「日本食を世界文化遺産に…」という機運の中で

在バンクーバー日本国総領事館後援の今回の特別講演会では、開会の挨拶のなかで、岡田誠司在バンクーバー総領事は、次のように述べた。「バンクーバーは北米で最初の総領事館が1889年に開設された場所です。それは、日本の漁師さんたちが大勢来られ、そのサポートを、ということで開設されたわけです。来年125周年を迎えますが、カナダと日本の関係において漁業は欠かせないものです。そんな意味からも誠に興味深い本日のテーマです」。また、「メトロバンクーバーの中に日本食レストランは870軒。そのほとんどはお鮨屋さん。ちなみにトロントは920軒。この調査は、日本政府の訓令で世界各地での日本食の普及を調べているものです。そして、『日本食を世界文化遺産に…』という機運が高まっています」という紹介があった。

 

世界の漁業事情

海洋資源には限りがあり、獲りすぎれば生態系がくずれる。「海洋資源の持続性」というのが重要な課題で、欧米などでは、一般の消費者もそれをチェックするようになってきた。乱獲というのは、魚探やレーダーなど漁船の能力が非常に向上したことも一因。
そして、地球温暖化による海水温度の上昇。ニューファウンドランドで、南方系の魚が獲れたり、アラスカでもスケソウがどんどん北へ上がっていて、船上で加工できる設備や冷凍設備のない普通のトロール船では漁ができなくなっている。そうした中、当然のことながら規制が必要になってくるが、「違法、無報告、無規制の船」…『IUU』と呼ばれる漁船も出没する。しかし、そうした船には水揚げのためはおろか、食料の補給のための寄港もさせないという厳しい措置が世界各国でとられている。
『IUU船』の端的な例が、ロシアのカニの密漁船。『IUU』はギャングの資金源になっていたりするが、もちろん、漁場も荒らされるので、相当に厳しい対応がとられている。

 

 

昔、北米の海は日本漁船の漁場だった

1976年にアメリカが200カイリ法を実施するまでは、3〜12カイリのアメリカ領海ぎりぎりまで入って魚を獲っていたが、以後は日本の漁船は締め出されることになった。当初は一定枠をもらい200カイリ内に入って日本の漁船も操業していた。しかし、アメリカもすぐ漁獲能力が向上し、日本漁船の操業は不可能となった。また、アメリカの水産加工能力も同様で、特に、アラスカはそれまで、日本の漁場だったものが、反対に、日本への魚の輸出国となった。
200カイリ法施行以後のアメリカは、漁業資源管理が徹底していて、「RC」という組織を全国8カ所に作り、専門の科学者、地元の業界、環境団体、そして、普通の漁師にまで発言権が与えられていて、現場の意見が中央の政策決定に反映される仕組みになっている。
カナダもアメリカに次いで200カイリを宣言したが、アメリカより漁業規模も小さく、漁獲能力も小さいカナダは、200カイリ制定以後も日加漁業協定に基づいて、200カイリ水域内での日本漁船の操業を認めていた。カナダの海洋漁業は1800年代の古い漁業法に基づいて、漁業海洋省がすべてを管理。ブリティシュ・コロンビア州など沿海州の権限は魚類の加工施設の管理だけ。すべてはオタワの連邦政府の管理下におかれている。200カイリ施行前は、アメリカ同様12カイリのカナダ領海ぎりぎりまで魚を獲っていたが、施行後は、日加漁業協定に基づき、限定的な範囲で200カイリ水域内でも行われていた。しかし、カナダの漁獲能力が充実するにつれ、こうした機会も失われてきた。

 

いま、北米は日本への水産物輸出国

アメリカからの対日輸出は、主にアラスカからで、紅サケ、ニシン、スケソウ、銀ダラ、キンキ、アカウオなど。製品形態の主役は紅サケ、スケソウのすり身、スケコ、タラバガニ、ズワイなど。カナダの場合もBC州からサケ、ニシン、数の子昆布、ウニ、銀ダラなど。特に、BC州のフレーザー河の紅サケは、昔から対日輸出の主役だったが、今では資源状態が満足ではなく、主役は数の子、銀ダラに移っている。銀ダラは、日本の築地市場で、紅サケを上回る値段がつくような人気商品となっている。フレーザー川の紅サケがこの数年、大幅に減っている。その原因はまだ不明のままだが、海洋環境の変化ではないかと推察されている。ニューファウンドランドやノバスコシアなどカナダの東部からはズワイガニ、抱卵ニシン、ホッキ貝、シシャモ。また、大西洋クロマグロも日本が主な輸出先となっている。
しかし、近年、アメリカの場合もカナダの場合も、中国の水産物需要が急速に増えるにつれ、価格を釣り上げるため、日本のバイヤーたちは、買い負けの連続だという。

 

 

進歩する魚の養殖技術

漁獲制限、海水温暖化、魚の消費量の急増などを背景に、魚の養殖が注目されている。養殖の魚は薬品の臭いがする、海の汚染につながるなど、マイナスイメージがあったが、近年はえさや飼育法の研究が進み、薬品をほとんど使用しなくなった。
日本のニュースなどでも大きく報道されたクロマグロの完全養殖の成功例、さらに、海面養殖だけではなく、陸上でも海水魚を養殖できる技術なども開発され、発展途上国などでも魚の養殖を大切な産業として導入するようになってきている。

 

健康維持に欠かせない魚の栄養素

魚には健康維持に欠かせないオメガ3などの多くの栄養素があり、貴重な食料として見直されている。日本料理、なかでも寿司の世界的な広がりは、健康維持への関心の高まりと無縁ではない。
最近、日本人が魚を食べなくなったといわれるが、一人当たり、年間に魚を食べる量は57キログラム。アメリカは15キログラムだから、日本人の魚好きはまだまだ健在といえるだろう。日本人は海に囲まれた国土で、何千年も前から海洋蛋白に大きく依存しながら独自の海洋文化をつくってきた。海は私達民族の歴史、国民性の形成に非常に大きな役割を果たしてきた。海という地球上のすべての生命のもとを大切に守ることが、人類の永遠の存在に不可欠であり、海が持つ底知れない創造力に心から敬意を表したい。

 

 

紙面の都合で、講演のすべてを紹介できなかった。話の間に挟まれる漁業に関する裏話は、日頃、特に関心を持たず「食べるだけ」になりがちな我々をも、話に引き込んだ。また、続編を、と願うのは欲張りだろうか。

 

(取材 笹川守)

 

 

〜 桜楓会案内 〜

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