バンクーバーで起業した日本人起業家4氏が、独自の視点で切り開いてきたビジネスの真髄を語った。日本人としてこの地でビジネスを起こし成功した裏には、外国人だから経験した苦労と日本人だから見えたビジネスのポイントがあった。

パネルディスカッションは6月29日、バンクーバー市コースト・コールハーパー・ホテルで「日本とカナダ間の経済潮流・第3回」— 日本人としてバンクーバーでビジネスを切り開く —と題して行われた。 パネリストは、ブルー・ツリー・マネージメント(カナダ)社長岡本裕明氏、SUKI'Sインターナショナル社長高木月子氏、スカイランド・エスケープストラベル会長島田友子氏、あぶりレストランカナダ社オーナー兼代表取締役社長中村正剛氏。モデレーターはカナダ三井物産バンクーバー支店長佐野亨氏が務めた。主催・日加商工会議所、協力・懇話会、企友会、日系女性起業家協会(JWBA)。

冒頭のあいさつで佐野氏は、新しいもの、価値あるものを試してビジネスを始めるには、バンクーバーは最適な場所と紹介。その理由を、富裕層が比較的多いこと、政治・経済・治安が安定していることと説明した。さらに日本人という視点で見ると、感性を高く持ってまじめに自ら汗をかいてやっていこうという意気込みがあればビジネスで成功する勝率はかなり高くなるとも語った。 今回は4氏の講演内容を要約して紹介する。

 

 

左から、岡本氏、島田氏、高木氏、中村氏、佐野氏

 

考えていくということが必要 ‐ 岡本裕明氏

 1992年に来加。バンクーバーで24年。前半は駐在員として、後半は起業家としてビジネスを展開している。

 駐在員時代はダウンタウンコールハーバーで不動産開発に携わる。11年をかけ8棟約600戸のコンドミニアムを完成。途中、勤務していた建設会社が倒産し、事業を続けるために自身で引き継ぐということもあった。事業を展開していく中で、多くの「初めて」を作ってきた。コンドミニアムでのエアコン標準装備、ワインクーラー標準装備、当時としては破格の5百万ドルでの販売などはその一部。

 当時駐在員は3人。あらゆる面で日本からの支援がない中、規格外のことを3人で成功させてきた。その裏には、3人が全身全霊でこの仕事を成功させたいという強い思いと、3人のベクトルが同じ方向に向いていたことが成功のカギだった。

 そうした経験を経て起業、2006年から不動産事業に転身した。事業内容は、商業不動産、マリーナ、駐車場、レンタカー、カフェ経営と全く異なる分野を展開した。いろいろと試した理由は、誰もやったことがないことをやってこそ価値があると思ったから。「この10年はやればやるほど楽しみが出てくるそういう10年だった」

 不動産開発事業を辞めた理由は、一部の事業内容に自分の弱点を感じたから。「自分の力では勝ち抜けないと思ったので方向転換しようと思った」。そのために自分を見つめ直した。自分には何ができるのか。そして宅地建物取引士の資格や、これまでの経験を生かし不動産に特化するという結論を出した。深堀りすることでより高いサービスを提供できると思った。

 現在もう一つやっていることがある。それはブログの執筆。365日、一日も欠かさず2007年から続けている。なぜか。日々恐ろしいほど多くの情報を受け取る現状で、それを放置するとその情報は消えてなくなる。そこで、良いインプットを書きとめようと思った。雪崩のような情報をまとめるのは結構大変。しかし、頭を使う、指先を使うことを日々の癖とすることで考える癖をつける。それが自分のビジネスにつながっている。

 「時代と共にビジネスも流れていく中で自分の専門のエリアを深堀りし、さらに時代にアジャストしていく」これが必要ではないかと思っている。

 

「おもてなしの心」と 「最高の技術」‐ 高木月子氏

 1972年に家族と共にバンクーバーに。その前はハリウッドでビューティーカレッジを卒業後、ロンドンやパリで学び、ビバリーヒルズでキャリアを積んだ。超トップの店で鍛えられた。自信を持ってバンクーバーに来たが、「華やかな」ハリウッドスタイルはこの地では需要がなかった。

 バンクーバーに来て評判だったイギリス系の美容院を居抜きで購入。しかしそこにいた従業員は、東洋人女性のオーナーの下では働けないと全員辞職。客も同じ理由で離れていった。空っぽの店からの出発になった。

 そこで考えた。どうすればいいのか。気質、気候、生活習慣などを考えて導き出した結論は「ファッション革命を起こそう」だった。朝シャワーを浴びてパッと乾かすだけで仕上がる美しい髪型、雨の日でも透明感のある髪色、デリケートなヨーロッパ人の髪を傷めないきれいで自然なパーマ。これを目指した。これが当たった。日本人でも、女でも関係ない。客は確実に増えていった。

 自分には、本当に好きなことを情熱をかけてビジネスとするために心がけている哲学がある。一つは「おもてなしの心」、もう一つは「最高の技術を提供すること」。

 そのためにスタッフも丁寧に育て、鍛えている。1年間の修行の後、全員ロンドンに3カ月研修に出す。それが終わってからSUKI'Sのスタッフとして働く。現在、世界の一流スタッフとなって第一線で活躍しているのは千人以上というのは誇り。

 44年間、50数カ国の国籍のスタッフと楽しくやってきた。肌の色も、宗教も、性的傾向も、習慣も違う人々を受け入れ、お互いに違いを認識し、尊敬しあい、楽しく、同じ目的に向かってチームワークでここまでやってきたと思う。

 もちろん失敗談も多くある。そこから学んだことも多い。いい弁護士や保険会社を選ぶということもその一つ。もう一つ、日本人は、考える力、作る力が長けていると思う。その強みを生かすことが、バンクーバーで日本人としてビジネスに成功するカギだと思う。

 

変化する社会の中での新しいものへの挑戦 ‐ 島田友子氏

 1996年に起業。当時他の旅行会社に勤めていたが、自分でも会社をやってみたいと思っていたこと、子育てがひと段落したことで、挑戦することにした。その時、日系の旅行会社が売り出されていたこともタイミング的によかった。

 当時、旅行業は熟知していたが起業は知識がなかったので、最初は失敗の連続だった。ようやく開店にこぎつけたスカイランド社の唯一の従業員ですら引き止められず、1人で新しい会社で始めることになった。

 そうした経験から学んだ4つのレッスン。
1、経費削減を目的に安い弁護士や会計士は雇わないこと。ひどい目にあった。会社設立は基礎が大事。弁護士や会計士は多少高額でもしっかりした人を雇うこと。
2、失敗への対処法。失敗は失敗として受け入れ、その対処方法の判断は損得ではなく、自分が正しいと思うことを丁寧に一つずつクリアしていくこと。
3、新しいことに挑戦する。起業当時、すでにコンピュータ時代を迎えていた。そのため、その時に念頭に置いていた2つのビジネスプランとして、コンピュータを使って事業をすること、カナダ人を相手にビジネスを展開することがあった。そのコンピュータ使用の部分では試行錯誤したが、商品紹介だけのサイトでは仕方がないと気づき、オンラインブッキングのサイトを作ることに決めた。そして2001年にescapes.caを立ち上げた。当時カナダ西部では初の試みで、9・11で多少出遅れたが、その後は波に乗り急速に伸びた。
4、変化していく社会を読み取ること。最近は特に変化が速い。コンピュータ予約もすでに当たり前で、継続しておけば予約が増えるという状況ではなくなった。変化する社会に対応していくことが大事だと思う。

 

国籍を超えたグローバルブランドを作りたい ‐ 中村正剛氏

 8年前にウェストヘイスティングスにレストランを開店した。経営者としては22歳から事業を行っている。きっかけは父親の病気。一度は地元宮崎を離れたがサービス業の楽しさに触れ、事業をするなら故郷でと帰郷を決意。実家のすし店に関わった。何事にも自分の意思で行動することを常とし、この時もやる気を持っての帰郷だった。ただ自分のやる気と周囲の関心とが噛み合わなかったが、実家すし店の経営不振を機に自身の責任で回転寿司店へと転換した。これが当たった。しかし2号店出店を前に父親が病気に。そこから経営者人生が始まった。

 26歳で虎コーポレーション株式会社代表取締役に就任し、回転寿司店も8店舗まで増やした。常に上を目指してやってきた。次は海外展開を考え始めた。きっかけは、事業のトップブランドとなったあぶりサーモンずしを作った時に、海外でもいけるという思いだった。そして、「海外で尊敬される店を作りたいと思うようになった」。日本が閉塞的な市場になるとの予測もあり海外進出は絶対会社にとってもいい方向性だという確信もあった。

 バンクーバーに進出しての最初の3年は「すごく大変な思いをした」。それから少しずつ事業は好転。しかしその後も一度は自殺が頭をよぎるような思いも経験した。それでも4年前にはダウンタウンに店を移転し、現在の目標はカナダから『Aburi』のグローバルブランドを世界に展開していくこと。

 今の自分たちの強みは「カンパニー・ストラクチャー」という独自のスタイル。レストラン業界では個人がノウハウを持ち、企業はその能力を買うというのが常識だった。企業が人を育て、ブランドを作り上げる方法がここでは難しいと知った時、初めて経営と向き合った。

 国籍を超えたグローバルブランドを作りたい。そのために会社のビジョンや経営戦略で共感できる仕組みを作り、ビジネスを展開していく。「このストラクチャーを作ってカナダ人チームはすごく強くなった」。日本には日本のいいところが、カナダにはカナダのいいところがある。「カナダで人を作り、カナダで作るチームで世界展開していく」、それが目標と語った。

(取材 三島 直美)

 

 

持ち時間の講演の後、質疑応答があり、会場ではビジネスに興味のある参加者がさまざまな角度から成功の秘訣を聞いていた。成功の数も失敗談も多いという点で4氏は共通していた

 

 

4氏の話に聞き入る会場の様子。4氏に共通するキーワードは、思考力、対応力、実行力、そして、情熱

 

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