2019年6月20日 第25号

6月15日、ブリティッシュ・コロンビア州バンクーバー市のMOSAICで、バンクーバー市での開催は一回目となる「思春期の育ちとメンタルヘルス」に関する講演会(メディアスポンサー:バンクーバー新報)が行われた(ジャムズネット・カナダ主催)。この講演会には、パソコンやスマートフォンを使って、オンライン参加することもでき、ケベック州ケベック市、オンタリオ州トロント市、ノバスコシア州ハリファックス市、BC州ホワイトロック市、ケベック州モントリオール市からのオンライン参加者を含め、総勢約80人が参加した。今回講師は、和歌山県精神保健福祉センター所長の小野善郎医師が務めた。小野医師は30年来、児童の臨床に従事し、近年では主に思春期の高校生へのメンタルヘルスケアに注力している。

 

(左から)傳法清ジャムズネット・カナダ代表、吉田常孝外務省医務官、宮下基幸福村出版社長、小野善郎医師、許斐由起子サイコロジスト

 

 思春期とは個人差はあるものの、小学校高学年〜高校生にみられる「子どもから大人への移行期」であり、心身ともに不安定な時期のことを指す。小野医師が思春期の高校生へのメンタルヘルスケアに注力する理由は、思春期の高校生に対応できる専門的な医療・福祉には「空白」があり、その空白を埋めるためだそうだ。児童福祉法に基づけば18歳までを「児童」と定義しているが、児童精神科や思春期外来等は初診対象者を15歳までにするケースが多く、高校生へのケアが行き届いていないという課題があった。そこで、小野医師は2017年4月より高校生外来をはじめ、高校生を対象に子どもから大人への移行期の支援を行い、その経験から学んだことを話してくれた。

 

『当事者側の』思春期を理解して支援をすることが大切

 大人から見た子どもの思春期とは「反抗期」として見られがちであるが、当事者にとってはより複雑なものであると小野医師は言う。当事者にとっての思春期とは、自主性・主体性が生まれ、行動で表現したくなる時期であると同時に、それがうまくいかない時期でもある。この時期の子どもたちには、自己決定をしたいけれども迷いがあったり、責任を取らないといけないという悩みがあったり、自信を持ちたいけれど不安で仕方なかったり…というような葛藤があるものだ。外見的には大人とほとんど変わらないものの、実際には子どもであり、一人では生きていけない。彼らが「自主性・主体性を行動で表現したい」という気持ちがあるからといって「自立できる」というわけではないという。決して見放すことはせずに、支援を続けてほしいと語った。

 

子育てで大切なのは「関係を維持すること」であり、スキルや戦略ではない

 思春期の子どもに対して親(もしくは、子どもに関わるすべての人たち)が何をするかではなく、子どもにとってどんな親であるかということが大切であると小野医師は言う。反抗や対立があったとしても、親子関係の一つであると理解してほしい。子どもの失敗や挫折を受け止め、言い訳を聞いてあげられる唯一の存在として、子どもがいつでも帰ってこられる場所でいてあげてほしいと語った。

 

高校生に伝えたいこと

 小野医師は、思春期を生きる子どもたちにも次のことを伝えたいと語った。自分だけが悩んでいると思ってしまいがちだけれども、決してそんなことはなく、誰もが通る道である。今、自分の人生の中での位置および社会的な位置を把握し、行きたい場所がどこかを見つける作業をしてみてほしい。その位置や行きたい場所、また、それらがわかるまでにかかる時間はひとりひとり違っていてよい。迷ってもよい。悩んでもよい。不安になるのが当たり前である。思春期に満足のいく過程を残すことができなかったとしても、その後の人生において全く問題はない。焦らず、大人のスタートラインに立つことを目指してほしいと語った。

 小野医師の「迷ってよい・悩んでよい」というメッセージは、高校生だけでなく、どの世代にも向けられるものではないだろうか。振り返ってみると、記者にも20代の頃、(今のところ)人生で一番辛かった時期があった。しかし、時間をかけ乗り越えた後には「あの時の自分があるから今がある」と思えるようになった。迷い、悩み、落ち込む時期があることはきっと意味のある過程なのだろう。

(取材 わしのえりか)

 

講演の様子

 

講演をする小野医師

 

講演をする小野医師

 

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