道に晒された結果受けるストレスへの対応について日本語で説明した。

 

長期に渡る日本への支援のために

多くの人が遠く離れたこの地から祖国の災害に心を痛め、精神的・身体的にストレスを受けている。これからの長期に渡る日本への支援のためにも心と体のケアが必要であると隣組のスコットモックリーフ知保里さんが説明し、全員で亡くなった方への冥福を祈り黙祷を捧げた。
冒頭で伊藤秀樹総領事は、総領事館に見舞いのメッセージ、義援金、手助けの申し入れなどがあり、このような状況の中でそれが励みになっていると報告。セミナー開催にあたり関係者へ感謝の言葉を述べた。
続いて池田洋一領事が日本政府の対応、被害状況、情報サイトを紹介。「震災に対する取り組みは数か月で終わるものではございません。数年、十年単位でいろいろな問題が起こっておりますので、私たちに出来ることを少しずつ考えていきたいと思っております。皆さまがご健康であってはじめて、いろいろな方に対する支援というものが出来るのだと私は信じております」と述べた。

 

『ストレスの正体と病気との関連』
田中朝絵先生(BC州ファミリードクター)
「気が重い」「食事が取れない」「夜眠れない」「胃が痛い」「腰が痛い」「やる気がない」「罪悪感で楽しめない」。これらは参加者の現在の心境、症状だ。全員でストレッチ後、ストレスが引き起こす・悪化させる病気について田中先生が説明した。この中には免疫力低下によるガンも含まれている。
リラックスしているときに食べ物を消化し、体にエネルギーを与え回復させ、体の修理をするのが副交感神経。それに対し、危険を感じ、戦うか逃げるかの準備(脈はく上昇、筋肉硬直、血行の変化、感覚が過敏)をするのが交感神経。そのバランスが崩れると病気になる。
ポジティブに考えよう
 最悪の状態だ、どうしていいかわからない、とついネガティブに考えてしまいがちだが、ここで大切なのがポジティブ思考。起こったことを認め受け入れる。津波は日本だけでなくインドネシアにもあった、など広い目でみてみる。どうにかなる、なんとかなる、出来ることをやろう、と考えること。田中先生は「災害を機に、津波に強い建物を作る、風力エネルギー、ソーラーエネルギーへの移行など、今後出来ることを捜していけるのでは」と話している。
 今は、テレビの情報にしがみつくのをやめるなど、ストレスの原因から一歩離れることが大切。いつもの生活に戻り、休む、寝る、運動、散歩をすること。自分がリラックス出来ること、好むことをし、話したり笑ったりし、必要なら人に助けを求めること。
 まずは自分をケアし健康に戻ってから人をケアすることが大切と話す田中先生は「周りを許し、感謝し、愛を送ってください」と締めくくった。

 

『再生の力』

~エネルギーワークでするストレス・レリーフ~
原田直子先生 (BC州公認クリニカル・カウンセラー)


ストレスには予測しない地球・生活環境の変化への恐怖、人生における単発的な出来事(両親の死、病気、失職、交通事故など)、日常生活からくるものなどがある。ストレス反応では、サバイバルのためにアドレナリンが上がることも必要だが、過剰すぎると問題となる。
 ストレスは、年を取るほど繰り返しの恨み、潜在意識、罪の意識が重なり、リリースするのが難しくなる。リラックスには入浴、森林浴ほか、一番大切なのが深呼吸だ。
中国医学、ヨガのチャクラ、禅の瞑想、気孔、クオンタムタッチ、ボディートーク、スリーインワンなど、エネルギーワークについて説明後、ふたり一組になって練習した。
地からもらうエネルギーでネガティブな感情を押し出す。宇宙からもらうエネルギーで自分のエネルギーを高め、それを人にあげる。これを毎日実行するだけでその日のストレスがかなり解消され、何度もやるとエネルギーが上がっていくという。
 
遠隔地で起きた災害についてのストレス対処法
(米心理学協会(APA)とカナダ心理学協会(CPA)提案・原田先生意訳)

1.休息を取る

2.気持ちを誰かに話す

3.いつもの日常生活を維持する

4.健康的な生活をするよう心がける

5.援助できる方法を見つける

6.物事を前向きにとらえる努力をする

7.子どもたちへの対応

人への援助
 慰めたり、傍らにいて黙って聞いてあげる。また、食事の差し入れ、買い物、車の運転など具体的で実際的な手助けをしてあげる。アルコール、薬物、非常に不衛生な生活をしていないか重篤なサインに気をつけ、必要なら専門家に相談する。

 

『子ども・家族・故郷:とわに残るもの』

ティーセン祥子(児童・青少年・家族セラピスト)

子どもはストレスや、それを起こした状況(例えば災害)を知的に整理して理解する力が未熟なため、反応が身体的症状や行動になって現れることが多い。体調や行動の変化を見て、SOSの信号をキャッチすることが大切。また、おとなに頼り、おとなの反応を通じて世界を経験するため、出来事に対する親の反応からストレスを感じることが多い。なるべく普段の生活を守り、子どもの触れる報道の質や量に気をつける、家族でくつろげる楽しい時間を設ける、安心感を感覚的・身体的に感じることができるような接し方をする、疑問に思っていることに答えてあげるなどの対応が考えられる。親自身の感情も閉じ込めないことが必要だが、子どもの不安を増加させない形でするよう配慮が大切である。
また、同じ家族の中でも日本での体験や思いに違いのある場合、今回のような災害にも反応に差があることを受け入れることも必要だ。

 

子どもたちの思い
日本の人を助けるために何が出来るか、防災について子どもと話し合う機会を作る。地震や報道が原因で不安になっている子どもにとって、一緒にいてくれる人、助けてくれる人がいたこと、自分にできることがあることが心の支えになる。家庭での体験が心のふるさとの情景として子どもたちの心に残り、将来の力になっていく。

 

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最後に日加ヘルスケア協会総務理事の宮地昭彦さんが谷川俊太郎の詩『守らずにいられない』を朗読。参加者の中には陸前高田市や気仙沼市出身者もおり、途中で涙ぐむ人もいた。
この日受講料の代わりとして集められた寄付金の合計約831ドルは全額、日本への義援金としてカナダ赤十字を通して日本に送られる。
(取材 ルイーズ阿久沢)

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