2016年8月25日 第35号

MLSに適用するために自分のスタイルを守りながら何かを変えていく

ホワイトキャップスとして約半年。MLS(メジャーリーグサッカー)初ゴール、選手生活最大のケガ、そこからの復帰。選手として上を目指し飛び出した海外リーグ初シーズンで、山あり谷ありの経験をした工藤壮人選手。 北米でのサッカー、日本との違い、多国籍選手チームでの自分のポジションなど、これまでを振り返った。

 

キャップスとしてMLS初先発。相手のペナルティを誘ったプレーでキャップスがPKを決め勝利に貢献した。3月26日ヒューストン・ダイナモ戦

 

北米リーグの難しさを痛感

 昨季まで所属していたJリーグ柏レイソルでの得点王の実績を引っ提げて、今季からMLSに飛び込んだ。日本では評価も認知度も低いMLSとはいえ、簡単にいくと思って来たわけではない。しかし今、改めてその厳しさを実感している。

 「そう簡単にゴールが取れるとは思ってなかったですし、ケガもすると思ってなかったですし」。8月20日のスポーティング・カンザスシティ戦を終え2ゴール。理想としていたゴール数ではない。もちろん、5月11日の試合中に起こった大ケガで完全復帰するまで約2カ月を要したことも影響している。しかし、「実際、日本でもそうですけど、フォワードとして評価されるのはやはりゴールなので。現在2ゴールということで、もちろん少なさは感じてます」と悔しさをにじませる。「チームの良い状況、悪い状況ありますけど、ただそういう中で僕自身のゴールで流れを変えるとか、そういうところまでいっていないのはちょっと僕の力不足だなって。改めてこのリーグの難しさを感じてます」。

 それでも悲観はしていない。「ああいうケガがあって、今のところ自分が思い描いていたシーズンではないですけど、こっちの環境に適応するということでいえば、あのアクシデントがあって、いい意味ですごいタフな経験ができたかなって。ポジティブに捉えてやってはいます」。

 

MLSは思ったよりもレベルが高い

 MLSについては「僕が想像していたよりも、もう少し上のレベル」と実感している。「フィジカルが前提というのはその通りだと思います。ただ、その中に技術もともなった、試合内容もそうですし、戦術もそうですし、個々のうまさというのも」と評価する。

 最近、MLSにはヨーロッパなどで活躍した人気選手が移籍してきている。確実にレベルが上がっているというのは、6月に元ホワイトキャップス小林大悟選手も語っていた。

 そうした環境の中でサッカーができることも自身のモチベーションになっている。「こういう選手たちと毎試合戦える環境は、このリーグの魅力的な部分でもありました」。対戦した時でも、控えでプレーを見ることしかできなくても、「間近で見て、駆け引きのところや、これが第一戦でやってきた選手たちのプレーなんだなっていうのは、1人のサッカー選手として勉強になります」。まだまだ26歳。助っ人として胡坐をかいているわけではない。新天地で貪欲に新たな自身の可能性を見出すために吸収することはたくさんある。

 日本では経験できないことも多い。長距離移動、極端な気候の違い、過密スケジュールなど、「確実にこんなことは経験できないですし、日本では。ただのアウェーの洗礼というか、きつさじゃないんで(笑)。日本だったら、暑かったらどこ行っても暑いじゃないですか。でも、こっちだったらバンクーバーはこれだけ過ごしやすいし、かたや40度近くある所もあるし。毎日こんなところでサッカーやってるんだってところもあるんで」と笑う。「すごい経験してるなって思ってます」と、それも楽しんでいる。

 

キャップスのフォワードとして

 多国籍なのはリーグだけではない。ホワイトキャップス内もかなり多国籍だ。現在は、中南米出身の選手が多い。「前線の方は南米の選手ばっかりなんで、毎試合(笑)。あんまり前の方で英語が飛び交ってることがないんです」。

 「個」を強く押し出してくるそれらの選手の中で、チームのエースフォワードとしての役割を果たす道をいまでも模索している。「日本である程度やってきて、その日本でのプレーを評価されてこっちに来ましたけど、もっともっと今までの自分、プラス、何かなのか、(それとも)持ってる自分の何かを削ってでもプレーを変えていかなくてはいけないのか」と考え中だ。

 「今まではそんなにゴリゴリでボールを運ぶとか、そういうところに自分自身あんまり重きを置いてなかったけど、こっちだとある程度ボールを持って無理してでも1人ディフェンダーを抜くとか、そういうことをしていかないと、なかなか(今の)チームの状況も変わっていかないのかなって思いますね。やっぱり前線の選手としてアグレッシブに、多少パスとか取られてもいいからそこで相手を抜くことでさらに状況が広がる、チャンスが広がるっていうことは、日本にいる時よりも考えるようになってます」。

 日本ではセットプレーでボールがフォワードに集まってきた。ゴールを決めることに集中できる環境があった。しかし、ペナルティエリア外からでもチャンスがあれば、どんどんシュートを放ってくる、1人、2人とドリブルで抜こうとする選手たちに囲まれ、ボールを待っていたのでは、フォワードとしての役割を果たせないこともある。

 「(ボールが)来た時のその1回で、ボールに触った時に何ができるかっていう、そこを追及しているというか(笑)」。ほとんどサッカー極意の精神修行。「日本では、僕がボールに関わらなくても、ある程度までボールを運んでくれて、プラス、スルーパスとか、そこに僕も集中するだけで。でも、こっちだとそこに集中しても…。監督からも、なるべくペナルティエリアの中にいてほしいって言われてて。そこで強さを発揮できるのは分かってるから、あんまり組み立ての所に顔を出さなくてもってことは言ってくれてるんですけど…ただ、そこで待ってても実際ボール来てないんで。もちろん、監督から要求されていることは守りながらも、何か変えていかなくてはいけないのかなっては思ってますけどね」。

 負けてもあまり原因追及などはせず「ケロッとしている」という中南米選手に囲まれ、「僕なんか、結構まじめな日本人なんでちょっと考えちゃうんで」と苦笑いしながらも、「そんなギャップも面白いなって」と楽しんでいる。

 

今季はお預けとなった日本人対決

 開幕前に話を聞いた時に、MLSでの日本人対決を楽しみにしていた。今年の5月からは日本でのMLSテレビ中継も始まり、日本人選手の活躍で少しでも日本でMLSが盛り上がってくれればと語っていた。

 しかし、ちょうどその日本人対決が実現する矢先に大ケガ。直接対決は実現しなかったものの、2人の日本人選手、ニューイングランド・レボリューション小林大悟選手、トロントFC遠藤翼選手と話す機会を得た。

 「(Jリーグ時代には)全然、雲の上の人だったので大悟さんは。日本でも名前も知られてて、中心選手としてやってたんで。だから、まさかこういう形でつながりができるとは思ってもなかったです。話してみて面白い方でした」という印象。「長く海外でもアメリカ以外でもやってますし、経験もあり、いい味が出てチーム内でもリスペクトされてすごいなって思ってます」と先輩MLS選手を尊敬する。小林選手は「ぜひMLSから日本代表を狙ってほしい」と工藤選手に期待していた。

 トロントFC遠藤選手については「プレースタイル的にはJ(リーグ)を経験してないんで、完全にこっちの選手だなって。大学からこっちでやってきて、ほんとにこっちのサッカーに溶け込んでる、そんな印象は受けました」。

 遠藤選手も今季からトロントに入団し、同じ背番号9をつける。しかもMLS初ゴールも5月7日と同じ日。何かと縁がある。「お互いいい意味で刺激し合ってね、代表で一緒にプレーとかできたら、ほんとにこれ以上、MLSが盛り上がることはないと思うんで」。MLSカナダチームに所属する日本人選手2人が日本代表としてプレーする。そんな日が来るかもしれないことを期待させてくれる2人にこれからも注目だ。

 

「めちゃめちゃいいとこ過ぎて」

 1月の移籍からすでにバンクーバーに来て7カ月が過ぎた。バンクーバーの街の印象は「来る前(に想像していた)より、めちゃめちゃいいとこ過ぎて」だそうだ。「少し行けば、山、海、何でもありますし、ほんとに知らないようなところばっかりなんで、妻とも楽しみながら生活してますけどね」と楽しそうに話す。

 柏では知らない人がいないほどの有名人。何をするにも注目を集める存在だったが、ここでは一人の日本人。街を歩いていても、サッカー選手として気づかれることすら少ない。「柏の時もそんなに意識してなかったですけど。でも、ほんとに外に出る時に気を張るというか、そういうのはこっちではないんで」。そういう意味でも生活をエンジョイできる街。「プライベートのところでもね、気付いててもあんまり声をかけてこないというか。試合の時と、オフの時の選手のライフをすごい尊重してくれてるっていうのは感じます」。

 

プレーオフ進出を目指して

 チームは今プレーオフ進出に向け崖っぷちにいる。勝ち点30で西カンファレンス9位。6位以上のプレーオフ圏内を目指すには残り8試合、ひとつも落とせない試合が続く。しかしまだ望みはある。6位の勝ち点は現在32。まだまた射程圏内だ。

 「プレーオフ進出にまだ可能性はもちろんあるんで、そこにどう全精力を注げるか、何とかチームとしても個人としても、そこに力を注いでいきたいなって思ってます」。

 個人としては今季も二桁ゴールを目標に掲げていた。「毎シーズン二桁取ってきてたんで、環境が変わっても二桁取りたいなって思っていました」。しかし、ケガでの戦線離脱などもあり、なかなか思うようにはいっていない。そして今はチームの勝利が最優先。残り試合での全力疾走を約束した。

(取材 三島 直美 / 写真 斉藤 光一)

 

ケガから復帰第一戦の試合後にファンの撮影に応じる。7月13日リアル・ソルトレイク戦

 

試合後、熱狂的なファンに囲まれ観客席に。チームは今季ホーム初勝利。3月26日ヒューストン・ダイナモ戦

 

復帰後初ゴールを決め喜びを爆発させる。7月16日オーランド・シティSC戦

 

ケガから復帰第一戦初先発で、アグレッシブなプレーでゴールを狙う。7月13日リアル・ソルトレイク戦

 

元キャップス小林大悟選手(現ニューイングランド・レボリューション)と試合後に。6月18日BCプレース

 

試合後にトロントFC遠藤選手と握手。「彼の熱さっていうのも伝わってきた」と話した。6月29日トロントFC戦(ACC)

 

ファンに絶大な人気。サインを求められることも多い。8月12日サンノゼ・アースクエイクス戦

 

The Man of the Matchを獲得。7月16日オーランド・シティSC戦

 

 

読者の皆様へ

これまでバンクーバー新報をご愛読いただき、誠にありがとうございました。新聞発行は今号をもちまして終了いたします。

しかし、日系コミュニティーに支援されて41 年余り続いてきた新報を存続させたいとの思いから、オンラインによるウェブサイトでの情報発信を継続することになりました。

SNS を含むオンラインは、弊紙で記者をしておりました三島直美と西川桂子が、責任者として引き継ぎ新体制で再出発いたしております。

2020年7月1日より公開されました新バンクーバー新報サイトは以下となります。

今後も引き続き、ウェブサイトの閲覧をよろしくお願いいたします。

https://www.vancouvershinpo.ca/