2017年11月9日 第45号

「目に焼きついている西海岸の色。そのエッセンスを抽象画にして多くの人々に見てもらいたい」。カツミ・キモトさんの画家としての情熱も、画廊経営者としての挑戦も、着実に進行中だ。

 

カツミ・キモトさん ©Jurgen Vogt

 

カルチャー・クロウルのロゴ

 

 

故郷は西海岸

 カツミ・キモトさんはバンクーバー島の東端の町シドニーで生まれた。育ったのは同島の太平洋に臨む漁業の町ユキュレット。

 日系のキモトさんに、まずは祖先について聞いてみた。

 「よくは知らないので」と言い、キモトさんは、ユキュレットに住む祖母に電話を入れる。電話口から、キモトさんの曽祖父の一人は福岡県から、もう一人は滋賀県からブリティッシュ・コロンビア州に来て漁師をしていたことが分かった。キモトさんの父親もユキュレットで漁師として働いた。

 目の前には、青い波が岩に白く砕ける海岸。後ろには、うっそうと茂る温帯雨林の森。鮮やかな緑の苔が巨木の間を絨毯のように広がる。そんな自然の中で小さい頃を過ごした。

 「野原でホッケーをしたり、ビーチを走り回ったり。でも絵を描くことも好きだった」と振り返る。

 「18歳まで過ごしたユキュレットが故郷」。今でも故郷に戻り、彩りある自然の中に身を置くとほっとする。

 

自己表現の方法は「絵」

 ユキュレットからサレー市にあるクワントレン・ポリテクニック大学でビジュアル・アートについて学び、1999年卒業。その後、ケベック州モントリオール市にあるコンコルディア大学で絵画について学んだ。なぜ、「絵」なのか。

 「思いを伝えるには、私には絵が一番向いているから」とキモトさん。

 モントリオールで「絵」について学んでいるうちに、目に映る形そのものを描くことから、それらを明るめの色で抽象化して描くようになった。

 2001年、モントリオールからバンクーバーに戻った。気がつくと、パレットに絞り出された色がモントリオールの頃から変わっている。「ブリティッシュ・コロンビア州の色」だ。子供の頃から目に馴染んできた西海岸の海、波、森の色合い。それはキモトさんの抽象画のインスピレーションになった。

 

作品制作と画廊経営

 バンクーバーを拠点に個展の開催やグループ展へ参加する。その一方、バーナビーのBCITでニューメディア・デザインの領域での管理・経営について学んだ。その後、15年間、絵画制作を続けながら、バンクーバーの二つの画廊で芸術作品の収集・販売や経営に携わった。大手企業や個人の絵画収集の企画も経験した。

 2013年5月、絵画制作と画廊での仕事という両サイドの知識と経験を基に、バンクーバーに画廊KIMOTO GALLERYをもった。自らの作品のみならず、同じような情熱をもつ芸術家たち30人ほどの作品も定期的に取り替えながら展示販売している。 

 絵画制作と画廊経営の掛け持ちでは、どちらかがおろそかにならないか。

 「たいへんだと感じる時もある。でも、そんな時には絵を描くことへ逃避します」。そうすると集中力と元気がまた湧いてくる。

 画家としてのキモトさんの活動で近頃目覚ましいのは、2016年以来のシリーズ「パレイドリア」だ。

 「パレイドリア」とは本来は精神医学の用語。雲の形や壁の染みが動物や人の顔などに見える心理現象。キモトさんの「パレイドリア」の作品には、並んだ濃淡の色の中や、流れるような色と色の間や、重なり合う色の向こうに何かが見えるようだ。緑の木立からのぞく空かもしれない。水の中を流れるようにいく鮭の大群かもしれない。ブリティッシュ・コロンビア州のエッセンスだ。

 

カルチャー・クロウルを前に

 キモトさんが作品を制作するアトリエがある建物は、イーストサイド・カルチャー・クロウルの会場の一つ。

 「建物が大きくて気に入っています」と言う。

 カルチャー・クロウルには過去8回参加している。準備はどいういうことから始めるのか。

 「スタジオの掃除から」と。

 「多くの見学者と会えますし、各種芸術作品に加え、いろいろな食べ物も用意されるので毎年楽しみです」

 今後の活動については。

 「画廊経営はこれからも続けます」

 「絵の方は、『水』に興味があります」。以前、『クロシオ』と題し、暖流の勇壮な動きを描いたシリーズを制作した。

 「小さい頃、父が漁に出る船に一緒に乗って、父が魚を捕る間、じっと海を見ていたから。これからも『水』を描いていきます」

 故郷ユキュレットがある西海岸の海、波、森。それがこれからもキモトさんの作品の中で鮮やかに再現されるテーマだ。

 

第21回イーストサイド・カルチャー・クロウル

 バンクーバーの芸術ツアー『イーストサイド・カルチャー・クロウル』が、今年も11月16日から19日まで4日間にわたり開催される。

 このイベントは、1997年、45人ほどの地元アーティストのアトリエを数百人ほどの見学者に開放したことから始まった。年々盛況となり、今では500人以上のアーティスト、クラフト職人、デザイナーらが参加し、3万人以上の見学者がある。

 会場は、コロンビア ストリート、ビクトリア ドライブ、ファースト アベニューで囲まれるエリアに散らばる70以上の建物。普段はアーティストらがアトリエとして使っている創造の場だ。

 会場では、画家、彫刻家、陶芸家、写真家、宝石職人、家具職人、ガラス職人、織物師、印刷技術者らの作品展示や制作デモンストレーションが見学できる。 アーティストらと直接話ができることも魅力。作品の購入もできる。

(取材 高橋 文)

 

開催日:2017年11月16日(木)〜19日(日)
開催時間:16日・17日…午後5時〜午後9時 18日・19日…午前11時〜午後6時
ウェブサイト:http://culturecrawl.ca

●カツミ・キモトさんの画廊
住所:1525 West 6th Avenue, Vancouver BC V6J 1R1
ウェブサイト:http://kimotogallery.com/our-story

 

カルチャー・クロウルの会場(Jodie Ponto提供)

 

パーカー ストリート1000番にあるカルチャー・クロウルの会場入り口。一階の108号がキモトさんのアトリエ(Jodie Ponto提供)

 

キモトさんの作品「花束」(Katsumi Kimoto提供)

 

キモトさんの『パレイドリア』より(Katsumi Kimoto提供)

 

キモトさんの『パレイドリア』より(Katsumi Kimoto提供)

 

キモトさんの『クロシオ』より(Katsumi Kimoto提供)

 

キモトさんの作品より(Katsumi Kimoto提供)

 

キモトさんの作品より(Katsumi Kimoto提供)

 

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。