お客さまが求める素敵なスタイル

パリで色彩を学びロンドンでカットを習い、ビバリーヒルズで仕事をしたあと1972年にバンクーバーへ。1歳半と9歳の息子を連れたシングルマザーは、3か月後に5台のイスがある美容院を購入した。
場所は高級住宅地ショーネシーに隣接したサウスグランビル。当初は『東洋人の女性に髪を触られたくない』など人種的な偏見もあった。
それを乗り越えてSuki'sが発展した理由のひとつに『お客さまが求めるスタイル』を提供したことがあげられる。それを知るためには、まず会話しながらお客さまを知ることが大切。
バンクーバーの気候やそれぞれの生活習慣、職業を考慮しながら、高い技術を用いて創りだす新しくて素敵な髪型。それに気づいた進歩的な女性グループの中には、ウッドワーズ夫人、オーエン総督夫人などバンクーバーのビジネス・社交界の中心的人物が多く含まれていた。
「カットがいいとスタイルも楽ですよ」と自身の髪を指先ですく。

 

 

ファッションの中心、ロンドンで新作を発表

カットの技術に加え、カラースペシャリストを導入したSuki'sは次々に新作を発表。当時(1970年代)のファッションはロンドンが中心だったため、新作の写真を送ると、注目を浴びた。
次に臨んだのは、ロンドンでの国際的なショーに出場することだった。ショーは土・日に渡って行われるが、日曜日の5時45分、人気サロン『サスーン』の舞台の直前の時間帯をリクエストした。
音楽に乗って踊る前衛的なバレエダンサーたち。ストーリー性のある舞台で披露するカットとカラーの技術。大きな経費を動かして行った試みが大成功し、これを機に業界での地位を確立した。
1981年、後進の指導を目的にSuki'sアカデミーを創立。2006年からは、高木氏とスタッフがバンクーバー高等学校美容部門で教鞭を取っている。美しさと高い技術を追求するサロンとしてバンクーバーに4店舗を構え、美容学院とスパを営むSuki'sは、昨年創立40周年を迎えた。

 

 

人を育てていくということ

Suki'sで働きたいというスタイリストとカラースペシャリストの卵はたくさんいるが、その中から毎日の修業と訓練を経て、厳しいテストに合格した者だけがサロンで働くことができる。
スタッフに一番役立っているのがスタッフ教育だ。フロアに立つまでには技術的なことはもちろん、基本的な接客作法も身につけなくてはならない。
「私は一番にはひとりの人間としてどうあるべきか、自分の人生をどう生きるかを常に意識し、仕事を通じて自分に誇りを持てるようになってほしいと思っているのです」
高木氏自身が行う週に1度のアプレンタス(アシスタント)のトレーニングでは、美容のことばかりでなく、声の出し方や歩き方を指導し、1年後には幅広い知識と話題を提供出来るよう育て上げる。
今まで世に送り出したスタイリストは1000人以上。その多くが世界の一流店での仕事に就いたが、Suki'sでの経験が彼らの基礎となってほしいと願っている。

 

世界36か国から150人のスタッフ

スタッフの数は世界36か国から150人にも上る。無宗教者から7つの違なる宗教まで、異文化や習慣が入り交ざる人間関係は決して簡単なものではない。そんな中、美しいハーモニーを保ち、和気あいあいと仕事をしていくことが出来るのは、お互いを尊重しあい、ひとつのビジョンを分かち合って働くことの出来る環境があるからだ。
その影には高木氏自らがスタッフの国や文化の背景を勉強し、理解し、尊重し、みんながひとつになれる環境を心がけていることが大きく影響している。
現在は経営の指揮を次男に譲った。「息子は膨大な時間や経費のかかるショーよりも、スタッフの目標設定と評価、お客さまに素敵な時間を提供できるようチームワークに力を入れています。その時代のニーズに合う経営方法が大切ですし、企業は変わっていって当たり前と思います」。そんな柔軟性も、成功したビジネスの維持に欠かせない要素といえる。

 

積み重ねる社会貢献

Suki'sが出場したヘアーショーや担当した舞台の仕事の中には、チャリティーイベントが多く含まれていた。昨年11月、40周年の記念イベントの会場としてバンクーバー・アートギャラリーを選んだのは、ギャラリーのためのファンドレージングを行いたいという社会貢献を兼ねた理由からだった。
YMCAでの理事・監査役やビッグ・シスターでアドバイザリー・コミッティーを務め、ボランティアで地元の各団体をサポートし続けてきた。当初、これらの役職は男性、特に白人が占めていた。そんな中で積極的に発言し、日本人というものを理解してもらい、認められる存在になれればとの願いがあった。
「この町に何か貢献出来るというのは幸せなことだと思っています」

 

 

情熱を持ち続けて得る美しさ

年齢を重ねることによって、美しさというものが内面から溢れ出てくる。自身の歴史を語る手や顔の皺を誇りに思ってもらいたいと提唱する高木氏は「若さというものは、いつも前向きに情熱を持って仕事や趣味に遭進していくことで保てるのではないでしょうか」と話す。
「父は当時としては珍しく、女性も職業を持ち、社会に貢献していくべきだと考えていました。息子たちも、地域や人のためになる仕事をしていることをとても誇りに思っています。40年間、毎日感謝の心を持って仕事をしてきました。子どもたちやスタッフと、今までの人生で得た価値観を分かち合えたら幸せです」
絵画、演劇など芸術的なものに興味を持ち続けながら、いろいろな国を訪れたいと話す高木氏は、これからも多くの人の憧れとして輝き続けるに違いない。

 

(取材 ルイーズ阿久沢)

 

高木月子(たかぎ・つきこ)

満州国(現中国)ハルビン生まれ。ロンドンとアメリカに留学後1972年カナダに家族と移住し、同年 Suki's インターナショナルを設立。1981年、Suki'sアカデミーを創立。Suki's 創立者 CEO。JWBA 名誉会長。Big Sister名誉会員。
YMCAの理事として15年活躍。1994年にはYWCAの「Women of Distinction award」教育部門にノミネートされ、同年「Entrepreneur of the Year」を受賞。

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。