2017年2月9日 第6号

『オクニ(阿国) —マザー・オブ・カブキ』
グランビルアイランドで3月1日から

時は1603 年。一風変わった衣装に身を包み、面白おかしく舞う女性、阿国が現れた。瞬く間に人気者となった阿国は、江戸城や宮廷にも招かれ「天下一」の名を頂戴する。彼女の踊りやファッションを真似する者たちも次々に生まれた。

こうして一世を風靡した阿国だが、1613 年に姿を消す。その生涯は謎である—。

 

阿国は当時のファッションリーダーだったに違いない

 

歌舞伎は女性から生まれた

 歌舞伎の前身である「歌舞伎踊り」を創始した「出雲の阿国」。その阿国をバンクーバーを拠点に世界で活躍する舞踏家・平野弥生さんがダンスとマイムで演じる(3月1日〜10 日グランビル・アイランドStudio1398 にて)。

 

阿国再現のために日本へ

 弥生さんは4年前、日本各地を訪ね歩いた。子供の頃から演じたかったという阿国。さまざまな逸話のある彼女の真の姿と生きた時代を探るためだ。そして作品の構想を練り、振り付けや演出を熟考。昨年8 月から稽古に励む傍ら、適任のスタッフを集めて舞台を準備してきた。迎える3月の公演は満を持してのダンス・パフォーマンスとなる。ソロのパフォーマーとして、日本、カナダはもとより、アジア、ヨーロッパでも数多くの舞台を踏んできた弥生さんに、今回の公演にかける思いを聞いた。

 

—400 年も前の阿国の踊りについて、どのように構想したのですか?

 まず阿国は巫女だったので、舞楽(雅楽の舞い)や巫女の踊りも勉強しているんじゃないかと思うんですね。音楽については、阿国一座には名古屋山三郎という人がいて、能の鼓を演奏する人でした。それに阿国の踊りには三味線が使われていなかったことがわかっています。ですから能の時代までの楽器を使うことにこだわりがあったのではと推測しています。

 日本で踊りの歴史を調査をした際に、佐渡島に渡りました。島には今も33 もの能舞台があり、毎月そのどこかで能の公演が行われているそうです。舞台には年月を経てきた重みがありましたね。また大阪と横浜に行き、舞楽と巫女の踊りを習ってきました。もちろん、出雲や金沢、柏崎など、阿国ゆかりの地も回ってきましたよ。

—そうしてイメージを膨らませたわけですね。阿国の踊りはどんなところが目新しかったのでしょう。

 阿国はポルトガルの衣装を着て、首から十字架をぶら下げて踊ったりしていました。変わり者なんです。当時は斜めに傾くことを「かぶく」と言って、「かぶいた人」だから「かぶき者」と呼ばれていたんです。彼女はいわば、当時のファッションリーダーですね。おかしみも大事にしていて、お坊さんの格好をして出てきて、上着を剥いでいくと女性の姿になるといった仕掛けもしていたそうです。

—阿国に対する弥生さんのイメージは?

 新しいものに次々とトライしていく女性ですね。美人だったという話はないんです。踊りが上手なうえに、コミカルな動きのできる特別な人だったのだと思いますね。

—舞台はどんな構成になっていますか?

 まず、ピアニストのサラさんの演奏するラプソディ・イン・ブルーに合わせて、商人や盗人など、江戸の当時のさまざまな庶民たちの姿をお見せします。それから阿国の踊りの変遷として、巫女舞いや舞楽、そして彼女独自の踊りを再現していきます。

—まずは江戸という時代背景を観客に理解してもらおうというわけですね。

 はい。そういえばリハーサルで、赤ん坊をおぶった女性の姿を演じて見せたところ、カナダ人の演出助手の人には何の事かわかってもらえなくて……。おんぶに馴染みがないようですね。それで安藤真理子さんに江戸の人たちの絵を書いていただき、それをステージに映し出してイメージをサポートすることにしました。

—他にも北米の観客を意識した部分はありますか?

 普通の日本の舞踊の倍近いスピードで踊っていきます。伝統的なやり方でゆっくり踊ると飽きられてしまいますので。そして70分の舞台で10 着を着替えます。そのため、簡単に着脱できるように衣装を工夫しているんですよ。

—それは忙しいですね!ところで阿国が始めた歌舞伎は、その後どのようにして今に至るのでしょう。

 阿国は、1603 年に歌舞伎を始めますが、1613 年以降の記録がありません。その間に天下一という称号をもらっている。それはなかなか取れないものらしいんですよ。そういう人が一人出てくると必ず真似する人が現れる。今のAKB48 とその他のグループがいくつもあるように、そういった状況になってきたと思われます。その後、遊女として振る舞う者が現れ、風紀を乱すとされて1629 年に女歌舞伎は禁止となります。そこから若衆歌舞伎が同じ理由で1652 年に御法度になります。その翌年に野郎歌舞伎が登場し、歌と踊りだけではだめとされて、今のようなストーリーのある歌舞伎となったわけです。

—では最後に読者へのメッセージを一言お願いします。

 とにかく楽しんでいただきたいです!

 

  人生の大きな試練も、仕事での大舞台も経験し尽くし、今はワクワク感だけを携えて舞台へ。そして「舞台に立てば生きていると感じる」弥生さん。ユーモアを愛し、生をいかんなく表現しようとする情熱は、阿国と一体化してどんな演技を見せてくれるのだろうか。

 

平野弥生さんプロフィール

 1972 年、桐朋学園大学演劇コース卒業と同時にマイム公演活動を開始。'89 年、マイム界初の文化庁在外研修員としてドイツ、カナダでマイム、ダンス等を研修。帰国後の'90 年Y A Y O I T H E A T R EMOVEMENT を創始。2002 年よりカナダを拠点として活動。

 これまでカナダ国内の数都市、ヨーロッパ7都市での公演ほか、シンガポール公演など日本国内外で、数多くの公演経験を持つ。またオーケストラや、ジャズの日野皓正、元彦兄弟、ココロダンスのジェイ平林と共演を行ってきている。

 自身の代表作に『E m o t i o n』『Earth Celebration』『マイム道成寺』『メディア』等がある。パフォーマンスのみならず、作品作り、構成、振り付け指導から能面制作まで活動範囲は幅広い。その表現は「優雅で純粋、感情が繊細で視覚的に夢中にさせる。」(エドモントン・サン)「天才的日本人ソリスト平野弥生。彼女のパフォーマンスは大変精巧で、そのテクニックと演技は傑出している。」(スロバキア・プラダ)などの評を受けてきた。

(取材 平野香利 / 写真撮影 由起子オンリーさん)

 

Okuni - Mother of Kabuki
Yayoi theatre movement society 制作

3月1日〜 3月10 日

会場 Studio 1398, 3rd Floor of the Festival House 1398 Cartwright Street, Vancouver, BC
チケット VIDF.CA 電話604-662-4966 大人30 ドル、シニア・学生25 ドル

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は2020年4月をもちまして終了致しました。